異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑮
最近分かってきた事なんだけど、人工魔石って作る人によって個性が出るらしい。
もちろん魔力が上手く込められてるか否かっていう出来の個性もあるんだろうけど、ここで言う個性はそういう事じゃなくってね。その人の持つ、『色』が関係してくるらしいんだ。
色魔法を持ってる訳じゃないのに、『色』の要素を持ってる人がいるらしい事がわかってきたんだって。
昔は沢山の人が色魔法を持ってたらしいから、その名残りなのかもしれないね。
例えば、生活魔法で考えればわかると思うんだけど、手から水を出す。
これはどう考えても青色魔法の力を借りてる、水の魔法。
火を扱えるなら赤色魔法の力を借りてる。
浄化は緑と青…風と水の混合された力って言われてるんだ。
ね?色魔法としてでなくても、そういう感じでその人その人の『色』を持ってる場合がある。
全く持ってない人もいるみたいだし、ここらへんはまだまだ研究段階らしいけどね。
なんでも、その個性を人工魔石に投影する…岩石や鉱物に魔力を込める時に、色のイメージを一緒に込めながら人工魔石を作ると、その色に特化した魔石が出来る事がわかってきたんだって。
水の蛇口には青の力が込められた魔石を、コンロに使う魔石には赤の力をって、そんな感じ。
今までは、「なんかこの人工魔石は使用期間が長かったなぁ」とか、「よくもった!ラッキー」なんて運試しみたいな魔石耐久が、実は運じゃなかったのかもしれない…って、事かな。
魔道具の使用意図とマッチングした色の力の入った魔石を使う事で、魔石の耐久があがるって事がわかってきたんだ。
しかも、鉱物で作る人工魔石についてはさらに効果が高い。
ここらへんもまだまだ研究途中らしいけど、近年少しずつ解明されてきてるんだって。
鉱物…例えば宝石で言うとさ、ルビーは赤、サファイアは青…って具合に色があるでしょ?
その色と同色の魔力を込める事で、さらなる魔石耐久が見込めるみたいなんだよ。
ただ、宝石はこの世界でもすっごくお値段が高いからね。人工魔石として使われる事はないと思うんだ。
何度も言うけど、失敗したら粉々だから。
いわゆる、宝飾品としてこの世界で使われていない鉱物…宝石以外の天然鉱物で、人工魔石研究が進められているんだって。
魔道具の急激な発達で、魔石研究もここ最近はすっごく活発なんだよ。
でも、未だに魔石の色を感知する魔道具は作れていないらしい。
これがもしできれば、天然魔石や魔獣魔石の色もわかるかもしれない。
魔石や魔道具の発展に大きく役立つだろうね。
魔石生産人が『色』をまとっているかどうかは、素地の問題だからどうしようもないけど、これが出来る人と出来ない人にわかれてくる。
そしてこのリブロさん。実は生活魔法がかなり使える人。
そう、何色もの人工魔石を作る事ができる、人工魔石職人だったんだよ。
それでシーラさんは今回のお願いをしに来たって訳。
シーラさんが袋からいくつか鉱物のかけらを出してきた。
リブロさんは、基本的に顧客側から石を預かって魔力を込める仕事は受けていないから、そこを無理にお願いしてるらしいんだけど…。
「無理を言って悪いんだけど、どうしても協力して欲しくって…」
ベルデ水晶石っていう緑の水晶石が10個。
青いアズロサイトが5個。
「こっちに緑の力、こっちに青の力を注いで貰えないかなって思ってるの。こんなことを頼むんだもの。失敗は覚悟の上よ」
親指ほどの大きさの鉱物を前にして、リブロさんが肯いた。
「わかりました。もちろん、最大限の注意を払って作らせてもらいます。僕もね…鉱物人工魔石は、今後も増えてくると思うんですよ」
「そうね。もしかしたら、今後は岩石の人工魔石と同じ…いえ、それ以上の需要が出てくるかもしれないわ」
「でも…正直なところ、シーラさんだから受けさせてもらおうと思いましたけど、付き合いが浅い人とは、やっぱりこういうのは出来ないかな。人から預かる鉱物って失敗のリスクを考えすぎちゃって、上手く魔力を注げない気がするんです…」
「受けてくれて感謝してるわ。こっちも昔馴染みのリブロさんだからお願いできるのよ。リブロさんが失敗しても、それはリブロさんが真剣に取り組んでくれた結果だって分かるけど…他の人だったらそうは思えないかもしれない。信用の問題だもの」
「そう言ってもらえると嬉しいけど…うん…とにかく引き受けた事だからね。ありがたくお仕事を受けさせてもらいます」
シーラさんは言いにくそうに切り出した。
「こちらこそ、ありがとう。事前に早馬便で話した通り…私たち、タンデムにあと4泊する予定なの。無理を言って申し訳ないのだけれど…一つ二つ、私達の滞在期間中に作って貰える時間は取れそうかしら?」
「うん、もちろんそのつもりにしてたから大丈夫だよ。そうだな…明後日の午後、また来てくれるかい?5つ程度は魔力を込めてみるつもりだから」
「じゃぁ…もし…そうね…3個…3個失敗したら一旦やめてもらいたいの。リブロさんの腕はよくわかっているけれど、特定の鉱物との相性もあるだろうから。もし、相性がよくなさそうなら、違う鉱石でお願いすることも検討したいし…」
「そうだね。僕もそう思う。実は少しね、僕も自分で鉱物を購入して、今後に備えて勉強してるんだ。ちょっと見ていくかい?」
「是非見せてちょうだいよ!さすが、リブロさんだわ!!」
「まぁ、僕の場合は最初から鉱物とも相性が良かったからね。…これがセレストで採れたドラゴンズアイ。こっちはジネヴラの光珠水晶石。あと…これは僕が見つけたんで名前はわからないけど…鉱物だと思うんだ。魔力が込められたからね」
そういって明るい緑の石をテーブルの上に置いた。
ラメみたいに光ってる部分があってすごく綺麗。
「もしかすると、これを見つけた場所に鉱山があるのかもしれないんだけど…ちょっと危険な地域でね。冒険者でもない僕がウロウロできるような場所じゃなかったんだ」
「へぇ…これ、すごく綺麗ね。魔力が込められたとなると、鉱物なんでしょうねぇ」
「うん。色がなかなかくっきりしてるから面白いでしょ?なんとか手に入れて…できれば今後、本格的に鉱物の人工魔石が求められる時代になったら、うちの商品で出していきたいなって思ってるんだよね」
「ねぇ…これ、売ってくれないかな。魔道具を注文してくれたお宅の奥様の目の色にそっくりなのよ。これで作ったら絶対喜ばれると思うの」
「一応、鑑定に出してるから、もしそれが間に合えばかまわないよ。2週間後くらいになると思うけど…」
「もちろんかまわないわ。ベルデ水晶石でとりあえず作動させておいても良い…鑑定で駄目だったら、そのままベルデ水晶石を使えば良いだけの話だもの。ううん…魔石として使えなくても装飾って考えるのも悪くないかもしれないわ。そういえば、鉱物の人工魔石の価格帯ってどんな感じにするつもりなの?前に手紙に書いてあったままの設定?」
「僕も鉱物の取引なんてまだしたことがないからね…。あの設定で基本的には行こうと思ってる。もちろん鉱物が今後…」
二人は価格設定の話に夢中になっている。
僕はお店で売っている魔石を見てみる事にした。お店と言ってもほとんど何も置いてないガランとした店内。お客さんと商談するだけのスペースって感じだな。
魔石生産人って本当にスペースのいらない仕事で羨ましい。
僕、道具職人なんて目指そうとしちゃってるけど、町に広い家を借りるのはまだ無理そうだし…今後、どうしよう…いつまでもシーラさんに甘えられないし…ちゃんとお金を貯めて、先の事を考えないとなぁ。
人工魔石と魔獣魔石が少しだけ置いてある。
魔力が流出しないように特別なケースに入ってる…天然魔石はお店には出してないみたいだ。
充填可能式魔石だもん、とってもお高いらしいからね。
わ~、でっかいな…これが魔獣魔石かぁ。大型魔獣のものだって。僕の拳ほどもあるその魔石は一見ただの石っころ。
そうそう、魔獣って個体差があって、魔石の位置がみんな違うらしいよ。
同じ種類の魔獣でも、魔石の位置は頭部にあったり右手にあったりって、バラバラなんだって。
魔石がある部分がその魔獣の急所とされてるんだけど、そこを見極めるのは難しい。外からじゃ全く分からないからね。
もちろん首をはねてしまえば確実に魔獣は死ぬから、そこまで急所に固執して狙う必要もないんだろうけど。
しっかしまぁ、シーラさんが魔道具に使っている、普通の魔石と比べると格段におっきいんだけど。
うーん…体内から出てくる石かぁ…胆石だったりして…




