表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/225

閑話 かぼちゃの日

「ねぇ、ベル~。こういうのって何か料理に使えないかなぁ」

「なになに?」

「これなんだけど…」


 孤児院で働いてくれているご婦人から声がかかる。

 お、これはかぼちゃじゃない?こちらの世界で初めて見る食材にウキウキの、ベルこと成留鈴花でございます。


「かぼちゃって言うんだけど…」

「どんな味?私、食べた事がないよ」

「そうねぇ、じゃがいもに似てるかしら…。まぁ、これを買うくらいなら、じゃがいもを買った方が安いし使い慣れてるもんだから、ここでは買ったことがないんだと思うわ」

「そうそう、皮を剥くのも大変だし」

「これはどうしたの?」

「実はね…近所の奥さんからの頂き物で…たくさん貰っちゃったのは良いけど、うちもそんなに食べないもんだから…ベルなら何かいいレシピが思いつくかなって思って持ってきちゃった。アリー先生にはお話して許可を取ってあるからね。これ、三個持ってきたからさ、何か試作してみてよ」


 かぼちゃって秋冬の野菜だと思ってた。

 夏の野菜なんだって。

 ほら、ハロウィンでも使うでしょ?

 10月末だからさ、てっきり寒くなる時期の野菜なんだと思ってたよ。


 そう言えば、こっちはハロウィンとか…ないわ。当たり前か…。

 ハロウィンもだけど、お祭りとかお祝いとか全然ないの。孤児院だからかなって思ったけど、違うみたい。


 そもそも人が集まるのって市場とか教会のバザーとか…私が知ってる情報ではそれくらいしかない。貴族は別よ?成人のお祝いやら、なんやかんやでパーティーがあるみたいだし、もちろん社交シーズンだってあるしね。


 でも一般的に、お祭りって概念はないみたいね。お祝いが準成人と成人の時と結婚、あとは子供の誕生、それくらいみたい。もちろん家庭によりけりみたいだけど。

 …あ、すっかり脱線しちゃった。


 そう、かぼちゃは夏野菜。

 あれ?地球でもそうだったのかしら。

 …異世界転生なんてする人は、もっと博識な人の方が楽しめると思うのは私だけかしら…そう言えば私って一体、何の為にここにいるんだろ…謎だわ。


 ◇◇◇


 最近、裁縫親衛隊からの拉致られる日が多くて…というか、ほぼ毎日裁縫地獄でさ…今日は久々のお料理日なんだ。

 しかも、御指名よ。自分、こうやってどんどん厨房使用権を手に入れる所存であります!


「これ、どこが食べられるの?」

「中の黄色い部分よ。皮も食べられる事は食べられるけど硬いし、あんまり使った事がないわ。種が中に沢山はいってるんだけど、捨ててるわね。」

「いつもはどうやって食べてるの?」

「小さく刻んでスープに入れるくらいかしらねぇ…」

「その捨ててる種は…食べようと思ったら食べられる?」

「種?…周りがヌルヌルしてるから食べた事がないけれど…」

「あら、種も食べられると思うわよ。うちのお爺ちゃんが言ってたもの。昔はかぼちゃの種まで食ったんだって」

「そうなの?どうやって食べてたのかしら」

「それはわからないけれど…」


 なるほどなるほど。

 地球のかぼちゃと同じかな。

 でも、人気がないって所を考えると、甘くないんだろう。


「少し食べてみても良い?」

「もちろん。少しと言わず全部あげるから使ってみて。今日は厨房担当だから、火を使いたかったら言ってちょうだい」

「火も使うけど…今日はオーブンは使う?」

「使うわよ。何かするの?」

「端っこの方だけで良いから使わせて欲しいの。ダメかな」

「良いわよ。大量じゃなければ」


 むほっ。今日の収穫はでかい!念願のオーブン使用権よ~!!

 ここのオーブンは、どうやら二種類の火力らしいんだけど、火力が不明。

 今日は弱い火力の方を使うらしい。

 オーブン、ずっと使ってみたいなって思ってたんだよね~。

 お試しのチャンスがようやく巡ってきたわ。


 うーん。何を作ろうかな。

 いつものことながら、あんまり材料が使えないしなぁ。


 使っても良いのは、じゃがいもと玉ねぎ、あとはマヨネーズ。

 油と海塩、牛乳は貰えそう。海塩は超少~しだけね。

 あと、かっちかちのパンが古くなったやつ。恐らく二度焼きして日持ちするように作ったパンが古くなったんだと思う。これは大量に使っても良いって。

 それと乾燥ドラジャの搾りカス。


 レシピカード改め、冊子を出すにあたって、ドラジャの搾りカスを使って料理の確認する事が多いから、乾燥ドラジャの搾りカスも沢山作ってるんだ。

 乾燥ドラジャの搾りカスは生活魔法で乾燥できれば、かなり保管が出来るんじゃないかって。

 保存日数の確認が出来てないから、まだこれは本決まりじゃないけど…粉ものとしても売り出せるんじゃないか、なんて話も出てるのよね。


 お手伝いに来てくれてる牛人族のご婦人、おっかさーんが張り切って乾燥してくれるの。

 生活魔法、羨ましい…


 ◇◇◇

 

 さて、期せずしてかぼちゃの日になったけど、さて、どうしますかね。みんなで食べられるものが良いな。

 貰ったかぼちゃは三つ。

 日本のスーパーで売ってるかぼちゃサイズより二回りくらい大きい感じ。

 私の力ではちょっと無理そうなので、洗って三つとも縦半分に切っておいてもらう。

 


 まず、種は取り出しておこう。

 全部一度蒸しちゃおうかな…。

 まずはもう一度かぼちゃをきれいに洗うよ。食べられそうなら皮も使うつもりだから丁寧にね。

 種もきれいに洗って、乾かしておく。


 大きな鍋に水を入れて耐熱皿を敷く。

 孤児院だから学校の給食作るみたいな大きな鍋があるんだよ~。便利便利。

 そう言えば、フワンフワの葉っぱを使って蒸した事もあったよねぇ…なんか懐かしいわ。

 中の火をつけてもらって、しばらく蒸す。


 その間に玉ねぎをみじん切りにする。日本では玉ねぎは切った後、加熱する前にそのまま放置しとくとなんちゃら化合物がどうしたこうしたで、何か良いらしいって言われてたけど、こっちの世界でも有効かしら。

 すべてがうろ覚えな上に、こっちの野菜の栄養的な事も知らんけど…一応、最初に切って放置しておこうね…。


 次にかっちかちのパンを使う。釘が打てそうなんだけど。

 これをひたすら刻むよ。


 ――ザクザクザクザク


 トースターで焼いたわけでもないのにこの音よ…。

 刻み終わったパンと乾燥ドラジャの搾りカスを二掴みほど入れたボールに、牛乳とマヨネーズを入れて置いておく。


 かぼちゃはどんな感じかな。

 半分に切ったかぼちゃにフォークを刺してみる。


 よしよし…良い感じ。

 鍋の火を止めてもらって、蓋をしたまましばらくは余熱で蒸らす。

 今日のかぼちゃのレシピについて話が弾んでしまい、気付けばかなり余熱で蒸らしまくってしまった…。

 いかんいかん、ちょっと試食。


 …あれ?思ったよりはるかに甘い気がするけど…持ってきてくれたご婦人に試食してみてもらう。


「あら、このかぼちゃ、甘いわ…。うちで使った時には甘くなかったのに…」

「え?おなじ時に貰ったかぼちゃ?」

「そうそう、不思議ねぇ…クリームスープに入れたのだけれど…」


 なんでだ?個体差かと思ったけど、三つとも甘味が感じられる。

 まったくわからん。蒸したのが良かったとか?

 ま、異世界だからそんな事もあるんでしょ…って事でスルーしよう。

 

 ほくほく系のかぼちゃで美味しい。正直このままでも良いくらい美味しい…。

 私、べちょべちょ系よりこっちの方が好きなのよね~。

 皮はどうかな…うん、食べられそう。

 

 あ、オーブン使うって!

 急げ急げ。


 油を少量手に付けて、かぼちゃの種をモミモミ。最後に海塩をほんの少~し手に取ってさらにモミモミ。これをオーブンの隅に置かせてもらおう。

 火力がよくわかんないから、失敗してもあんまり悲しくないものを焼こうと思って。

 本日の犠牲者は、かぼちゃの種の皆さんです。

 いってらっしゃ~い!


 油と塩が手についてるから、玉ねぎのみじん切りに手を突っ込むよ!塩、大事!!

 勝手にフライパンって命名した私のお気に入りの鍋に油をひいて、そのみじん切りの玉ねぎを炒めてもらう。


 かぼちゃは全部粗めにマッシュしちゃおう。皮ももちろん全部使っちゃうよ。

 マッシュしたかぼちゃに、マヨネーズと牛乳に浸しておいたを刻んだパンと乾燥ドラジャの搾りカスを入れて、塩を一つまみ。よ~く混ぜる。

 炒めた玉ねぎも混ぜ込んで…。


 これはかぼちゃのコロッケ、揚げないバージョン。

 細かく刻んだパンをパン粉に見立てて…丸めたかぼちゃのタネをパンの上にコロコロ。

 ひたすらコロコロ。

 沢山出来たらフライパンに油をひいて、中の火で焼いてもらう。

 刻んだパンで作ったパン粉がキツネ色になれば完成。


 かぼちゃコロッケ出来た~!

 いけない!オーブンも見に行かないと!!


 うーん…これ、170度くらいな感じかなぁ。

 もうちょっと焼こう。

 強い火力のオーブンも試してみたいわね。


 もしオーブンをたくさん使って良いなら、スコップコロッケの方が作るの楽だし、パンの量も少なくて済むか…んぎゃーーー!かぼちゃコロッケが減ってる!!

 

 誰だぁ、勝手に食べちゃった輩は。許さんぞ!

 でも、おかしいな…誰もこっちには居なかったはずなのに…。



≪かぼちゃコロッケくれないといたずらするぞ~≫



 …ん?何?

 今、なんか言った?

ハッピーハロウィン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ