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異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑱

 王都を一人で散策中、なんだか雰囲気のある露店で、ワークエプロンを試着させてもらった僕。

 そのお値段、何と日本円で約十万円。高い!

 が、それもそのはず、なんと魔法付与されてるエプロンだった。

 魔法付与が体感できるなんて事、知らなかった。

 この世界、情報がなかなか手に入らないから、こうやって実物にお目にかかれるのはすごくラッキー。

 王都に来て良かった~!

 ぺこっと頭を下げて立ち去ろうとした僕に、おじいちゃんがあわてて声をかけてきた。


「坊主…魔法付与のスキルがあるんじゃないのか?…まだ覚醒前か?」


 おじいちゃん…それはあんまりだ…、

 僕をどんだけちっちゃい子だと思ってんのさ…。

 仕方なしに子供のふりをして答える。


「あ…魔力はついこないだ覚醒したばかりなんだ。だから魔法付与があるにはあるけど…まだ使った事もなくって…」

「…他には何か感じたか?」

「着けた時に、エプロンが一瞬熱くなったような気がしたけど…」

「そうか…。…坊主、ちょっと待ってな」


 おじいちゃんは露店の後ろに積んである、大きな袋の中からごそごそと一枚のワークエプロンを取り出した。


「これ…ちょっと着けてみないか」


 僕に試着を勧めたそのワークエプロンは紺色の生地。

 藍染っぽい…まるでジーンズの生地みたいだ。良い色だなぁ…。

 それになんと!僕にぴったりサイズだった!!

 悲しいけど…これは子供用かな?悲しいけど…。


「これ涼しい!良くわからないけど、エプロン自体にも何か…反発力みたいなものを少しだけ感じました。すぐに消えちゃったけど…。あとは、さっきのよりもかなり強く体に膜が張られる感じもしました」

「そうか…。これは…わしの倅が幼い頃に身に着けてたもんでな。もう…もう手に取る事もないと思ってたんじゃが…。お古なんだがな…貰ってやってはくれんか」

「えっ!いやいやいや…そんな、頂けませんよ!!」

「似合っとるぞ」

「でも……」

「これは坊主が感じた通り、さっきのよりも強力な防御力がついとる。あとは布地の耐久性も強めに付与されとる。ただし、かなり古いものだからあと10年15年もしたら魔法付与は弱まってくる。…だから最後に、こいつにもうひと働きさせてやってはくれんか」


 ひぇぇ…そんなエゲツナイエプロン貰えません!


「でも…」

「わしはもう店を畳んだ隠居の身だ。明日、カサンドラに住む娘家族のもとへ行くのさ。この露店も国を跨ぐ引っ越しの為の荷物減らしなんじゃよ。坊主が使わなけりゃ、このワークエプロンは日の目を見る事もないじゃろう」


 おじいちゃんは話を続ける。


「魔法付与を体感だけでわかる奴なんざ、今はほとんどおらんだろう。あまり言いふらしたりせんほうが身の為だ…気をつけなさい」

「はい…」


 いけない…ついつい言っちゃた…気を付けます…。


「あ、あの…魔法付与ってきちんと修行すれば、なんにでも付けられるようになるんですか?」

「うーん。それはその人次第だろうな。わしは道具職人だったから、自分が作った道具に固有スキル『魔法付与』が出ておったが、30歳過ぎくらいか…他の物、ほら…この防具やこっちのタオル…こういう、他の人が作った物にも魔法付与ができるようになったんじゃ。まだ何も習っとらんのに、体感で付与を感じる坊主だからな。しっかり修行を積めば、きっと沢山の物に付与できるようになると思うぞ。」


 おじいちゃんはそう言うと、目を細めて僕を見つめた。


「しかし本当に似合っとる…誂え品のようじゃ。そのまま着けて帰ったらいい。きっと修行にも役立つはずだ」

「はい。あの…ありがとうございます!大事にします!!」

「…大事になんかせんでもええ。たくさん使ってやってくれ。わしは…わしも誰かにこれを使って貰おうなんて思える日がくるとは…まさか思わなんだ…」


 僕は軽めな浄化機能が付いているという、4個セットの小さなコップを銀貨2枚(日本円で約二万円)で買った。

 たぶんだけど、すっごく値引きしてくれてる。たぶんじゃないよね、ものすっごく。

 でもこのコップ…なんだかすごく気になっちゃって。一目ぼれってやつ。

 ここはご厚意に甘えて買わせて頂こう!


 おじいちゃんは、妙にすっきりしたような表情を向けて、紺色のワークエプロンをつけた僕を見送ってくれた。


 ありがとう!僕、大切に沢山使うからね!!


 ◇◇◇


 結局、魔法付与のできるおじいちゃんの露店を見た後は、一本内側の道を通って東門側へ戻る事にした。


 読み本や冊子、料理レシピや刺繍の図案なんかを売っている雑貨屋さんを覗く。

 やっぱり僕が求めてる情報は得られそうにない。

 王都ですら無理って…どうすりゃいいのさ。


 その後は大量生産品の道具屋さんを覗いたり、食料品店で面白そうなものがないかチェックしたり…時間はあっという間に過ぎていった。

 内側の通りも、屋台や露店が沢山出ていたので、通りしなにチェックする。


 きゅうり売ってる…やっぱり大根みたいなサイズだった。

 なんでこの世界の野菜ってこんなに大きいのかなぁ。

 そう言えば…きゅうりのタネは大きくなかった。

 …やっぱり異世界産の野菜は地球産と似て非なる物、なんだろうね。


 全財産は大銅貨7枚(日本円で約七千円)

 僕の生活に、いくらお金が不要だと言っても…心もとないからね。

 ちょっと散財しすぎちゃった。

 お金、貯まる気がしなくなってきた…


 ◇◇◇


 僕が待ち合わせ場所へ戻る。ちょうどいい時間だ

 昼にやっていた屋台は、店じまいを始めていることろもちらほら出てきている。

 あ、蜂蜜果実水を売っていた店も畳み始めている。

 ぼんやり見ていたら、店のおばちゃんと目が合った。


「ごめんよ、もう売り切れちゃったんだよ」

「あ、いいんです」


 違います違います。買い物客じゃないんです、ぶんぶんと首を横に振る。


「あ、これ…いいものあげるわ」


 そう言って、油紙に包んだ小さな飴を、僕の手のひらに二つのっけてくれる。


「これは魔獣の蜂の蜜でできた飴ちゃんだよ。美味しいからお食べ」


 魔獣の蜂の蜂蜜飴だって。

 魔獣の蜂…なんか刺されたら確実にお陀仏な雰囲気。怖い…。

 そんな事を思っていたら、シーラさんが小走りで駆け寄ってきた。


「ごめんごめん。ちょっと遅刻しちゃった~」


 そんなに走ってこなくても良かったのに…。

 水筒のお茶を飲んで一息ついている。

 タンデムに戻る前に一休みするのも良いかと思って、僕はさっき貰った魔獣の蜂の蜂蜜飴をシーラさんと食べてみる事にした。


 包んである油紙を開ける。

 くんかくんか…この匂い…。


 うんま~ぃ!なにこれ…もしかしてもしなくても…これ…みかんじゃないか!

 僕、懐かしくて泣きそう。

 なんかこたつが欲しくなってきた…。

 

 どこかにみかんっぽい果物があるんじゃないの?

 ぜひぜひ食べてみたい!

 シーラさんも知らないって言うし、お店のおばちゃんに聞けばよかった~。



 僕はまだ見ぬみかんの事で頭がいっぱいになっちゃってたけど、ワークエプロンに目ざとく気付いたシーラさんと、露店での出来事を話しながら、王都を後にする。


「魔法付与された物をタダで譲るなんて話、聞いたことがないわよ」


 そう言って、ちょっとビックリしてちょっと心配してる。

「変な人に目をつけられたんじゃないわよね…」って言いながら、後ろを何度も振り返りながら橋を渡るんだ。


 おじいちゃん、そんな悪い人には思えなかったけど…

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