異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑬
昨夜は水の生活魔法に弄ばれた、可哀想なアギーラです。
大失敗。あの後、ステータス確認するの忘れてたよ。お漏らし回避でいっぱいいっぱいになっちゃって…。
生活魔法で魔力がどのくらい消費するのか知りたかったのに。
朝、ステータス確認してみたら、魔力180000/180000だった。
少なくとも生活魔法を2回使った分くらいは一晩寝たら回復するって事で…いっか。
翌日は、1階の食堂で朝食を食べてから、ご挨拶まわりを2軒。
その後で、この旅の一番の目的でもある魔石生産人のリブロさんのところに、ご挨拶に向かう予定になってるんだ。
日持ちしないから、なかなかお目にかかれないのだというチーズをこの食堂では時折出すらしく、シーラさんはそれを頼んでいたので、僕も同じものを頼んでみたよ。
ぽろぽろとした感じのチーズとトマトにきゅうり、ルコッコのお肉に黒ソースがかかったサンドウィッチ。なんだか、昨夜の晩御飯を彷彿とさせる気がしないでもない…サクサクうまい、キュウリがうまい。
これ、食べた事があるようなチーズだなぁ…そう、カッテージチーズっぽい!
久々に食べた味…チーズと言えば固いプロセスチーズが一般的で、それ以外食べた事がなかったよ。
どうやら、早朝に手作りしているらしい。
この宿屋…何気に凄いお宿なんじゃない?
追加で、カッテージチーズにネオネクトウのコンポートがかかっているサンドウィッチも頼んで、シーラさんと半分こして食べたくらい美味しかった。
ゆっくりと紅茶を飲んで、ご挨拶まわりに出発!
◇◇◇
一軒目は、シーラさんのお知り合いの魔道具師さんが経営しているという、魔道具店へご挨拶に向かう。
王都で修行してる時からの仲間ですごく信頼してるんだ。
もし病気や何かで仕事に穴をあけそうな時は、出来る限りお互いに助け合おうって約束してるような間柄なんだって。
ジェラルドさんという犬人族の男性だ。
僕は犬人…じゃないかもしれないけど、同じ犬人って事にしておいた。別に同じでも違っても何が困る訳でもないからね。
シーラさんが長く弟子を取らなかったからか、弟子の僕を見ていたく喜んでくれた。
しばらくすると子供達がわらわらわらわら出てきて大騒ぎ。
ジェラルドさんと同じ犬人族の奥様であるレミさん…犬人あるある子だくさん一家でした。
そうそう、この異世界でも犬人族は安産やら子作り祈願やらの象徴らしいよ。
他の獣人族だって結構なぁ…不思議だよね。
二軒目は、ゼストさんとゼスタさんという猫人族の双子兄弟がやっている配管業者さん宅。
配管業者さんはミネラリアにももちろんあるから、商売の付き合いって訳じゃないんだ。
この二人はシーラさんとガイアさんの幼馴染。商売上っていうよりは完全なお友達だね。こういう時でもないとなかなか会えないからってシーラさんもウキウキしてる。
僕は、配管の素材に関して前々から聞いてみたいことがあって、ゼストさん達に質問してみたんだ。
「配管って水回りも?」
「うん。配管ならなんでもやるよ」
「あの…もしかして、丈夫で柔らかい素材の配管…管なんてご存じないですかねぇ」
「柔らかい?」
「はい…変な例えなんですけど…ビッグアンダーバイトの焼き身みたいな…ああいうちょっと弾力があるような素材で、水に強くて曲がるような管がないかと思って…」
僕が言いたいのはホースが欲しいって事なんだけど、なんて言えば良いのか全くわからない。
メタルホースみたいなのもをって考えたけど、僕の知識じゃたぶん製作は無理だし、あれをこの世界で作るとなると金額が凄いことになるだろうしなぁ…。
「柔らかい素材の配管ねぇ」
「ゼスト…知ってるか?」
「うーん。聞いたことがないよねぇ…」
「あの、もし管に使えるような素材で、何か面白いものを見つけたらご連絡頂けませんか?もちろん、早馬代は僕が負担しますので」
「あ?…あぁ、それは構わないけど…水に強くて丈夫で曲がる管ねぇ」
「はい。あの…素材の情報だけでも構わないので、何かわかったら是非教えてください」
そのあとは、シーラさんの小さい頃の話なんかに始終し…ガイアさんのシーラさんに対する愛情の深さだけが、もの凄くよくわかったひと時を過ごす。うん、むっつりガイアだった。
◇◇◇
午後、今回の旅の一番の目的である、人工魔石を作る魔石生産人のもとへと向かった。
リブロさんは人間族の男性、かなぁ…。
この世界の人って、先祖に獣人がいても、どこにも特徴が現れない人も多い。
見た目だけでは判断がつかないんだよね。
雑談で「僕、〇人族で~」なんて、気軽に話してくる人や、シーラさんの事前情報がないととても分からない。そのシーラさんだって、『あなた何人族?』なんて決して聞いたりしないからね。
ステータスに関することは、安易に人に聞いちゃいけないみたい。
全然気にしない人もいるけど、失礼な事だって感じる人も多いみたいだからね。
ガイアさんみたいに冒険者でパーティーを組んだりすると、お互いの身体能力を知っていないと危険だから、話すこともあるみたいだけど…それだって聞いて欲しくなさそうな人にはやっぱり聞かないらしいから。
記憶が少しでも戻るかもしれないからって、僕には知り合いの人種やらスキルの話なんかを、知ってる範囲で教えてはくれるけど、本来はタブーっぽい。
こういう異世界マナーは、気を付けていかないとね。
まぁ、タブーとは言え、突然先祖返りして獣化が解けなくなっちゃったりしない限りは、本人もたいして気にもしてない事が多いみたいだけど…。
自分のルーツにかかわる事なのに、何故そんなに気にしない人が多いのか。
もちろん、色々多種族婚姻が多すぎて、いちいちそんなの考えてられないって事もあるけど、やっぱり一番の原因は、病気や怪我がポーションや薬で治ってしまうからなんだと思う。
もし、外科的処置が最善策の一つに挙げられる世界であれば、体内の仕組みが違ってくるだろうから、種族ってすごく大事になってくるだろうけど…ポーションが最善策の世界だもん、何人族かなんて関係なく治っちゃうんだからさ。
また思い出しちゃったよ…僕、おしゃべりできる魔獣とかだったらどうしよう。
多様な種族が溢れるこの世界、いないとも限らないよね…




