こうして私も自ら作った地獄へと落ちてしまいましたとさ。
何度か言ってると、それが正しい言葉かどうか、わからなくなる時なぁい?
例えばさ、『ナップサック』。
これ…あってる?
5回くらい繰り返してると、こんな名詞あったかなって…。
ナップってなんだ?とか、変に区切ってプサ?とか…一瞬でも思っちゃったらもうダメね。
だんだん自信がなくってきてる、ベルこと成留鈴花でございます。
ほら、あの背中に背負う巾着袋みたいな…ナップサック…違ったかなぁ。
まぁ、違っても誰も困らないから良いんだけど。
貴方は何派?
私は手ぶらで森に行きたい派。
今日は、ナップサックを作ります!
◇◇◇
結局ね、ボヨンビヨン・モリの巻糸は10本売る事にしたの。
裁縫親衛隊に聞いたらそんな高そうな糸は要らないって。
そんな珍しいもので作っても高額になるだけでバザーでは売れないし、扱いが怖いって…うん、わかる。
それに伸びる糸ならウェービーメェメェの毛糸で十分だからって…うんうん、わかる。
本当はさ、パンツのゴムにしたいけど…それはダメよね…ダメでしょ…本当にダメかな…。
巻糸の売買契約は無事、超特急で結ばれたんだ。
なぜなら、商業ギルド長のサワットさんやギルドの服飾担当者が妥当と考える価格と、製糸工房の面々の提示金額がほぼ同じだったから。院長先生は一度も口を挟むことなく座ってただけらしい。
聞いて驚くなかれ…巻糸1本のお値段、なんと金貨1枚。
衝・撃・価・格!
防具にもなる服だけじゃなくって、この糸を織り込んで作った防火袋も人気らしい。
だからビヨンボヨン・モリの繭が見つかると、いつもすっごい高値で取引されてるんだって。
いや、確かに凄く丈夫だから、破けたりちぎれたりするリスクが少ないし…考えようによっちゃ高くないのかもしれないけど…いや、高いから。
でも、サラマンダーの化身って呼ばれてて、火と物理への耐性があって…さらには、浄化作用のおかげで洗濯不要の布が作れる糸なんだから、妥当な金額ですって言われればそんな気も…いや、高いから。
もう金銭感覚がおかしくなりそう。
…パンツのゴムにしようとしてた事は秘密よ。
これ…10本売ったから、大金貨1枚って事になるんだよ。
本当に私が貰っちゃってもいいのかなぁ…。
でも、ベルちゃんに残してあげられるから嬉しいのは凄く嬉しい…。
その二つの気持ちの間でゆらゆらしてる。
あとさ、うっかり作っちゃった髪ゴム…これヤヴァーイ。
◇◇◇
製糸工房やアトリエの人達にとっても喜ばれて…裁縫道具一式やら布やら紐やらリボン、刺繍糸にはたまたビーズやボタンなんかまで、沢山プレゼントしてくれたの。
もちろん巻糸の料金支払いとは別にね。
これには裁縫親衛隊が大喜び。
解せないところはあるけど…まぁ、喜んでくれてるし…いっか。
そして!嬉しい事に、裁縫道具一式は私が貰える事になったんだ!!
大奥はとっくに解散してるから、好きに使いなさいだって~。
裁縫道具を自分の部屋へ持ち込む事になったので、なんと私は部屋をお引越し。
年上のお姉さん達だけがいる部屋に移動になったんだ。
確かに使いようによっちゃ危険物だけど…ほんと、徹底してるのよね…
◇◇◇
アトリエから頂いた布とかさぁ…私もちょっとくらい、お相伴にあずかって良いと思うの。
ずっと欲しかったあの一品を作りたい。
そして冒頭に戻る!ナップサックを作ります!!
まず、用意するもの。
・フワンフワの葉っぱ
・蔦
うん、ナップサックだよ。
いやだってさ…どのくらい布や紐が必要か、見当もつかない。
型紙と試作品の代用にね…蔦は紐…。
ボタン付けと裾上げしかしてこなかった成留鈴花、裁縫人生のツケが今ここに。
布を裁断してから『あ、サイズ間違ってました~てへっ!』じゃぁ、許されない世界なんだから…。
う…思ったより蔦がいるなぁ…。
沢山の物資が寄付されて浮かれた雰囲気がある今のうちに…盗む!
――ゴソゴソ
…あれ?なんで私がこんな泥棒気分にならんといかんのだ??
◇◇◇
さっそく、私の裁縫道具でお裁縫スタート。
私物が少ないからさ、すっごく嬉しい。
私の裁縫道具~♪
先に布地にちょっと刺繍しようかしら。
表側にチロルテープみたいなイメージの柄をね。他の柄は依然として思い出せないけど、チロルテープのあの雰囲気は自分で勝手に作れるでしょ?
いや…薔薇じゃないわよ。
リアルな感じの作風じゃなくってイラスト風、あくまでかわいいチロルテープな雰囲気。
こういう子供っぽいイラストみたいなのって浮いちゃうかなぁ。嗜みシリーズの冊子とかには、こういうの全く載ってないんだけど…。
いいや…、可愛いから作っちゃおっと。
簡単なデザインで小花と蝶々の連続模様。そう、お芋ちゃんの羽ばたく姿をイメージよ。
蚕の飛ぶ姿は知らんから、蝶々になりました。
…こういうのは想いが大事よ。
これくらいの刺繍なら1時間もあればできるわ。
自慢じゃないけど異常に手が早いのよ、私。
あれ?なんか言い方が違うような…
――ちくちくちくちく
マチ?裏地?…そんなもんある訳ないでしょ…。
お、おしゃれって突き詰めていったら、結局のところシンプルさだと思うのよね。
…。
…自分の技術のなさを正当化したかっただけっす…すいません。
持ち手だけは付けることにした。あった方が絶対便利だもん。
綺麗な紺のリボンがあったから、盗んで持ち手を…。
いひひ。出来た。
自慢じゃないけど、すごくよく出来たと思う。
ちょっと背負って院内徘徊…歩いてみようかしらね。
…裁縫親衛隊に捕獲されちゃった。
一通り尋問を受け…無罪放免。
あれ、解放なの?って思うでしょ??
ふふふ。
みんな、私が突き落とした広大な裁縫地獄にいるんだもーん。
残念、暇なし親衛隊の皆さまでした~!
あ、ポンポンつけても可愛かったかも…そういう袋も作ろうかな。
…えっ?誰?首根っこ掴まないでよ~!!
……えっ?あたしも徘徊してないで手伝えって??
あ…ちょ…待っ…ぎゃッ…
こうして私も自ら作った地獄へと落ちてしまいましたとさ。




