異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑲
王都へ行った翌日、宿でまったりタイムを満喫中のアギーラです。
旅の疲れが出ないようにしないとね。午前中はゆっくりしようって決めた僕らは絶賛ゴロゴロ中。
シーラさんは僕が馬車旅で伝えた、足を上げてむくみを取る姿勢でリラックスしている。
明日が最終日だけど、王都にもう一度行くかどうかって話になったんだ。
話になったというか、ま、行かなくてもいいかって話になっただけだけどね。
それよりもタンデムの町歩きをしようって事になった。
「そう言えば…」って振り返ったらシーラさんは、そのままの体制で器用に眠りこけていた。
こういう時、鍵を掛けなくても部屋に戻れる主従コネクティングルームは便利だなぁ。
僕は繋ぎのドアからそっと自分の部屋へ戻って、おじいちゃんの露店で買った魔法付与されたコップを鞄から一つ出してみた。
試しに使ってみよう。
歯ブラシを置いておくのに良いと思うんだけどな…。
このコップ、口の部分が少し湾曲してるところがあるからさ、そこに歯ブラシの柄がうまくはまるんじゃないかなって思って買ったんだけど。
僕は使った歯ブラシをコップの上に置いて洗面台に置いてみる。
うん。これ良いんじゃない?
これなら口をゆすぐのにも使えてちょうど良いじゃないか。
軽めな自動浄化が付いてるって言うから、水を入れるだけなら使う度のコップ洗いも気にしなくて済みそう。
うん。良い感じ。
帰ったら二人にもあげよっと。
◇◇◇
午後は魔石生産人のリブロさんのところへ行くから、その前に町へ出て、お昼の屋台飯を頂く。
僕はルコッコの卵とチーズにマヨがかかったサンドウィッチ。
シーラさんはストライプテイルのバター焼きが入ったサンドウィッチ。
飲み物は二人ともパールカラントとルビーカラントのブレンドジャムがどっさりと入った紅茶にした。
頼んでいた鉱物での人工魔石の作成経過を見に、リブロさんのところへお邪魔する。
開口一番、満面の笑みでリブロさんが言った。
「今のところ、一つも失敗してないんだよ!」
リブロさんは岩石の人工魔石では、失敗することはもうほとんどないらしいんだ。
鉱物も得意ではあったけど、今まで鉱物を使うチャンスはなかなかなかったから、まだまだ作成数が少ない。自分でも少しずつ鉱物の人工魔石の研究をし始めたところとは言え、シーラさんから預かった鉱物を使うのって、やっぱり緊張したんだろうね。
シーラさんがリブロさんに託したのは、緑色のベルデ水晶石と青色のアズロサイトという鉱物。
リブロさんはベルデ水晶石を7個とアズロサイトを3個を人工魔石へと変化させていた。魔力の流出を抑える箱に入れられている。
うん。見た目は全然わかんない。どっちも緑色と青色の綺麗な石だ。
人工魔石の魔力確認用の魔道具をリブロさんが持ってきて、シーラさんに渡している。
「凄い成功率じゃない!リブロさん凄いわよ!!」
確認しながら、シーラさんが凄いを連発している。
リブロさんは、シーラさんが持ち込んだ鉱物の半分以上を、1日半で仕上げたんだ。
しかも慣れない鉱物の扱いで、失敗ゼロ。
確かに興奮に値する!すごい!!
シーラさんはこの調子でお願いしたいと話している。
残りはベルデ水晶石が3個とアズロサイトが2個。
「明日もまだタンデムにいるんだよね?出来る限り作ってしまいたいから…明日の夕方にでももう一度顔を出してみて貰えないかな。残ったらいつもの人工魔石と一緒に、届けて貰えるように手配するけれど」
「良いの?ありがたいわ。でも、無理はしないでね」
「もちろんだよ!一応、プロだからね。そんな失敗のリスクは犯さないよ!!」
◇◇◇
寝る前に歯を磨こうとして驚いた。
コップのふちに置いた歯ブラシが綺麗になってるじゃないか!
綺麗になってるというか…形状記憶歯ブラシ!!
こっちの世界の歯ブラシは動物の毛をブラシ部分に使ってるんだ。毛は丈夫なんだけど、毛束をまとめてる部分がちょっと弱いんだよね。
たまに寝ぼけてガシガシしちゃうとさ、取れるまではいかないんだけど、なぎ倒される感じになっちゃう事がある。
戻すのも大変なんだ。
僕だけかなと思ったらシーラさんもガイアさんも結構やらかしてたから、異世界あるあるなんだと思う。
僕の歯ブラシ、贔屓目で見て75度だった。
なんと!それが直ってるんだ。
柄に対して見事な90度の直角をキープ。
これ…地味に凄い嬉しい。
帰ってからにしようと思ったけど、早速シーラさんにも渡そう。
あれ…このコップの魔法付与って軽めな浄化機能って言ってたけど…違ったっけ…。




