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生産職あるある。

 シーラさんとガイアさんがラシッドさんを招いた食事会。

 食後のお茶を飲みながら、お酒がまわったらしい三人はまったりと寛いでいる。


「あの…この椅子に敷いてるこれ、どこで買ったんですか?すっごく座り心地が良くて…」

「おぅ、ラシッドもはまったか。これ、アギーラが発明したんだぞ。まだ売りものじゃないが、教会のバザーで販売できる目処が立ってな」

「え!そうなんですか?…絶対買わなくっちゃ。作業用の椅子にこういうのがあったら良いなって、実は座った瞬間からずっと思っていたんですよ」


 シーラさんが笑いながら、馬車ぴえん事件から旅の道中の馬車話をして、クッション誕生秘話をラシッドさんに話してる。

 それから、頼まれた数が多すぎて、僕が作り切れなくなってガイアさんが孤児院に縫製を頼んでくれたなんて事も。

 バザーで販売するに至った経緯の犯人は、ガイアさんじゃないかって…言われてみれば確かにそうかも。

 

 僕は少しずつ作り置きしているシートクッションを、グスタフ親方の分と言って2枚ずつプレゼントした。

 鍛冶工房にしてる洞窟用も抜かりなくね。

 堂々とワイロを渡す、アギーラです。


 ガイアさんの親しい人にだけでも、少しでも早く渡してあげたくて、僕も暇を見つけてはちょこちょこ作ってたんだ。

 グーチョキパがもの凄い早さで取得できたしね。

 どうやらグー舎の事務職員にまでクッションの噂は届いていたらしい。

 

 クッションって前々からある物だから、グーチョキパの申請時に登録名の事なんかで事務の人と話合いがあったんだけど、「お噂はかねがね。販売されるの、僕らもすっごく楽しみにしてるんですよ」だってさ。

 

 インターネットも、いや、テレビも新聞も…電話すらないのに、なかなか噂のまわりが早いよな。

 異世界人…もしやまさかの噂好き?


 実際に売られているところを見てみたいから、教会のバザーに僕も行ってみようかな~、なんて話をしていたら、ラシッドさんがバザーの事で、是非アイデアを貸して欲しいって言ってきたんだ。


「実はね…僕の独立が近いって聞きつけて、鍛冶店にバザー出店の打診があったんだよ」

「え!注文品専門店なのに?ラシッドの作ったものもすでに紹介制販売でしょう?」

「そうなんですけど、そこをなんとかって言われて…僕が大量生産した小型ナイフを、数量限定で販売する事になったんだ。昔は大量生産の勉強もしてたから、それは全然かまわないのだけれど。鍛冶って…つまらないでしょう?地味だから…」


 生産職あるある。

 悲しいほど、地味。


 僕からしたら鍛冶なんて、火を使うんだから十分に派手だと思うけど…まぁ、バザーで火を使っての実演は危険だから他の作業になるよね…うん、残念。


「教会のバザーだからさぁ、横にある孤児院の子供もたくさんお手伝いに来るらしいんだよ。だから店頭で子供が楽しめるような、何か出来たら良いなって思って。まさか、鍛冶をする訳にもいかないし、メンテナンスは地味だし…。おそらく、ナイフはすぐに売れちゃうと思うんだ。もうかなりの数の問い合わせがきているしね。だからその後の店舗を使って、何か出来ないかなって。子供が楽しめそうな…何か、いいアイデアはないかい?」


 孤児院にはガイアさんがクッションの件で、何度も足を運んでくれてるはず。

 お世話になってることだし、一肌脱ぐのもやぶさかでないぞ。


 聞いたところによると、この世界の孤児院って何というか…すっごく運営がきちんとしてるらしいんだ。

 困窮してる感じもないし、決して贅沢はしていないけど、みすぼらしい格好をしていたり、食べる物がなくて困ってる、なんて事もないんだって。

 バザーも無理矢理お手伝いさせられてるというよりは、楽しんで参加してるって感じらしい。

 

 悲壮感漂う孤児に、児童労働を強いる僕とか…実は色々頭によぎってたもんだから、この話を聞いてすっごく安心したんだ。

 この異世界は子供の独り立ちが早い事もあって、子供は労働力になると認められた時点で、どんどん仕事をするのが当たり前だから、労基法もなにもないんだけどさ。

 なまじっか地球の認識があるから、ドギマギしちゃってたんだよね。


 ぼけーっとそんな事を思ってたら、ラシッドさんは何やらシーラさんに話をしている。

 ラシッドさんはちゃっかりと、僕を販売のお手伝いへと駆り出すことに成功していた。

 まぁ、どっちにしろバザーには顔を出すつもりだったから、これが授業料の一部になるのならなば喜んで!むしろありがたいってもんだよ。

 

 ラシッドさんも、そういう気持ちで声をかけてくれたんだと思う。

 ここはご厚意に甘えましょう。


 子どもが楽しめる事かぁ…なんかないかな…


 ◇◇◇


「ラシッドさん、鍛冶店って人工魔石の魔力測定器具ってありますか?」

「もちろん。僕はお目にかかった事はないけれど、剣に魔石をはめ込んで使う色魔法の使い手が昔はいたらしいからね。一応は作れるようにって勉強はしてるんだ。だから、僕個人でも持っているよ」

「じゃぁさ…『人工魔石あてっこ大会』って、どうかな」

「ん?なんだい、それ」

「魔石って一見するとただの石っころでしょ?だから、普通の石と人工魔石を何個も並べて魔石を当ててもらうんです」


 ラシッドさんは、ずずいと前のめりになって僕に話を促した。


「ラシッドさんの販売品が売れてしまったら、そこへ子供達に集まってもらうんだ。最初は孤児院へ直接声をかけても良いかな。事前に内輪で話を通しておけばスムーズに進行できるから、盛り上がりも違うだろうし。集まった子供たちの前に…集まってくれた人数で石の数は変えますけど…例えば石を五つくらい並べるんです。一つは人工魔石で、あとの四つはただの石っころ。どれが人工魔石か…自分がそうだと思った石に挙手してもらう。正解した子供達にさらに同じことをして…最後の二人になったら、石を二つ並べて決勝戦…こういうの、どうですか?」

「なるほど。面白いね…」

「景品を用意して勝者にはプレゼントしたら盛り上がりそう。景品があった方がみんな参加してくれるだろうし」

「それおもしろそうじゃない。大人は参加できないの?」

「良いですけど…大人が参加してくれるかなぁ。あ、鉱物の人工魔石でやったら見た目が綺麗で楽しめそうですね。もしシーラさんが協力してくれるなら、鉱物の人工魔石でするのも良いかも。鉱物人工魔石の宣伝にもなるし…」

「それ良いわね!面白いわ。まだ、魔力を注いでない鉱物もたんまりうちにあるからさ…ラシッド、これ、やりなさいよ!」


 そうそう、タンデムの魔石生産人、リブロさんが自ら見つけたっていう魔力が注げた石。

 明るい緑色でラメが入ってるみたいなあの綺麗な石…、あれ、やっぱり鉱物だったって鑑定結果が早馬便で届いたんだ。

 これで、冷蔵庫風な魔道具にはめ込む人工魔石が決まったって、シーラさんも仕上げに余念がない。

 

 リブロさんは、タンデムの冒険者ギルドにクエスト依頼をして、冒険者を雇ってあの鉱物の発掘をする事に決めたらしい。

 リブロさんが発掘を決めたなら、少ししたら流通し始めるんだろう。

 良い宣伝になるから、これは是非とも使いたいね。


 僕は当日の販売のお手伝いに加えて、『人工魔石あてっこ大会』の準備と司会進行もおおせつかった。

 こうやってね…ラシッド先生を徐々に絡めとるんだよぉぉ…ぐふ、ぐぅぐるぅぅ…

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