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お芋ちゃんの恩返し?⑤

 あれ?思ったよりも企業感。

 世紀末風モヒカンもインテリモヒカンも見当たらない。

 只今、異世界ギルドに来ております、ベルこと成留鈴花でございます。


 ちょうど冒険者達の対応が一段落して、商業ギルトと生産ギルドに用のある人達がぽつぽつ入って来始める時間帯だから、ギルド内はとっても静か。

 受付のおじさんに院長先生が少し話をして、勝手知ったる感じで二階へと上がってまいります。

 へぇぇ…院長先生ってギルドに詳しいんだねぇ。


「…ベルは大丈夫そうだけど、緊張しなくていいからね」


 部屋の前で院長先生が言ってきた。

 …大丈夫そうって何よ。

 なんか面の皮が厚いって言われた気がする…。


 ◇◇◇


 ――トントントン


「サワットさん、失礼しますよ!」


 目の前に立っているのは女性…。

 そのケモ耳とシッポは…ビ、ビロードのような光沢…なめらか~なブルーグレーの…ロシアンブルー(猫種名です)じゃないのーーー!

 触りたい触りたい触りたい…。

 心頭滅却…ここは我慢よ、一世一代の我慢!

 手がちょっとわきわきしちゃったけど、28歳プラス4のワタクシ、頑張りました!


 ◇◇◇


 商業ギルド長はサワットさんという、お綺麗なおばちゃま。

 今回の金銭預託の件、書類として残すのはもちろんだけど、サワットさん自身が面談をすることで、ギルド長の記憶にもしっかり残すっていうの。

 なんでもサワットさんはすっごく記憶力が良いんだって。

 この預託制度を利用するにあたって、何か不慮の事態になった時に対処できやすいようにって、今日のこの席を設けてくれたらしい。


 なんせギルド登録はまだまだ先の話。

 親がいればなんてことないんだろうけど、孤児院の子供だからね…ちょっと特殊な事例になっちゃったのかも。

 もちろん魔力覚醒したら自分の魔力を登録して、別の金銭預かり制度を利用することも出来るらしいけど…院長先生が代わりに預かってくれるっていうなら、このままで全然かまわないから、私としてはそのままにして、やがてはベルちゃんにバトンタッチの心づもりよ。

 

 院長先生から以前教えてもらったのと同じような説明を、サワットさんがもう一度してくれる。

 無事に金銭のやりとりの話は終了。

 私の本来の役目はもう終わりだから帰りたいんだけど、そうは問屋が卸さない。

 

 いや、私も覚えめでたくしておくことは、やぶさかでもないもん。

 ここはきちんとアピールしておかねば。

 メインはお芋ちゃんの恩返し(?)品の糸だけど、ドラジャの搾りカスも名前を憶えてもらう一助にはなると思うの。自分の魂がこの体から消えても、このシステムをきっちり生かしておいてもらいたいからね。

 

 タイミングを計ったかのように、お兄さんが紅茶を持ってきてくれる。

 テーブルの上に置かせてもらっている、フワンフワの籠を見ながらサワットさんが口を開いた。


「…で?ドラジャの搾りかすレシピの中から、いくつか作って持ってきてくれたんですって?」

「はい、このレシピカード案の中から。今日はこちらを試食して頂きたいと思い持参しました」


 院長先生と話すときより、丁寧な言い回し。そして、ちょっとずつ絶妙なさじ加減で子供らしさも混ぜ込んで…これが結構気を使うのよ…。


 籠の中から、ドラジャの搾りカス料理達を取り出して、テーブルの上に並べていく。

 レシピカード案を書いた紙を、販売されてるカードサイズに整えたものも渡す。

 院長先生とは少し話をしているらしいから、ラヴァリマの餌を作る時に出るゴミがもったいなくて、利用を考えた料理だとだけ説明ね。


「まずはこちらを…マヨネーズドラジャガです。これが一番簡単に作れます。孤児院でもサンドウィッチのかさ増しに使えるから評判が良いの。今日はキュウリと人参も入れましたが、じゃがいもだけでももちろんかまいません。小さくパンを切って来たので、上に乗せて食べてみてください」

「…さっそく頂くわね」


 …。

 ……。


「次はどれを食べさせてくれる?」


 おっ、イタイケナ幼女に無言で圧力かけてくる感じ。

 さすがは商業ギルド長。


「次は、これを…ドラジャガモチです。手が汚れないし、おやつに食べやすいかなって思って作りました」


 …。

 ……。


「…最後はこれかしら?」

「持参したのは、こちらのドラジャ蒸しパンで最後です。その前に、ドラジャの搾りカスの乾燥タイプの説明させてください。」


 三種類も食べてもらうんだから、ここで一旦休憩を取っていただこう。

 小瓶に入った粉になったドラジャの搾りカスを渡す。


「これはまだ実験途中なんですけど…搾りカスは日持ちがしません。ラヴァリマの餌を作った日になら食べても大丈夫だけど…豆だから腐りやすいんです。それで余った時に作れる、少し日持ちする乾燥タイプがあったら面白いかなって思って…」


 小瓶の中から粉を少し手に取る。


「これは天日干しでざっと乾燥させてから、生活魔法の乾燥で一気に乾燥してもらったものです。もちろんコンロを使っても良いと思いますが、豆の原価を考えるともったいないと思うし、恐らく乾燥魔法を使うのが一番日持ちが良いように感じてます…。まだどの程度の乾燥具合でどのくらい持つか…色々と実験の最中なんです。もし日持ちが確認出来て製法が確立したら、この作り方を全部のレシピカードにおまけでつけたらどうかなって」


 生活魔法なら、庶民でも使える人が多い。家族やご近所さんの中に使える人がいる家庭もあるだろう。

 孤児院では搾りカスが残らなくっちゃって戦意喪失してたけど、そういう家庭ばっかりじゃないもんね。戦意復活よ。


「これはまだ今後の課題なんですけど、こういう用意もあるってお話しておきたくて。…では、最後の料理、ドラジャ蒸しパンをどうぞ。今日はルコッコの卵が入っているバージョンで作りました。味はついてないので、ジャムかなんかを切れ込みに挟んで食べて貰えると、少しのジャムでもやわらかい食感なので、甘いものを沢山食べたような気になれるかなって思って。もちろん、お肉とチーズなんかを挟んでも美味しいです。今日はネオネクトウのジャムを持参したのでこちらを薄く挟んでお召し上がり下さい」


 …。

 ……。

 

 サワットさんは食べ終わると紅茶を一口飲み、じっとレシピ案を見つめている。


「ちょっと思ったのだけれど…これ…レシピカードとしてじゃなくって、冊子として売りだしたらどうかしら?」


 え!冊子?

 あの『嗜みシリーズ』みたいな!?

 あんなの作るの大変じゃない?

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