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ナルスズカ

 自分で作った蝶ネクタイを指差して、ラシッドさんへ確認してみる、アギーラです。


「ねぇ、ラシッドさん。僕がしてるこれって…なんて言いますか?」

「そんな大きなものは知らないけれど、いわゆる社交パーティーなんかで貴族が身に着けるようなものは『ボウタイ』って言うんだと思うけど…」

「変な事、聞きますけど…、『蝶ネクタイ』って聞いた事はありますか?」

「チョウネク?…ないなぁ。でも、僕はそういう装飾品に疎いから…他の人に聞いた方が良いよ」


 何人か、孤児院で働いているらしきご婦人に聞いてみる。

 どうやら今日一日で僕の顔はだいぶ認識されたらしく、ニコニコと答えてくれる。

 みんな、一律に「サイズは大きいけど、それはボウタイね~」、だって。


 あの黒髪の女の子…絶対、『蝶ネクタイ』って言いかけてたと思う…。変な言い方だけど、その言葉だけ日本語で聞こえたんだ。


 もしかして、あの子…


 ◇◇◇


 バザー二日目。

 午前中はラシッドさんが大量生産したナイフの販売のお手伝いをして、午後は『人工魔石あてっこ大会』の司会進行。

 転移者の事は気になるけど、こっちも大事だもん。

 今日も忙しくなりそう。


 今日はシーラさんから借りた鉱物の人工魔石をお披露目するんだ。

 まだまだ、鉱物の人工魔石を知らない人も多い。

 ここでお金持ちさんの目に留まったりすれば、注文品の魔道具に使いたいって人が現れるかもしれないし…ちょっと、いや、だいぶ鉱物人口魔石の宣伝も兼ねてるんだよね。


 人工魔石の保管を、ナイフを販売しているラシッドさんに任せてしまっているので、ラシッドさんはナイフの販売ブースを全く動けない。

 景品の事や、会場をもう少し大きくするという教会の運営陣との話し合いなんかで、時間は刻々と過ぎていった。


 たった昨日一日だけの事なのに、バザーの入口に置いた寄付をしてくれた人への御礼の名入れ、あの書板の成果は絶大だった。

 寄付の問い合わせが殺到したらしい。


 今日は午後から一時間単位で、『人工魔石あてっこ大会』をすることになっているので、景品の数も凄い事になっている。

 なんと子供用の参加賞やら上位者にまで景品がつくことになったりして、景品がどんどん増えて…持ち込まれてきても管理に人手が足りず、正直僕だけじゃパンク寸前だよ。


 景品を午前中だけでも見張っててくれる人員が欲しいけど…そんな事を景品を運んできてくれるご婦人に話したら、孤児院の先生だという若い女性が、まだ小さいけれどすっごくしっかりした子供を、見張り番として連れてきてくれるっていうんだ。

 僕は大きかろうが小さかろうが、犬人だろうが猫人だろうが…なんでも良いからお借りしたい。

 ありがたくその申し出を受けた。


 連れてこられた小さい子…それは昨日、僕のボウタイを見て『蝶ネクタ…』と言いかけてた女の子だった。

 

「昨日は院長室で失礼しました。ベルと言います。こちらのお手伝いにきました。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。僕は、アギーラと言います。お手伝い、ありがとうね。あっちの…ナイフを販売しているブースにいる男の人が見える?あの人はラシッドさんです。もし何かわからないことがあったら、僕かラシッドさんのどちらかに聞いて下さい。とりあえず、12時過ぎまでお願いしたいんだけれど、大丈夫かな?」


 そう言って、ここで景品の見張りをしていて欲しいと説明すると、大きく一つ肯いて、背負っている袋を脇に置いた。

 …あーっ!それナップサックじゃないか?


 僕が頼んだわけでもないのに、ついでだからと景品の整理をしてくれる事になった。

 何も指示していないのに、余っている書板に白炭で、名前やら景品名と説明なんかをサラサラと書いて、きっちり分類し始める。


 運び込んでくれる人とも知り合いらしく、話が早い。

 カオスな現場は無事に落ち着きを取り戻した。

 …これは見た目は子供、頭脳は大人な、あの某名探偵アニメな大人子供みたいじゃないか。


 貴族と商人の景品を交互に入れて景品の順番を決めていくと、書板に①②③とさっさと番号をふり並べ替え、景品の中に埋もれて大人しく座っている。

 新しく景品が来たら書板に詳細を書いておくので、たまにこちらに来てバザー会場の入り口に出す札を作って欲しいってさ。


 知り合いがたくさんウロウロしているので、悪い人はここへは入って来れないと思うけれど、何かあったら笛を吹きますと言って、ナップサックから笛を出して首にかけている。

 なんて手際の良い子供…。


 ◇◇◇


「お疲れさまでした~。凄く助かっちゃった、ありがとうね」


 そういう僕に、ベルちゃんはぺこりと頭を下げて孤児院の方へと戻っていった。

 午後もお願いできないだろうか…ちょっと頼みに行ってみようかな…。


 できれば、転移者かどうか…確認したいけど…。

 見た目に反してすっごい極悪人だったらどうしようとか…色々考えちゃって。


 それにさ、いざとなったらなかなか声をかけられないもんだよ…なんて声をかければ良いのかもわかんないし。


 ◇◇◇


 午前中でラシッドさんのナイフは見事完売。

 販売ブースを一緒に片づけてから、ステージ脇で持ってきた昼食を食べる。


 午後のお手伝いも頼めないか孤児院に行って聞いてみようと、腰を上げた時に、ベルちゃんのナップサックが目に入った。

 しっかり者だけど、ちょっと抜けてる…置き忘れて戻っちゃったらしい。


 ラシッドさんに人工魔石と景品の見張り番と、明日の分の景品がすでに届き始めているので、受け取りをお願いして、孤児院の建物へと向かった。


 ベルちゃんを探す口実にもなるし…ちょうどいいや。

 なーんて思いながらナップサックを手に取って…何気なく背面に刺された小さな刺繍を見てしまった。


 ナルスズカ


 ナルスズカ…?

 …おいおいおい。これ、カタカナじゃないか…名前…だ…よな?


 蝶ネクタイと言いかけた事や、カタカナの刺繍が入ったナップサック…。

 ベルちゃんは日本からの転移者に違いない。


 話しかけてみるべき?もっと探るべき?

 ぐぬぬ…これは難題。

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