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異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑭

 さて、今回の旅のメインイベント、人工魔石の話をしよう。

 とは言っても、僕も詳しい種類なんかはわからないんだけどね。

 なんでも魔力耐性のある岩石や鉱物がこの世界にはあるらしいんだ。


 魔石生産人はその岩石や鉱物に、自分の魔力を圧縮して込める事ができる人がなれる職業なんだよ。

 魔術師もこの魔石作りができる人が多いらしいけど、彼らは国が抱える魔法省に入ったり、貴族や商人に専属で雇われたりするみたいだから、中々市井にはいないんだ。


 どんな人がなれるか。

 それはまず何をおいても魔力量。

 稀に、2000とか3000とかそれ以上の魔力を持ってる人が今もいるんだって。

 そういう人はいわゆる『高魔力持ち』って事で、国から召し抱えのお声がかかったりもするらしい。

 『稀に』ってところでビクッ!ってなったけどね。

 国の召し抱えとか…僕、そういう系は絶対無理なんで。

 のんびりスローライフを希望だよ!これ生産職異世界転移者の基本でしょ。

 

 ま、僕の事はさておき…『高魔力持ち』の彼らはどうするか。

 真っ先に、岩石と自分の魔力の相性を調べる。

 …そりゃそうだよね。

 自分の身ひとつで、実入りの良い店の主人になれる可能性があるんだから。

 しかも時間に自由がきいて、場所はどこにいてもできる…借りる店舗だって小さくていいし、なんなら自宅でも良い…メリットしかないもん。

 特定の職業にどうしてもなりたいって人なんかは別だけど、僕から言わせれば最高の職業だと思う。


 ちなみに、『魔石生産』ってスキルはないみたいだよ。

 これはあれだな、ニュータイプ(新人類)ってやつ。

 そのうち、そういうスキルを持つ人も出てくるのかもしれないね。


 そう言えば、鉱物って…宝石とかのことだよね?お高そうな感じだけど。

 あぁ…やっぱりそうだって。

 もちろんピンキリだけど、キリでも岩石の何十倍もの価格らしい。


 それでいて、魔力の内包できる量は岩石と同じ。魔石としての使い具合も同じ。

 だから、岩石と相性の良い人が魔石生産人になれるんだって。

 まぁ、そりゃそうだよね。

 鉱物を魔道具に使うにはもったいないもん。

 魔力を込めるのに失敗すると、下手すると粉砕しちゃうらしいし…。


 リブロさんも ご多分に漏れず魔力は岩石との相性がとても良くって魔石生産人になったらしい。

 でね。リブロさんのすごいところは、自分の魔力と相性が良くて安く手に入る岩石を、自ら探したってところ。

 他国へ行ったり、山に入ってみたり、魔石生産人をしながら何年もコツコツと調べてたんだって。

 そしたら、欲しいものは意外と近くにあったんだ。


 リブロさんの住むこのタンデムは、エリーゼ湖から北上して海へと繋がるロードスター川の河口部に広がる町。

 川を北上すればジネヴラという北側の国があるんだけど、タンデムからほど近い、その北上する川沿いで、自分の魔力と相性が良い岩石を見つけたらしいんだよ。

 自力で探したんだよ?凄いの一言だね。


 リブロさんはその岩石をメインに、人工魔石を作っているんだって。

 タンデムに住んで、自分で岩石を拾いに行って…人工魔石が実質無料の衝撃。

 格安SIMの宣伝じゃないからね…。

 もちろんシーラさんもその無料魔石、いや、人工魔石を購入していてお世話になってる訳なんだけど、今回の相談はちょっと違うんだ。


 鉱物。

 シーラさんは今回、鉱物を使って人工魔石を作って欲しいらしいんだよね。

『岩石・鉱物と魔力の相性が良いから…僕はどっちでも作れるんだけどね。鉱物で作る意味はないからなぁ』って、話を大昔に世間話をした事を覚えてたらしい。


 シーラさんが作ってる今回の注文品。お金に糸目はつけないと言われて、物凄く見た目にもこだわってる。

 シーラさんは、とってもセンスがいいんだ。

 だから、そっちの方面でも期待されちゃうみたい。


 これは性差別って訳じゃないんだけど…魔道具師って何故か男性が凄く多くて…その…中には美的センスのかけらもない人もいて…いや、もちろんそうじゃない人も沢山いるんだろうけど。


 複雑な魔道具になればなるほど、設計図案の後の作業は一人でした方が、魔道具としての性能が良くなるって話だったでしょ?

 そうすると…ねぇ。

 どうしても家に置く物の見た目って、そのお家の奥様が主導権を握ってるっていうかさ…。

 まぁ…そういう事なんだよ。

 性能を無視して、魔道具の中と外を別の職人に頼んでも良いけど、そこに両方しれっと出来ちゃう人がいたらどう?やっぱりその両方出来ちゃう人に頼んじゃうよね。

 まぁ…そういう事なんだよ。


 今、シーラさんが作ってる魔道具はね、冷黒鳥って言う、とっても珍しい魔獣の羽を組み込んで作る大型魔道具なんだ。

 なんでも、冷黒鳥の羽を使って、ずっとヒンヤリする貯蔵庫を作成するらしい。

 そう、冷蔵庫だよ!

 この世界にはないのかと思ってたら、魔道具でできるんだ。

 やっぱり、魔道具ってすごいや。


 でも冷蔵庫は一般的にはないに等しい。

 もちろんシーラさんのお宅にもないよ。

 なにせ、その珍しい魔獣の羽がないとできないんだから。


 真っ黒な姿のその鳥は、冬を運ぶ鳥って言われてて、姿を見せるのは初冬だけ。

 それも人里離れた山の中でチラっとだけしかお目にかかれないって代物だから、なかなか手に入らないらしい。他の時期は全く違う姿をしてるんじゃないかとか…色々言われてるらしい。それくらい姿を見せない鳥なんだって。


 この冷黒鳥、生きてる間は普通の体温でまったく冷たくないんだ。

 死んで魔石が取り出された冷黒鳥の羽が冷たくなるんだ。その羽が物凄い冷気を発生させる。

 自然死した場合は、体内から魔石が取り出されてないから、そのまま朽ち果てるだけ。


 冷気を通さない金属が見つかってから、この魔道具が徐々に広まっていったらしい…お金持ちの人たち限定だけど。

 魔石を使って、貯蔵庫内に羽の冷気を循環させるんだよ。

 しかも、その冷たさは10年保証!ってくらいに10年程保つらしい。


 ちなみに今回の旅でシーラさんが商談してたのって、すべてその魔道具の為のものでね。

 冷蔵庫ってさ、大きくて存在感があるでしょ?

 しかも家庭用より業務用のイメージ。レストランの厨房とかにありそうなサイズ。

 

 だから…ちょっと奥様が難色を示してたらしいんだよ。

 でも注文主である旦那さんは、どうしても年中冷たい飲み物が飲みたいんだって、駄々をこねる。

 それで、最終的には奥さんが折れて『素敵な外観だったらかまわない』ってお許しが出たらしいんだ。

 喜んだご主人はシーラさんに注文したって訳。

 シーラさんはシーラさんで、冷黒鳥の羽なんて珍しい素材で、魔道具が作れるチャンスなんてめったに巡ってこないから、すっごくはりきってるんだ。


 見た目も重要だからね。シーラさんは鉱物の人工魔石の話を聞いて、実用と装飾を兼ねて鉱物人工魔石を使う事を思いついたんだって。

 仕組みは僕には全然わからないけど、もっと羽の力を長持ちさせられるんじゃないかって。

 冷黒鳥の羽を、一定の冷たい温度を保ったまま安定して保管する事ができれば、長く使えるはずだって言うんだ。


 でも鉱石だってピンキリ。シーラさんも宝石…鉱物には相当くわしいけど、リブロさんは魔石のプロだからね。そのリブロさんに相談しながら…できればシーラさんが用意した鉱物で人工魔石を作って貰いたかったんだって。


 もちろん早馬便で何度も話はしてきたらしいけど、出来れば少しでも試してもらって、実際の様子を確かめたかったらしく、今回はタンデムで5泊の日程を取ったんだ。


 それにしても…冷蔵庫いいなぁ。

 異世界生活を快適にすることにかけては労を厭わぬ気はがっつりあるけど、ルコッコだって捕まえられないだろう僕には無理だな…。

 いや、ルコッコってバカにする事なかれ。

 あいつら、めっちゃ走るの速いんだからね…

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