これはあれだな、残念画伯ってやつ。
何故、私にも招集がかけられたのかは不明だけど、裁縫親衛隊に混じってシュシュとポンポンを量産しながら、アリー先生の話を聞いております、ベルこと成留鈴花でございます。
話を聞きながら手は休めるなだって…やっぱここ、地獄。
「それでね、冒険者の方が、孤児院を訪ねていらしたんだけど…クッションを作って欲しいそうなのよ」
「クッションって…そんなに需要がないんじゃない?」
「それがね、綿クズなんかを詰めるクッションじゃないのよ」
「でも、クッションって飾りでしょ?売れるかしら…」
「詳しい内容に関しては、グーチョキパの関係でまだちゃんと聞けてないの。でもね、もう何人もが欲しいって言ってきてるらしくて…」
「貴族が?」
「それが違うのよ、冒険者がダンジョンや馬に乗る時に使うんですって」
…「「「へぇ~」」」…
そう言えばクッションって見た事はあるけど、触った事がないなぁ。
院長室にもギルドにも置いてあったもん。触ってないけどたぶんあれのことだろうと思うんだけど…。
普通の中綿の感触かなぁ?自分が思ってるものと違うものかも知れないから、これは聞いてみないと。
「クッションってどんなの?」
「あら、ベルはまだ見た事なかったかしら…贅沢品だものねぇ」
「あ、院長室にあるかも。ちょっと借りてくるよ」
レイラが立ち上がって、部屋を出ていく。
代わりに行くと言ったら、手を運針のポーズにしてニヤリと笑って部屋を出て行った。
はいはい…。
シュッシュポッポ…。
違う…シュシュとポンポン、頑張りまーす。
そう、そう言えば、ウェービーメェメェで作るシュシュと四つ編みの髪ゴム、孤児院で作って商業ギルド経由で通常販売する事になったんだよね。
発明者の私にも、なんかしてくれてるらしい…。
アリー先生とサワットさんが、なんかちゃんとするって言ってたもん。
いや…ちゃんと聞こうと思ってたんだけどさ、私も忙しいからね…色々。
森に行って超人ハ〇クを見たり…色々。
ともかく、売れれば私にもお金が入るって事なのよ…ベルちゃん、やったわ!
レイラがクッションを持って戻って来た。
わ…硬い!
多少硬い方が良い場合もあるけど…そういうレベルじゃないやつよ、これ。
なんでもあんまり質の良くない綿の綿クズがぎゅ~っと固まっちゃうらしい。
完全にお飾り専用商品だね。
えーっと、これ…売れるかな?
「これって…売れるのかなぁ…」
「ほら、ベルも同じ事言ってる」
「…ともかく、寸法は伺ってあるし、イメージが湧きやすいようにって、お借りしたカバーもあるから…とりあえず既にお知り合いの冒険者の皆さんに頼まれたっていう個数分だけでも、ね?」
「冒険者がダンジョンで使うって…布地の指定とかあるんじゃない?」
「特に布地の事は考えてらっしゃらなかったみたいだから、こちらから数点ご提案したの。その中から決めて頂いてあるわ。あとはダブルステッチかトリプルステッチ…とにかく丈夫な作りにして欲しいって事と、外カバーと内カバーでカバーそのものも二重にして欲しいって言われているだけだから…寸法通りにまず作ってみましょうよ。それに加えて室内用のリクエストもあってね…」
ふーん…ダンジョンで使うクッションかぁ…。
「ベル、ぼ~っとしてないで!各自、作業分担があるんだから、しっかりお願いね」
◇◇◇
酷いよ、裁縫親衛隊じゃないのに。
勝手に裁縫親衛隊に呼び出されたと思ったら裁縫品のノルマまで課せられちゃった。
よ、幼児虐待じゃないのかーーー!
まぁさ、世界が違えば、こんなお手伝いはあたりまえなんだけどね…。
でも、じゃがいもの皮むきも掃除当番も免除になっちゃった。
あれ…すごく優遇されてるかも。虐待は撤回。
中綿を入れる内カバー、外カバー各30枚ずつの縫製を命ぜられた為、ちくちくと縫っております。
私が作ってるのは、ダンジョンで使う冒険者用だから、トリプルステッチっていう三本を平行に縫って行く強度の高い縫製品なの。
これ、ファスナーがないタイプの枕カバーに似てる…カバーを洗ったり、中の毛皮を干したり出来るから便利そう。ダンジョンで使うんだもん、洗いたいよね。
院長室のは完全に装飾品だけど、こっちは実用的って感じだなぁ。
同じクッションって名前だけど、これは明らかに椅子用の座布団みたいなやつ、シートクッションっていうのかな。
どうやら、みんなは初めて見るタイプらしい。
シートクッション…私も一つ欲しくなってきた…。
言われてみればこっちの椅子って、木箱に毛が生えたような感じのものも多いの。
だから、ずーっと座ってるとお尻が痛くなっちゃうのよね…若さであんまり気にならなかったけど。
これからどんどん辛くなるかもしれないし…いや、間違いなくなるわね。
ベルちゃんの為にも、作っておきたいわ。
近い将来の為に、今は中綿が手に入らないかもしれないけど、カバーを作っておくくらいはしても良いんじゃない?
なんせ、今なら生地がたっぷりあるもん。あのアトリエから贈られてきた分ね…あれからこっそり盗めば問題ないんだから…。
刺繍も何もないシンプルなカバーでも良いけど…ワンポイントくらいなら刺繍をつけても良いな。
チロルテープ柄は可愛かったけど、結構面倒だったのよね…自分のだからもっと適当な感じので良いわ。
あ、今日は洗濯物取り込み当番だった!
大人が竿から外した洗濯物をひたすら運ぶ役だけど、当番制なのよ。
花ってのも芸がなくてつまらんしなぁ…ワンポイントものねぇ…
何か良いものないかなぁ。
洗濯物をひたすら運びながら考えていると、急に空が翳り…庭先には大きな影が二つ。
あ…ツガイコウモリ便だ…。
番で飛ぶ蝙蝠が荷物や人なんかを運んでる、宅配便やタクシーみたいな感じかな。
この世界での流通移動手段では最速なんじゃないかと思う。
運賃が高いらしいよ…そりゃそうでしょうね。
小さいさい方が雄でウリコトバット。大きい方が雌でカイコトバット。
何でも、売り言葉に買い言葉でずっとキィキィ言い合ってるらしい。
喧嘩するほど仲が良いってやつかな。
蝙蝠のマーク…可愛いかも。
この世界、ツガイコウモリ便のお陰で蝙蝠の印象って悪くないし。
ちょっと作ってみようかな。
………。
なんでよ…。
何回図案化しようとしてもパンツになるんだけど。
これはあれだな、残念画伯ってやつ。
そして何故か黒と黄色でまとめたくなるのは、私がいけないのか某アメコミがいけないのか…。
きょ、今日はこのくらいで勘弁しといたるわぁ…




