沈黙は金を通り越して命、かもしれないから。
「第一回の勝者への景品は、こちらの洗濯板、なんと太っ腹!サイズ違いを両方セットにして頂きました~!!こちらはミネラリア中央広場で食料品店を経営している…」
蝶ネクタイ君の司会のもと始まった『人工魔石あてっこ大会』。
子供相手に洗濯板って!って思ってたけど、ちょっと欲しくなってきちゃった、ベルこと成留鈴花でございます。
あれ?そう言えば洗濯板って洗濯板よね?
わいわいと景品の話をしてる年長者の一団の横で情報収集よ。
「洗濯板って最近売り出されて、すっごく人気があるらしいよ」
「そうそう。凄い汚れが落ちるらしい」
「へぇぇ、便利そうね」
「洗濯時間がすっごく短くなったって」
「職業訓練所にあったから使わせて貰ったけど、控えめに言って超便利だったわ」
「孤児院でも買ってくれないかなぁ」
「そうだよ。何個かあればみんなで使いまわせるしね」
「でも、高いんじゃない?」
「いや、魔道具の方じゃなきゃ、良心的な値段だって言ってた」
「魔道具の方もかなりお安めらしいけどね」
「えー、じゃぁ買って欲しいんだけど~!アリー先生に言ってみようか?」
「私、もうすぐ孤児院卒業だからさぁ、個人的に手に入れたいんだよね~…」
「ね、それよりさぁ…あの子、すっごい可愛くない?」
「「「あたしもそう思ってた~!」」」
ふんふん。洗濯板は大人気。蝶ネクタイ君も大人気。
私もガチで狙いに行きますよ!
いや違うからね…蝶ネクタイ君じゃなくって、洗濯板のほうだってば…。
蝶ネクタイ君は、ドワーフさんだと思われる若い男性と一緒に、大きな台の上に石を置いてゲームの用意をし始めている。
石の後ろには書板が立てて置いてあって、大きく番号がふってある。
…?
…ん?
…あれれ?
明らかに一個だけ光ってるんだけど。
…これ、もろわかりじゃない?
あぁ、これはあれか…引っかけ問題か。
「では、この中に一つだけ人工魔石がありまーす。人工魔石を当ててね!さて、どれを選ぶか…みんな、決まったかー!!」
…「「「「「おー!」」」」」…
上手い具合に会場を盛り上げている蝶ネクタイ君。
子供達が大騒ぎしてるから、周りの大人たちも自然とゲーム大会に目がいっている。
最初にバザーの身内というか、孤児院の子供達だけでゲームをしたのは大成功だね。事前に主旨を説明されてたから、我らノリノリだし。
「1番の石、これが人工魔石だと思う人、手をあげて~!」
5番の石、めっちゃ青く光ってるんだけど…。
え?ラナは2番に手をあげてる。
やっぱり引っかけ問題かなぁ。
でも、こんな露骨な引っかけ問題ってあるのかしら…。
「ラナ、ラナ、なんで2番にしたの?」
「え?勘に決まってるでしょう?」
「見た目じゃなくて?」
「見た目なんて全部同じ石っころだもん。ベルって面白い事言うよね…裁縫疲れ?」
「あはは、そうかも…」
◇◇◇
「とうとう最後の二人になりました、『第一回、人工魔石あてっこ大会』。勝てば洗濯板の大小セットが貴方のものに!さて、この二つの石、どちらかが人工魔石です。さぁ、どっちだ~!」
蝶ネクタイ君、めっちゃテンション高い…そして、めっちゃシッポがモフモフしてる。素敵な冬毛だね…犬人族かな。
年長者の男の子が先に選んでいいって言ってくれたから、もちろん光る石を選ぶ。
この石は赤く光ってる。
引っかけ問題でもなんでもなかった…これ、間違いようがないし。
本当にみんなには光が見えてないんだろうか。
いやまぁ、こんなクイズ大会になるくらいなんだから、見えてないんだろう。
洗濯板をかっさらったら、あとは知らんぷりを決め込もう。
光って見える事でなんかメリットがあるのかと問われれば良くわからないけど、本能が黙ってろって言ってくる。
沈黙は金を通り越して命、かもしれないから。
◇◇◇
「ベル、凄いじゃない!」
「本当、びっくりしちゃった~」
「洗濯板、見せてっ!」
「お菓子も貰っちゃったんだ。後でみんなで食べよ!」
それにいつも人工魔石が光って見えるのか…今回がたまたまなのか…。
バザー期間に何度も開催するって言ってたから、ちょっと抜け出して見に行こう。
それでも人工魔石が光ってたら…何かがみんなとは違うって事よ。
ベルちゃん、どうしよう…。
一旦、人工魔石の事は忘れたふりをして、皆とわいわいしながらバザーを見てまわり、洗濯板を褒められて、お菓子を食べる。
今日は変に疲れたけど、楽しかったな~。ベッドへダーーーイブ!
…しようと思ったら…あれれ!
これは…
まーさーかーのー…
お芋ちゃんアゲインアンドアゲイン。
◇◇◇
最初に繭が置いてあったのが7月でしょ?次が9月。
そして今回は11月…。
この繭…奇数月にやってくる感じなのかしら…
はぁぁ…院長先生を訪ねるのも気が重い…。
――トントントン
「はい」
「失礼します…あ、お客様でしたか。失礼しました。また後ほど…あ!蝶ネクタ…」
「ベル、少し外で待っていてくれるかい?」
「はい。失礼しました、出直します」
「あぁ、こちらの話は終わりましたので…。では、本当にどうもありがとうございました。冒険者仲間がたいそう喜んで、御礼を伝えて欲しいと申しておりました」
「いやぁ、お役に立てて良かったです。アギーラ君、君は今回色々と大活躍だね。」
「あと二日ありますので、引き続きよろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそよろしくね。凄い評判だよ。毎年、こういうのやっていこうかって話がもう出てるくらいなんだ。鍛冶店の方々にもよろしく伝えてくれる?」
「もちろんです。でも良かった…こういう試みをされるのが初めてだって伺ってたもので、受け入れてもらえるか心配してたんです」
「大好評さ。司会が良かったのかもしれないけれど」
「あはは…あ、次の方がお待ちみたいなので、そろそろ失礼いたします。本日はお時間いただきまして、ありがとうございました」
「同じ町の住人同士だ、どうぞ今後もよろしくね」
司会の蝶ネクタイ君と、見本だって言われて見せてもらったクッションを持ってるでっかいおじさんが帰って行った。
あ~!この人たち、もしかしてクッション地獄の張本人じゃないの!?




