いやもう、下心がすっけすけで丸見えちゃってるんだけど。
まさか魔法付与を持つ人が、シレっとこんなに近くに居るとは…。
僕の探していたのは貴方なのです。ぐるぅぐぅぅ。
唸りまくり、アギーラです。
「もちろん魔法付与の痕跡もだけど、ここのポケットの裏側に縫い取りがあるだろ?ほら、ここ…」
「ほんとだ。グリュック作だって。今の今まで気付きませんでした!」
「えぇ!?アギーラ、これ…読めるのかい?」
「え?あ?…これ、文字ですよね?」
「でもこれ…魔法付与で使う文字で…」
ギクーーーッ!言語スキルのおかげで何でも読めちゃうから、つい普通に読んじゃったじゃないか!!
「グリュックさんって、この国でも指折りの道具への魔法付与ができる職人さんなんだよ。他の人が作ったものにも付与ができる人でね…魔法付与ができる人達の間ではとっても有名な人なんだ。跡継ぎの息子さんを亡くされてから、作品を作る事が少なくなってしまって…。そうか、お店も閉めてしまったんだね…王都へ行ったら、いつもお店を覗くのを楽しみにしていたのだけれど…」
シーラさんと同じような事を言ってる。
「でもこれ…付与が凄いね…。夏は涼しく冬温かくみたいな温度自動調節と、防御と布地耐久と自動浄化…」
「やっぱり…」
「やっぱりって?」
「頂いた時に、防御と布の耐久性の事は聞いてたんですけど…このワークエプロンをしてると、夏なのにやけに涼しくて。旅の後半はすごく快適だったんだ」
そして…僕は決心をして、自分も魔法付与スキルがあることをラシッドさんに伝えた。
話の整合性が取れないので、実は記憶喪失で倒れていたところをシーラさんに助けられて、そのまま弟子にしてもらった事なんかもね。
この歳まで魔法付与なんていう高位固有スキルがあるのに、まったくの無知って…おかしいでしょ?
ちょっと迷ったけど、このチャンスを逃すわけにはいかない。
何が何でもラシッドさんに、魔法付与の事を色々と教えてもらいたい。
「ラシッドさん、あの…これから独立する忙しい時にお願いするのも気が引けるんだけど…少しで良いんです、僕に魔法付与の事を教えて貰えませんか?」
「え!僕?」
「はい。ダメでしょうか…」
「いや…だって僕は鍛冶師だからねぇ。道具職人で魔法付与を持ってる人にお願いしたほうが絶対に良いと思うよ」
「基礎だけで構わないんです。僕はシーラさんの弟子を辞める気がないので、他の人の弟子にはなれないですし…」
「あぁそうか…確かに僕も大変だったなぁ…」
「やっぱりそうなんですね…シーラさんも付与を教えてくれる人を探してくれてるんだけど、なかなか…。あと、お礼があまりできないのが心苦しいんですけど…。出世払いか、僕が発明した道具や魔道具なんかでお支払いするって事で如何でしょうか。この間の洗濯板、魔道具版もあるんですよ。それに今、取り組んでる道具もありますし…」
僕のアピールポイントを全開でお願いする、洗濯板だけだけど…。
弟子じゃなければラシッドさん側のメリットは何もないからね。
必死です、僕。
「なんだよ~その魅力的な提案は!あの洗濯板さぁ…すっごくありがたく使わせてもらってるんだ…親方にも羨ましがられててね。まぁ、今は共同で使ってるんだけど」
「あ、それなら何枚かお渡ししますが…洞窟の方にもあると便利ですし。サイズ違いもあるんですよ」
「え!本当に?うーん…でも教えるとなると僕なんかじゃ、ちょっとなぁ…」
「あの…決して片手間にって考えではない事はわかってもらいたいんですけど…僕自身も今は魔道具の修行でいっぱいいっぱいで…あんまり魔法付与の訓練にばかり時間はさけません。だから週に1~2日で、ラシッドさんの都合に合わせて、ほんの少しだけお時間いただければ…」
なんならクッションも追加で付けます…いらないか!!
「うーん…師匠にはなれないけれど、先生くらいにはなれるかなぁ」
「是非お願いします!ラシッド先生~」
「やめてよ。もう独立したも同然だから、弟子を取るのも自由にして良いって言われてはいるけれど、きちんと親方にも許可を取りたいからね…返事はその後でも良いかい?」
もちろんですもちろんです。コクコクと肯く僕を見てラシッドさんは話を続ける。
「僕が魔法付与できるのは、自分で作成した鍛冶の物だけなんだ。だからアギーラが参考にするにはちょっと違うって感じる部分も多いと思う。本当に基本の基本だけになるけど…」
僕はシーラさんとガイアさんに、ラシッドさんの固有スキルの話をしても構わないかと尋ね、了承を得た。
「それにしても、大変だったんだね。シーラさんは何か事情があって見習いになったって言ってたけれど…そうかぁ。その…具合の悪いところなんかはないの?」
「はい。薬師さんからも問題ないってお墨付きを頂いてます」
「そう…もしかしたら、魔法付与の言語が記憶の片隅にあったのかもしれないね」
「思い出せないことも多いので…親方さんから許可が頂けたら、しっかり基本から教えて欲しいです…」
「そうだね。話をしているうちに何か思い出すかもしれないし…うん、親方に話しておくからね。それにしても、良い人に助けられて本当に良かったよねぇ…」
勝手に納得してくれているラシッドさんに罪悪感を感じながらも、大収穫で看板のない鍛冶店を後にした。
◇◇◇
次の日の夜、ラシッドさんがうちにやってきた。
シーラさんもガイアさんも、僕からラシッドさんの魔法付与スキルの話を聞くなり大喜びで…二人してラシッドさんを懐柔すべく豪華な食事やお酒を用意しまくってくれた。
親方さんにもお酒のお土産なんか用意してるし…。
二人とも、ラシッドさんはとってもいい人だし、彼だったら安心して任せられるから絶対に捕まえようって…なんか僕が婚活してるみたいじゃないか…。
いやもう、下心がすっけすけで丸見えちゃってるんだけど。
人の良いラシッドさんはそんな事をしなくても、親方の許可をちゃんと取ってきてくれたし、僕で良ければ基本だけでもって言って、ちゃんと引き受けてくれたんだ。
話は今日の本題、ラシッドさん独立後の身の振り方に移る。
でもね…未だにお店を任せられる従業員が見つかってないんだって。
前途多難。
親方は忙しすぎて店番までは出来ないし、従業員を見つけてから仕事を教えて…ラシッドさんも従業員を見つけてから一年くらいは今のままで、ミネラリアにいるのは確定みたい。
自分の事で悪いけど、ほっとする。一年あれば基本の基本のキ、くらいは学べるかも!
「職人の事はよくわからないが、ミネラリアは大きな町だし…特に今は久々のダンジョン出現に盛り上がってるだろ?なにも他の町に行くなんて考えなくてもいいんじゃないのか?」
「でもダンジョンが出来たからこそ、既に家賃が高騰し始めているんですよ。僕が優柔不断だったのがいけないのだけれど、すでに値がどんどん上がっていて…」
「ね、私が師匠に独立を許可されてからしばらくやってた方法なんだけど…グスタフさんのお店で間借り方式で販売したらどう?自分の銘で作ったものを販売させてもらうってのはダメかしら?今とほとんど変わらないけど…どうせ、後継弟子なんだから構わないじゃないの」
「グスタフ親方は、もう新規の顧客を取るつもりはないんだろ?同じ店舗だって違う路線で販路は確立できるじゃないか」
確かにそれなら店舗代もかからないし、これからのミネラリアの住宅事情を考えると名案じゃない?
…待てよ。僕も、住宅が借りづらくなるって事じゃないか…。
実は、僕の道具作りの材料なんかが多すぎて、ちょっとシーラさんの作業場が手狭になってきてるんだよね。
これも考えないといけないんだった。
住宅事情まで厳しくなるとは…ダンジョンめ…。
「いや…そこまで親方におんぶにだっこは…」
「正直、販路も何も噂を流せばみんな飛びついてくるんじゃない?まさか魔法付与を隠し持ってるなんて思わなかったけれど…それがなくても十分にやっていけると思うわよ?」
「おい、絶対やめとけよ。噂なんて流してみろ…とんでもない事になっちまう。これからどんどん冒険者がこの町に入ってくるんだぞ」
「あ、そうか。今後数年はお祭り騒ぎだものね。鍛冶店って需要が凄そう…やっぱり紹介制は続行ね」
「あぁ。魔法付与なんて隠し玉を持ってたら、どこでだってやっていけるだろうけどな…あの気難しいグスタフ親方と上手く関係を築けてるんだから、何も他へ移る事は無いんじゃないか?」
二人とも僕の援護射撃と言わんばかりにミネラリア推しが凄いんだけど…僕も援護射撃の援護射撃しよっと。




