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異世界旅~家に帰るまでが遠足です~㉓

 旅の最後の休憩地点でまったり休憩していたら、隣の客車の様子がちょっとおかしい事に気が付いた僕たち。

 初めて馬車に乗ったお嬢さんが、体が痛くて耐えられないって苦しがってるって。


 クッションコレクションで、どうにかならないかな…。

 僕と同じ状態ならば、このクッションは効果てきめんなはず。


「実は僕も最初に馬車に乗った時、体中が痛くて痛くて…三分で音を上げて泣いたんですよ。だから、気持ちがすごくわかるんだけど…クッションを少しあげたりしたら迷惑かなぁ」


 シーラさんも肯いている。


「え?あげちゃうの?正直このクッション、とっても使い心地が良かったし…勿体ないんじゃないですか?」


 こんな時になんだけど…ダリアさんが僕のクッションコレクションを褒めてくれてる!嬉しい!!


「すっごく安くできたし、また作ればいいだけだから…でも、そういうレベルの話じゃないかもしれないし、僕が10日も旅で使い倒してきたクッションだから嫌かもしれないけど…一応、パーティーメンバーさんに聞いてみて貰えますか?」

「もちろん構わねぇけど…本当にもったいないぜ、良いのかよ?」


 残念!最終日で丁寧な言葉遣いが崩れちゃったドイルさんも、クッションを気に入ってくれてた!嬉しい!!


「これが最終日の最後の休憩地点じゃなきゃ、僕も渡せなかったと思うけど…これもなにかのご縁だと思って。聞くだけ聞いてみて貰えますか?」


 二人は肯くと、小走りで先方の護衛のところへ話に行ってくれた。

 旦那さんが護衛の二人と一緒にこっちへ向かってくる。


「僕も同じように馬車がダメで…もしかして、背中まで痛いって言ってませんか?」

「そ、そうなんです!あの…何か助けて頂けるってお話を聞いて…」

「助けられるかどうかはわからないですけど、僕と一緒な感じなら、このクッションを座席に敷いて、様子を見てみませんか?」

「クッション…?」


 旦那さんの顔がクッションと聞いて、ちょっと残念そうになったのは気のせいだと思いたい。

 こっちの世界のクッションは完全に装飾品扱いなんだって。

 なんかね、すっごい硬いらしいんだ。

 低反発で硬め!とか、そういうレベルじゃなくって、ガッチガチ。

 恐らく体に当てて使うなんて思ってない感じのやつだね。

 だから旦那さんの残念顔も肯けるんだけど…


「はい、ちょっと変わった固さのあるクッションで…もしかしたら旅の助けになるかもしれません。でも、僕らが旅で使い倒してきたものなので、清潔かと言われれば、清潔ではないというか…浄化魔法をお持ちだったらかけて頂いた方が良い感じですけれど…」

「いや、そんな事はいいんです。あの…是非一度試させていただけないでしょうか。このまま、ここで動けずにいるのも困るし、もうどうしていいかわからなくて…」

「もちろんです。もし良ければ僕が敷きますよ?コツって訳じゃないですけど、クッションを挟んだ方が良い場所とか…多少はわかるようになってきたんで」

「いや…そんな…あの…ありがとう!是非、お願いします。本当は妻の膝に乗せてやれればいいんですが、妻も身重でして…」

「「「「え!」」」」


 旦那さん…大変じゃないか!

 いや、一番大変なのは奥さんだけども!!

 シーラさんの分だけじゃなくって、僕の座布団もあげますから!!!

 …全部は無理だけどさ。


 馬車を見せてもらう。

 レンタルパック馬車だから客車も似たような作りだね。

 苦しそうに前かがみで座席に蹲る女の子と隣に寄り添う奥さん。

 心配そうに背中をさすっている。


 とりあえず旦那さんに女の子を、僕らの休憩スペースまで運んでもらった。泣きつかれたのか、げっそりとして目を閉じたままだ。

 長方形の座布団の上に寝かせる。身重の奥さんにもクッションを勧めて休憩していてもらおう。


 旦那さんには、一緒に馬車に付いてきてもらうよ。

 僕だって実は盗賊かもしれないんだからね。

 この旅で得たクッションの位置の知識を総動員して、客車にクッションコレクションを詰め込んだ。


 予備の座布団、持って来ておいて良かった!

 奥さんが座る場所も座布団と腰当用クッション、振動対策の隙間クッションでしっかりガードする。もちろん普通のクッションも完備。


 僕の大事な抱き枕も女の子が座る場所に置いておく。

 衛生面は…ごめん…。


 今度は奥さんを馬車へ連れてきて座って貰いつつ、抱き枕の使い方を説明する。

 楽な姿勢を取ってから、抱き枕を抱っこする基本姿勢とか…腰に巻き付けて少しお尻を浮かす姿勢とか…そういう事をレクチャーしたりして。

 あと、宿へも持って行って、寝る時に抱きつかせて眠らせるのも良いですよ、なんて事も話しておく。本来の使い方だね。


 大丈夫だよ、僕は宿に持って行ってないから。

 大丈夫。なんか…うん、大丈夫。


 女の子も心配だけど、奥さんも心配。

 体位をずらして、長く同じ姿勢にならないようにするとか、クッションを重ねると逆にずれて体に負担がかかるからダメだとか、横になる時はこうしろああしろ…色々注意点をね。

 もちろん奥さんにも絶対に同様にするように伝える。奥さん、ここ大事だよ。


 ちなみにドーナツ型のクッションは産後にも良い場合があるみたいだから試してみたら…、なんて話もしながら合図して、旦那さんに女の子を連れてきてもらう。


 荷物が多くて狭い客車がクッションで埋め尽くされているのを見て、旦那さんは驚きつつも、女の子を馬車へと座らせた。

 女の子はだいぶ落ち着いたようで、さっそく抱き枕を抱っこしている。

 …説明はいらなかったか。

 本能でわかるよね。うんうん。


 御者も護衛の二人も心配そうに見守ってたけど、出発するって聞いて急いで準備をし始めた。

 森が開けているところなんかでUターンができるようになってるからね、もしダメならまた戻って作戦を考えたほうが良いし、大丈夫そうならそのまま行けばいい。

 お名前を…いえいえ名乗るほどでは…なんて感じの押し問答を少し繰り返して、彼らの馬車を見送った。


 すっかりクッションがなくなった休憩スペースで、「馬車がすぐ戻ってきた時の為に、もうちょっと休憩~」なんて言いながら、思い思いにぼんやりしてたら、ダリアさんとドイルさんのお仲間の一人が単身戻ってきた。


「坊や、親切にありがとうな!もう、どうなる事かと思ったよ…大丈夫そうなので、そのままカシールへと向かってます。凄く感謝してました。宜しく伝えてくださいって」


 にっこり肯いて手を振る僕と一緒に手を振りながら、ダリアさんとドイルさんが「坊や」「ぼくちゃん」と、腹話術師のような話し方でいじってくる。

 僕…すっごく良い事したと思うのに、この終わり方ってどうなのさ…


 ◇◇◇


 僕のクッションコレクションは、長方形の座布団、普通のクッションとドーナツ型の円座クッション、隙間に詰めるクッションが一つずつだけになってしまった。


 シーラさんに円座クッションを渡し、僕は座布団を折って座る。それだけじゃ心もとないので隙間に詰めるクッションと普通のクッションは背中用として僕が使い、なんとか無事にミネラリアへと帰り着いた。


 ダリアさんにドーナツ型クッション、ドイルさんに普通のクッションをプレゼントしてさよならする。またいつか、会えるといいな。

 クッションコレクションは座布団一枚と隙間用クッション一個だけになった。


 家に帰るまでが遠足です。

 僕の人生初、異世界旅はこうして無事に終わりを迎えた。


 魔力覚醒の件はさておき、だけどね…

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