異世界に来て一番落ち込んだ…
3歳にもなりますと、孤児院内であればこそこそ一人で勝手にうろついても何も言われないお年頃。
『情報を制するのもは異世界をも制す』をスローガンに日々院内徘徊、違う、探検をしております、ベルこと成留鈴花でございます。
私が目指すところは読み書きの為の教材探しだったんだけどさ。これがね。意外に簡単に見つけられたの。
3歳になると、自由室っていう子供同士で遊べる部屋に、日中は居ることが多くなるんだけど、そこに少ないけど、知育教材がしれっと置いてあったわ。
ひたすら暗記。なんせ書くものがないからね。紙もペンも高級品というよりは日用品として存在してるけど、子供が遊びに使えるような代物でもない。
もう少し大きくなって初期学校に入学すると、小さい黒板っぽい書板っていう板やチョークのような白灰ってものを学校から各自貰えるらしいけど、今はまだ口に入れちゃう可能性があるから駄目なんだって。
悔しいけどわかる。だって何でも無性に口に入れたくなっちゃうんだもん。
あの抗えない気持ちはなぁに?恋かしら…ぽっ。
数字は1~10まで覚えれば大丈夫。あとは組み合わせで大きな数字まで補えるからね。ありがたい事に、数字を覚えるための教材…板に数字と果物が書かれてる一覧表みたいなのがあったのよ~。
一人遊びしてるふりしてひたすらガン見よ、ガン見。
りんごが一つ描いてあって『1』、りんごが二つ描いてある横に『2』、みたいな感じのやつ。
字体的に似てるのはローマ数字だけど。
文字はこれまたありがたい事に一種類。平仮名片仮名漢字の国の旧住人にはシンプルでありがたい。イメージとしては英語みたいなんだけど大文字小文字という概念はないから覚えるのも楽。
スペイン語のような女性・男性名詞もない。abcd…のように単独の文字を覚えたら、次は単語。文法的にも英語みたいな感じだった。語学は嫌いじゃなかったら結構楽しいな。幼児の時間はまだまだいっぱいあるからね。きっちりお勉強するわよ。
幼児なもんで拙いけどたぶん発音も出来るし、聞くこともできてるからって事もあって、上達が半端ない。あぁ、若いって素晴らしい。
一晩寝ると前日の食事メニューすら忘却の彼方な28歳だったのに、今や一晩寝ると覚えた事をしっかり脳に定着させる3歳児。
その事に気づいたある日の朝、異世界に来て一番落ち込んだ…ベルちゃん、私を慰めてくれ…