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いや、コンクリも東京湾もないけどね…。

 自ら掘った広大な裁縫地獄を彷徨っております、ベルこと成留鈴花でございます。

 あとね、冒険者の人から頼まれたっていうクッション…どんどん購入希望者が増えてるらしくて、クッション地獄っていう新地獄も増えたの。うふふ。

 冒険者だけじゃなくって、椅子に長く座って仕事するタイプの人なんかが噂を聞きつけたらしくてね。うふふあはは。


 そういう訳で、今日も今日とてお裁縫。

 代わり映えのない地獄に、ヤツは再び舞い戻ってきた――


 無限四つ編み地獄からしばしの帰還。

 自分の部屋に戻った私が見たのはベッドにボヨンと転がる例のブツ。

 まさかのお芋ちゃんの繭、アゲイン。


 な・ん・で?

 これ…もうお芋ちゃんは関係ない気がしてきた…。

 何度も繭を作る蚕なんて、いくら異世界でもいないと思うの…。


 ◇◇◇


 うわ~、院長先生…子供に対してその顔はないわ。

 表情筋死んでる…。

 何度目かもわからない呼び出しをくらっております、そう、ここは院長室。


 あ、普段の呼び出しは、ドラジャの搾りカスレシピを冊子にすることについての打ち合わせよ。私は覆面レシピ作家だから、院長先生とアリー先生が窓口になってくれてるの。

 子供を守ってくれるこの孤児院が好き。ぽっ。


「確か部屋が移動になったと思ったけれど…」

「はぃぃ…」


 そうなんだよね…アトリエから頂いた裁縫道具をゲットしたから、針やらなんやらを部屋に持ち込む事になって…ちっちゃい子と同室にならないようにって、部屋割が変更になったのよ。

 なのに、何故かきっちり別の部屋に移動した私のベッドにでっかい繭が…。


「あの~、蚕って一生に何度も繭を作るんですか?」

「…いやぁ、僕も詳しくないからなんともなぁ…でも、そんな話は聞いた事はないよね…」

「じゃぁ、これ…私のものじゃないと思うんですけど…」

「そう?逆にベッドの位置が変わってもベルの元に繭を運んでくるなんて…巨大蚕に気に入られてしまったとしか思えないけど…」

「だって、さすがに私が助けた芋虫はもう…」

「ぶふっ、巨大蚕の生態系に、ベルへの恩返しが組み込まれてるんじゃないのかなって…」


 いや、笑い事じゃないから…。

 とりあえず今回の繭も権利は私にあることにすると言われたけど…これ、本当に私の物で良いのかしら?


 ねぇ…この孤児院、お人好しすぎやしませんか?

 いや、この院長先生がお人好しを通り越してちょっとおかしいのかも。

 こんなのいくらでも搾取しようとしたら出来るのに…だって大金だよ?


 なんだかおかしいよ。

 ちょっと怖い方向に思考がいっちゃうんだけど…最終的にコンクリに詰められて東京湾コースとか…。

 いや、コンクリも東京湾もないけどね…。


「まぁ…冗談はさておき、この繭はサラマンダーの化身と言われている物だしね…これは精霊のいたずらかもしれない。そうだとしたら人族がとやかく言う事じゃないから…。ベルに貰って欲しい誰かさんが居るって事なら、そっとしておいた方が良いと思うんだ」


 …。

 …へ?なんですと??

 …熊さん(院長先生)よ、それは真面目に言ってるのかい?


「精霊のいたずら?」

「うん。今はあんまり聞かなくなったけど、昔は妖精なんかがよく人族にいたずらしてたって言うからね。この世界はね、精霊の箱庭なんだよ。もし精霊の一種である妖精が、ベルの元にこれを運んでいるんだったら、それを人族がとやかく言うのは筋違いなんだ」

「…読み本みたい」

「そう、その通り。『世界の始まりの物語』は何度も読んでもらったろ?あれはね、子供向けに書いてはあるけれど、この世の真実って言われてるんだ。信じてない人も多いけれどね」


 うわーぉ。

 怖い方向じゃなくって、ふぁんたすてぃーーーっくな方向だった!


 ここでうだうだ言ってもどうしようもないので、繭は院長先生に預けて製糸工房へ渡して巻糸にしてもらう事にしたんだ。

 いや、まさかここでも妖精だの精霊うんぬんが、またまた登場するとは思わなかったわ。


 巻糸、1本は私へ戻してもらい、あとは売ってもらうようにお願いしちゃった。 

 いや…特に使う予定もないんだけど、記念にと思ってさ…お芋ちゃんのかもしれないから。


 それにしても…本当のベルちゃんがぐいぐい系女子なら良いけど、静かに暮らしたいタイプかもしれない。

 あんまり目立つのは困るなぁ。


 院長先生は、私の考えを見透かしたかのように、入手先の事は上手く隠蔽するからって話をしてくれた。

 もし気付かれても、妖精が勝手に遊んでるだけの可能性が高いのはわかるはずだから、まともな人であればこの件には手出しはしてこないだろうって事も教えてくれる。

 下手に動いたら、二度と手に入らなくなるかもしれない。そんなリスクは誰も侵さないだろうって。

 

 え?またまたまたって事はさすがにないわよね…


 ◇◇◇


 手に入ってしまったボヨンビヨン・モリの糸が目の前にあると、何か作りたくって仕方がない。


 だって、髪ゴム、全然汚れないのよ!ずっとツヤツヤキラキラの真っ白キープ。

 べらぼうに高価な髪ゴムになっちゃったけど、その価値はある。

 これ、浄化作用が強いって言ってたけど…本当にその恩恵を毎日実感よ。


 あと、実はね…髪がとっても綺麗になってきたんだ…。

 べらぼうに高価な髪ゴムだけど…これはプライスレスな価値を見出してしまった。

 でも、知られちゃうと糸の争奪戦がさらにヒートアップしそうだから絶対に秘密。

 げに恐ろしきは美への執着心なのよ。


 まぁ、それはおいといて…本日の実験はこちら。

 自分の背負い袋に試しに刺繍してみようと思って。

 どのくらいの割合で糸が織り込まれれば、浄化作用が作動するか知りたいんだもん。


 そうそう、自分用のリュック型の背負い袋も作ったんだ。

 ナップサック型の背負い袋とは使い分けよ。

 もう少し大きくなったらリュックも良いかなって。

 入れる物はフワンフワの葉っぱと、森で取ってきた草やら木の実だけなんだけど。

 アトリエから貰った生地があるうちに作っておきたくてさ…こそっとね。


 ナルスズカ


 よしよし、背負い袋二つに小さく自分の名前を刺繍。

 カタカナで入れちゃった。

 大丈夫よ、もちろん背中側にひっそり入れてるだけだからバレないもん。


 あとは髪ゴムをもう一本作って良い事にしよっと。

 サラマンダー様の色、赤のビーズを今回もしっかり編み込んで…完成!


 あ!髪ゴムいっぱいつけたらどうなるんだろ。

 もしかして、すっごく浄化されて美しすぎる少女に…いや、そんな事しないわよ。あ、あったりまえじゃない!


 しないわよ…






 たぶん…

誤字報告ありがとうございます。凄く助かりますm(_ _)m

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