魔法付与スキル持ちさん、見ぃつけた。
まさかの妖精判定、アギーラです。
一時は実は魔獣なんじゃなかろうかと疑ってた事もあったから、多少マシ…いや、マシってなんだよ…。
最初はすっごくショックだったけどさ…よく考えたらあまり見かけない種族だけど、エルフの血が入ってるっていうグリンデルさんやドワーフのラシッドさん、ラシッドさんの親方さんと同じような感じでしょ?
厳密に言うと僕は妖精だそうだから分類は違うみたいだけど…それでも、おなじ精霊族だもんね。
そう考えたらすっごく気が楽になったんだ。
今日はまたまたガイアさんとギルドへ来ております。
ちょっと僕の目がギラついてるのはご愛敬。ギルドギルド…ぐるぅぐぅぅ。
グリンデルさんから、僕が幼生かもしれないと聞くと、ガイアさんはあっさり肯いて「このアンバランスさは、危なっかしくて見てられなかった。俺はまだ幼いんだろうと思ってたから」って言ったんだ…。
僕を見てみんなが子供扱いするのはどうもそのせいらしい。
アンバランス…しょんぼり。
しかもそのせいで、ガイアさんがさらに過保護になっちゃって…今日もギルドへ付き添いで来てくれてる。
そうそう、グリンデルさんから貰ったボールで毎日ジャグリングしてたら、勝手に水が出ちゃうなんてこともなくなって、自分で魔力をコントロールできるようになってきたんだよ。
仕組みは理解不能だけど効果はてきめん。
そう何回もお漏らししてなるものか。
いや、一度もお漏らしはしてないけどねっ!
ギルドカードに魔力を流しに来たんだ。
登録した時は魔力覚醒がまだだったから、僕の血液で登録したんだけど、無事に魔力が覚醒したからね。さっそくお邪魔しております。
決して決して、ギルドを舐めまわすように見たかったからだけじゃないんだ!
これでこの大陸中のどこのギルドでも、入出金…カード内のお金の残高確認なんかができるようになるらしい。
僕の洗濯板の分の入金はもう少し先みたいだから、まだ何も入ってないけどさ。
あ、これって残高確認という名の下に、ギルドに入り浸れるって事じゃないか!にま~。
おねだりクエストの『頬袋ビック栗鼠』が気になって仕方がなかったらガイアさんに聞いてみたら、なんとこのビック栗鼠って魔獣、マジックバッグの原料なんだって。
買取金額は右の頬袋が金貨5枚からで左の頬袋は時価。
左右でお値段が違うのは右頬が時間経過あり、左頬が時間経過無し。
マジックバッグって普通に時間経過があるタイプもあるんだなぁ。
勝手に時間経過がなくて入れたものは劣化しないってイメージだった。
もちろん、時間経過がないほうが良いけど、大きい家具や材木、石材なんかの時間経過があまり関係ない素材を運搬する仕事をしている商人なんかには、時間経過無しのマジックバッグより安く手に入るから人気なんだってさ。
例えば、タンデムの魔石生産人のリブロさん。岩石や鉱物を探しに行く時に、もし右頬袋があったら便利だと思わない?
安いって言っても右の頬袋だけで金貨5枚から…日本円で五百万円からって事なんだけどさ。
高っ。
頬袋ビック栗鼠は魔獣にしては超小型でね、とにかくすばしっこいんだって。
一気に刀をふるって殲滅なんてもっての外だよ!
小さい体だもん、頬袋が傷ついちゃうでしょ?あとは火を放つのもダメ。ちょっとでも頬袋に傷がついたらおじゃん。
水攻めが良いかと思うけど、色魔法がさびれた今、そんな事出来る人はいない。
ただでさえ珍しい魔獣なのに捕獲が凄く大変で、価格沸騰は仕方のないところ、なんだって。
でも、一度手に入ればずっと使えるものらしい。だから手に入れた人たちは、一族で代々受け継いで使っていくらしいよ。
魔獣の体内の魔石は急所って話だったでしょ?
その急所を突いて一気に仕留めれば、間違いなく良い状態で仕留められるけど、なかなかそうはいかない。
だって、魔石の位置は魔獣の個体によってばらばらで位置がわからないからね。
本当にこればっかりはたまたま射貫いた弓矢やら、投げたナイフやらが上手く魔石にあたったとか…そういう運ゲーみたいな捕獲方法らしい。
ガイアさんは大剣使いだから、まず捕獲は無理だって。
ガイアさんなら手で握りつぶせそうだけど、そんな状態で無傷な訳ないもんね…残念。
僕、投げ網はどうかなって思ったんだけど。
よく考えたら森で投げ網…失敗するイメージしかない。
ガイアさん、そんなに笑わなくたって良いじゃないか…。
そんな話をしながらも、さっさとギルドカードへの魔力登録を済ませてギルドを出る。
僕はガイアさんとここで別れて、今から看板のない鍛冶店へ行くんだ。
僕のナイフを作ってくれたラシッドさんに、旅行から帰ったらナイフを見せに来るようにって言われてたからね。
◇◇◇
シーラさんからのお土産のお酒、タンデムで買った大地原酒というお酒を持って鍛冶店へ。
「こんにちは。シーラさんの弟子のアギーラです。お邪魔します!」
そう大声で言って、看板のない鍛冶店の戸をくぐる。
なんだか黙って入るのって勝手に民家に入り込むようで、ちょっと居心地が悪いんだよね。
奥からラシッドさんが出てきた。
「やぁ、アギーラ。旅は楽しかったかい?」
「はい、とっても!あ、これ…シーラさんから…」
大地原酒を渡すと大喜びで受け取ってくれる。
みんなお酒が好きだなぁ。
この世界、娯楽がないからね。お楽しみはお酒!って感じなのかもしれない。
「あの、『今週ならいつでも夜ごはんを食べに来ても大丈夫だけれど、ご都合は如何?』ってシーラさんからの伝言です」
「あ、本当に?じゃぁ、早速明日にでも伺おうかなぁ。7時頃には伺いますって伝えてくれるかい?」
ナイフの状態を見てもらう。
変な癖もついてないみたい。まぁ、まだそんなに使ってないんだけだけど…。
魔獣の毛皮を大量に切った事を話すと、油脂が付きにくいコーティングというのをしてくれる事になった。浄化のかかってないものや、処理が下手な毛皮なんかを扱っても手入れが楽なようにしてくれてるみたい。
すぐに終わるというので、このまま出来上がりを待つことにする。
ナイフのメンテが終わって、少し雑談タイム。
「そのワークエプロン、すごく似合ってるじゃないか。旅先で買ったのかい?」
「買ってはないんですよね…。実は王都の露店で魔法付与の…………。すっごく気に入ってるんです」
「…悪いんだけどさ、ちょっと見せて貰えないかな」
ラシッドさんに渡すと、舐めるように裏地を見つめて、魔道具の図案を引く時に使うペンのような物を持ち出して、何やらペン先で布地をなぞりだした。
あれ?なんだろう、今、布が少し光ったような…。
「これをくれたって…その露天商はどんな人だった?」
「すごい感じのいいおじいちゃんでした。なんでも王都でお店をやってたんだけど、お店を畳んで国外にいる娘さん家族のもとへ行くから、荷物減らしで露店で色々売ってるって話でしたけど」
「そう…。これ…すごく高名な人の作品なんだよ」
「え?見るとわかるんですか?」
「痕跡もだけどこれはサインがあるから…いや、それにしても見事な作品だよ。…実はね、独立の際の目玉にしようって親方と話してて、みんなにはまだ言ってないのだけれど、僕、固有スキルの魔法付与を持ってるんだ。いや~、とても良いものを見させてもらったよ。ありがとうね」
魔法付与スキル持ちさん、見ぃつけた。
僕の探していたのは貴方なのです。ぐるぅぐぅぅ。




