異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑯
初めての王都見物におのぼりさん全開で挑む、アギーラです。
王都へ行くにはまずタンデムで、王都へ入る為の第一検問を済ませるんだ。
タンデムはエヴァンス領から王都へ入る場合、ほとんどの人が利用する町だからね。タンデム側を出る際に検問してしまおうって感じ。
王都側で入都にかかる検問時間を、大幅に減らせる仕組みになってるらしい。
まずはタンデムの王都への門、西門に繋がる場所に設置されている、大きな検問所へ行って、身元や手荷物のチェックと王都への入都税支払いを済ませる。
さすが王都、中に入るだけでもお金取るんだって!
入都税は一律で一人大銅貨1枚。
支払うと引き換え券のようにな木札を渡されるので、王都側側の検問所に着いたらその札を返す感じ。
タンデム側で身元チェック済み&入都税支払い済みって事の証明札なんだってさ。
札を貰った人たちは、囲いのあるスペースにそのまま移動する。
他の人に札を渡して、悪用されないようにする為みたい。
混んでいる時は、ここで待機させられたりもするらしいけど、今日はすぐに橋を渡るようにと案内される。
あとは検問所の先にある、門をくぐって歩くだけ。
門の先は、白っぽい石畳の一本道になっている。
両端が歩行専用。真ん中は馬車用。
石畳の上以外は歩かないようにと念を押されていたから、その通りにまっすぐ進む。
道の周辺は木も草も何一つない。ただ黒っぽい砂利が敷かれた土地が広がっている。
ここまで見渡しが良いと、危ない輩がこっそり紛れ込む事はできないだろうね。
警備の人が等間隔に立っていて、実に物々しい雰囲気。
王都だから警備が厳しいのは仕方がないのかな。
一本道の先には立派な橋が架かっている。
この橋を渡った先はもう王都なんだ。
橋は…石と木と金属で出来ているみたいだな。
すごく立派だし、馬車もすでに何台も通過しているから、きっと丈夫…な、はず。
ちょっと異世界の橋の構造を信用していいのかどうか不安ではあるけど、馬が大丈夫なら僕だって大丈夫なはず…な、はず…。
商人や貴族の自家用馬車が馬車レーンを往く。
紋章のようなものが客車の側面に入っているのが見えるから、見る人が見れば、どこぞの馬車なのかすぐにわかるんだろうね。
タンデムから王都へは、別料金だけど国営のピストン輸送の馬車もあるよ。
ギルドのレンタルパック馬車はタンデムまでだから。
幼い子供を抱えた人や歩くのが大変な人、ちょっと荷物が多い人なんかが利用するらしい。
でも大抵は馬車や馬乗りでタンデムまで来た人達だから、みんな喜んで歩いてる。
タンデムから王都へは個人的な護衛は不要なんだ。
まぁ、これだけ警備の人がいれば、そうそう悪い事は起きないだろうね。
混雑してなければ検問も含めて、だいたい1時間くらい見ておけば大丈夫なんだって。
だから大抵の人達は王都見学をする時は、タンデムの町からの日帰り。
何でも宿泊料が2倍~3倍違うとな…王都恐るべし。
おぉ…さすが王都、門もご立派。
ここは王都の東門って事らしい。
タンデムへ行く橋だけがあるんだけどね。その東門の目の前には大きな検問所があった。
王都側の検問所、タンデム側とのダブルチェック体制ってやつ。と言っても、王都の検問はとっても簡単。
魔道具らしき物を手にした警備隊による手荷物改めと、さっきの木札を渡しておしまい。
確かにここで混雑して、うろつかれても逆に困るよね。
◇◇◇
検問を済ませて王都の東門をくぐる。
見渡す限り石畳が広がってるよ!
さすが王都、畦道がないや。
それに色彩が違う!
だって、真っ白い服を着てる人とかいるんだよ!
生成りじゃないんだ!!
そんなことにすら驚いてしまう僕、完全に異世界の地方都市(!?)に、しっかりと馴染んでしまってる気がする…。
シーラさんから南側方向へ行く道を往復して、午前中の王都見物にしようと言われたので、連れ立って歩く。
しばらくするとシーラさんがキョロキョロしだして、店先に商品を広げてる布屋さんで働く子供に何やら話しかけている。
どうやらお目当ての店がなくなっちゃったらしい。
ちょっと面白い道具や質の良い品物を色々と取り揃えてて、王都に来るとシーラさんは毎回楽しみにお店に足を運んでいたんだって。
僕も行ってみたかったな。
道すがら道具屋さんや魔道具を扱ってるお店や古着屋さんも覗いたけけど…なにこれ高い!
ブランドものとかあるのかなぁ…いや、素材が高いのか?
僕にはさっぱりわからん。
おのぼりさん全開でキョロキョロしながら歩いていると、南門が出てきた。
南門はほとんど開けないらしい。
今も閉まったままだ。
なんでも門を開ければ目の前がエリーゼ湖なんだって。
きっと火事があった時なんかの緊急用の門なんだろうね。
そこで、シーラさんから「そろそろ貴族街の方に出ちゃうから、もう一つ内側の道を歩いて東門へ戻ろう」って言われたんだ。
一応、そのまま貴族街の脇を通り抜けて西門まで行けるし、なんならそのままぐるっと一周もできるけど、貴族街の方はシーラさんもあんまり行ったことがないし、時間もないからって、東門側へ戻る事になった。
貴族街は南門と西門の間にあるらしい。
西門はトラヴィス領へと繋がっていて、西の国、カサンドラへ続く大主道がある。
その大主道から枝分かれしてる道を南下すると南の国、インデガルダへ行けるんだって。
他の国も見てみたいけど、とっても大変な道中なんだろう。
いくらクッションがいっぱいあっても、僕には無理そうだな…。
そう言えばミネラリアにも西側に貴族街があるらしい。
なんでも12月くらいからが社交シーズンってやつで、ミネラリアにも貴族が来るらしいよ。
ま、王都にしろミネラリアにしろ、貴族と出会うイベントとかは勘弁だから近づかないけどね。
一本中央寄りの道に入り、もと来た方角へと歩く。
なんか…城壁がちらちら視界に入るから圧迫感があるなぁ…。
本当に王都へ入ってしまうと、逆に『精霊の祈り木』の丘は見えないや。
近すぎて逆に見えない、ってやつ。
王都は、まずど真ん中に『精霊の祈り木』があって、周りが丘でしょ。
その周りの敷地を王族が管理してる。
さらにその周りは、お城とかがあるところがあって…王族とその親族である侯爵家が管理している敷地がある。
ここに城壁が築かれてるんだ。
そして最も外側に城下町が配置されてるって感じ。
弓道の的みたいだ。
点数が一番低い外枠部分が城下町…今、僕らが歩いてる所。
シーラさんと東南の一角を一通り歩いて戻ってきた僕らは、屋台で食事をすることになった。
検問所の近くにはたくさんの屋台が出てるんだよ。
僕らみたいな人達をターゲットにしてるらしく、屋台前にはベンチとテーブルの用意もある。
僕はネオネクトウのコンポートとチーズが入ったサンドウィッチ。
シーラさんはストロング・ザ・ボアとルコッコの卵が入ったサンドウィッチを買う。
飲み物はシーラさんが蜂蜜の果実水を見つけたので、二人ともそれを頼むことにした。
蜂蜜は、たまにしかお目にかかれないらしく、シーラさんは見かけたら必ず買うんだって喜んでる。
蜂蜜。この世界にも蜂がいるんだ。
この世界は甘いものは高価だからなぁ。
でも、年に数回飲めるか飲めないかだからって、買ってもらっちゃった。
ぐるぅぐぅぅ…これは蜂蜜レモンだよ!
基本のロムロム果実水に蜂蜜。
鉄板のお味でした。
ごちそうさま!
食後はお互い別行動。
僕は色々なお店を見てまわりたいし、シーラさんは友人に会いに行くんだって。
屋台飯でまったりした後、僕らはここに5時集合って事で解散した。
あのさ…シーラさんが、銀貨1枚くれたんだ…。
王都は物価が高いからって。
僕が初給金でプレゼントしたお酒の代金より多いじゃないか…




