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異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑳

 宿屋一階の食堂で、バターたっぷりのパンにチーズと、野生のグミで作ったというジャムを挟んで食べてる、アギーラです。

 これも甘酸っぱさがたまらん。うんま~い。


 グミって今が旬の楕円形の赤い木の実で、大抵はそのまま食べる感じ。ジャムなんかの加工には不向きらしくて、採れた近くの町や村でそのまま消費されて普通は終わり。


 ジャムにしたら少しえぐみが出るらしくて、あんまり作られてないらしい。

 しかもグミだけだとちょっと酸味がきつすぎるんだって。

 シーラさんも初めて食べたって言ってるから、これは本当に珍しいものを食べてるのかも。


 この宿ではえぐみや酸味を抑えるために、数種類の果実の汁を混ぜて作ってるそうだよ。

 そう、これも自家製なんだ。店員さんが一つはパールカラントで他は秘密だって笑って教えてくれた。

 なかなか侮れない宿屋の食堂だよね。


 そうそう、シーラさんに昨日買ったコップを渡したんだ。家に帰ってから渡そうと思ったけど、こんなに素晴らしいコップは早く使って貰いたい。


 ◇◇◇


 お腹も満足したところで、タンデムの散策に出発!


 読み本や冊子なんかを扱う雑貨屋に立ち寄ってもらう。

 魔力やスキル、種族の事が書いてある読み本がないかなぁ…なんて思って、王都でも探したんだけど…やっぱりタンデムにもないみたいだ。

 どうやら図書館みたいなものもないらしいし…ダメだ…完全に情報を制する事が出来ずに戦に負けている。いや、誰とも戦ってないけどね…そんな気分ってやつ。


 タンデムは王都からも近く、北のジネヴラ国へ向かう際にも皆が通過する町。

 交通の要だし、とっても大きな町だ。ちょっと、ミネラリアに似てるかも。

 僕らは屋台休憩を挟みつつ、たっぷり町歩きを堪能する。

 

 覗いた食料品店で、大地原酒というお酒を目ざとく見つけたシーラさんは、お店に置いてある4本すべてをお買い上げ。

 〇〇原酒ってお酒はすごく美味しいけど、あんまり手に入らないから、見かけたら購入しておいて、自分へのご褒美酒にしたり、知り合いに配ったりするんだって。

 これ、サイズ的には一升瓶みたいな感じっていうのかなぁ。

 すっごい強いお酒らしいけど、そのまま飲んでも、果実水なんかで割っても、何してもおいしいんだってさ。


 そうそう、明日は復路の旅が始まる。護衛さんの状況確認なんかをしなくっちゃね。

 一人二本ずつ酒瓶を抱えて厩舎に向かった。なんと計画性のない僕ら…重い…。


 ギルドのレンタルパック馬車を預かる厩舎横の建物には、ギルドの職員が常駐している場所があって、御者や護衛をする冒険者の手配をしてくれてるんだ。

 復路の予定確認、護衛の変更がない事や、念のために明朝の出立時間なんかを確認する。

 ダリアさんもドイルさんも気の良い人達だったから、帰りの護衛も変更なく受けて貰えて良かったね、なんて話しながら建物を後にした。


 ◇◇◇


 夕刻になり魔石生産人のリブロさんのもとへと向かう。

 またもや開口一番、リブロさんは大喜びでシーラさんに告げる。


「やりましたよ!全部成功することができました!!」

「やっぱり、リブロさんは凄いわ…まさか、全部成功させるだなんて!」

「僕もね、練習し始めてはいたけれど、まさか持ち込みの鉱物でこんなに上手くいくとは思いませんでしたよ。お客さんの持ち込み鉱物だと、緊張で魔力が安定しなかったりするかもしれないと思っていたんで…」


 リブロさんは嬉しそうに話を続ける。


「鉱物の人工魔石が流通するようになったら、自分で鉱物を買って、魔力を注いだものを販売する形態にしようと思っていたんだけれど、シーラさんのようなお得意様限定なら、持ち込みの鉱物での人工魔石作りも視野に入れようかなって、思い始めちゃいました」

「ここまで初見の鉱物で安定して人工魔石が作れるなら、リブロさんだったら十分に対応出来るんじゃない?」

「なんだか、楽しくなってきました!岩石と違って、見た目も綺麗でしょ?作ってる時も楽しいんですよ」


 確かに…そこらに転がってる石っころみたいな岩石より、色とりどりの綺麗な鉱物を目の前に仕事をした方が、テンションあがるよね…。


「ふふ。岩石を愛するリブロさんも、そんな事を思うのねぇ。でも本当に綺麗だから、売り上げも増えるかもしれないわよ。…魔道具の裏手に魔石を配置するんじゃなくて、表面上に魔石を使う、新しい可能性を感じるわ」

「確かに。あ、今回の作品もそうされるって話でしたよね」

「そうなの。あくまでこれは注文品のそれよ。でも、これからは大量生産品でも、魔石を表に出して装飾を兼ねるような魔道具が出てくる気がするわ」


 シーラさんは鉱物の人工魔石を大事そうに、持参している魔力流出を防ぐ箱にしまった。

 僕はしばらく雑談をする二人に混ざって話をしていたんだけど、リブロさんの椅子の足元へ、大量に置かれている小さな石が目についた。


「リブロさん、その足元の小さな石ってなんですか?岩石?」

「あぁ、これかい?小型の魔獣から出る魔石でね。あまり魔力が安定してないもんだから、雑魔石なんて言われてるんだけど…一応は魔獣魔石なんだよ」

「これが雑魔石なんですね…僕、初めて見ました」

「まぁ、使う用途がないから一般的には見かけないよね。僕は雑魔石が安定して使えるようになったら良いなって思っててね。時々、研究用にって知り合いの冒険者がこうやって持ってきてくれるんだ」

「へぇ…面白そうですね。雑魔石の有効活用かぁ。雑魔石って、お値段はどのくらいするんですか?」

「いや~、正直な所、値段なんてつかないと思う。本当に安定してないから、使いようがないんだ。僕も、これはお土産ってタダで貰ってるからね」


 タダ同然で手に入るんだ…。


「沢山取ろうと思えば取れるもの?」

「そりゃぁもちろん。ダンジョンに行けばたんまりさ。まぁ、値がつかないからいちいち集める人も少ないけれど…。ギルドへ魔物の素材を卸すついでに、解体して魔石を抜いて持ってきてくれてるんだ。恐らくほとんどがスライムじゃないかな。スライムの素材は色々使えるからね。他の小型魔獣は解体しないことが多いから」


 うわーぉ。スライムから取れる魔石だって!


「実は僕、安い価格帯の…大量生産できる生活用魔道具が出来ないかなって考えていて。単純な魔道具に使えるような安価な魔石があればいいのにって。もし、雑魔石の魔力が安定して内包されてる状態にする事ができれば、安い価格帯の魔道具が出来るかもって…あ、これって、リブロさんの商売敵みたいな考えになっちゃいますか?」

「あはは、そんな事ないさ。実際、僕も研究してる訳だし。これからも魔道具はどんどん増えていくと思うんだ。魔石はあればあるだけ消費されていく。正直、今のペースで魔道具が発達すると、いずれ魔石不足が起こる事態も十分に考えられるんだ。便利なものを既に使ってしまってるのに、それが使えなくなるとしたら誰だって辛いだろ?もし魔石不足が起これば…庶民の生活は大変な事になると思うんだよ。アギーラも雑魔石の有効利用法を思いついたら、ちょっと研究してみてくれないかな」


 リブロさんはそう言って、雑魔石を半分ほど、布袋にざらざらと入れた。


「…消費量を考える魔道具師見習いか。さすが、シーラさんのお弟子さんって感じだね。世の中には魔石を無駄に使いまくる魔道具を作る奴もたくさんいるんだ。…これくらいならシーラさんの魔石箱にも入るかな。本当にさ、ちょっと考えてみてくれないか?もちろん、アイデアだけでも大歓迎だから。」


 シーラさんが笑いながら、自分の魔石を入れる箱に雑魔石をしまってくれる。


「良いんですか?僕、是非調べてみたいって思ったんで…嬉しいです」

「こういう若い力がひらめきを呼ぶかもしれない。もちろん魔道具師の修行が第一だけれど…楽しみにしているからね」


 ◇◇◇


 部屋に戻ったシーラさんがなにやら大興奮している。

 なになに…歯ブラシが復活…ね?でしょ~?

 あのコップ、凄いよね!


 あ!も、もしかして…シーラさんが行きたかったのに、なくなっちゃってたお店って…あのおじいちゃんの店だったんじゃ…。

 店主の見た目や雰囲気、語尾に“じゃ”ってつく話し方…話をすり合わせたところ、恐らく同一人物ではないか、という話になった。

 …『明日、カサンドラの娘家族の所に行く』って言ってたから、もう移動してしちゃってるよね。


 シーラさんがとっても残念そうな顔してる。

 魔法付与の品物だけじゃなくって、古い魔道具や錬金術師の加工品なんかも置いてる、素敵にめちゃくちゃでごっちゃごちゃな、すっごく楽しいお店だったらしい。

 ワークエプロンで舞い上がっちゃって、僕、思考が残念な事になってた…。


 王都の損失、いや、国の損失だと憤ってる…落ち着いて、シーラさん…お酒の飲みすぎだよ!

 …って、思ったら、今日はまだ飲んでなかった。


 シーラさん、素面(シラフ)で御乱心。怖い。

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