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閑話 星詠みの塔

 

 ―――!!!



 なんだ…今のは…!

 俺は思わずダットンと目を見合わせる――


 ◇◇◇


 思えば俺の人生は4歳で終わってたんだ。


 魔力6000/固有スキル『察知』/職スキル『星詠み』


 魔力覚醒の時、俺の両親は狂喜乱舞した。

 平民からは到底出ないような魔力の数値と、聞いたことのないような珍しいスキル。

『星詠み』なんて聞いた事もない職スキル、もちろん学のない親もそれがなんなのか、知る訳がなかった。ただ、魔力が高いことに気を良くしているだけだったんだと思う。



 初期学校に入ると、すぐに教師が俺に声をかけてきた。

『星詠み』とは、夜空にある星や衛星を視る事で、未来や今後の在り方、凶時の印の可否を占うのが仕事なんだとご親切に教えてくれた。

 なんだそれゃ…そんな冗談みたいな仕事がこの世の中に本当にあるっていうのか…。

 教師が次にのたまった台詞はこうだ。


「ご両親から身柄を引き受けました。国の為に働きなさい」


 親らしい事は何もされた覚えはないが、最後に見たあのやにさがった顔だけは記憶に残っている。

 底辺に暮らす俺達が一生目にすることのないような金と引き換えに、両親は俺を売った。


 ◇◇◇


 俺と同じように連れてこられたのだろう、珍しいスキルを持つ子供達と机を並べ、各自の魔法やスキルに応じて座学や実践を学ぶ。

 一人、また一人といなくなる。

 みな、いつかは適任とされる場所へ赴くんだ。さして驚きはしなかった。


 だが俺は成人になってもずっと同じ場所にいた。

 魔石作りをさせられていたが、それ以外はただただ座学と実践訓練と称した訳の分からない占いが続くばかりだった。


 18歳も半年ほど過ぎた頃、ついに俺もどこかへ行くのだろう、頭から麻袋を被せられて馬車に乗せられる。場所はまったくわからないが、どうやら塔の中らしい。

 長い階段を登った先、塔のてっぺんには小さな小屋がひとつ。

 そこにダットンっていう星詠みの爺さんがいたんだ。

 そのダットンが己の死期を悟った為、ここ、星詠みの塔に後を継ぐ俺は連れてこられたのだという。


 長い間、幽閉されていたダットンは足腰が異常に弱っていた。

 最期を迎えるにしても…それでは塔から出るのにも一苦労じゃないか。

 そう思っていたが、そんな事は不要なのだとすぐに知れた。


 ここに入ったら最後、生涯出る事はないのだから。


 ◇◇◇


 ここに入ったら最後、生涯出る事はない――


 告げられた驚愕の事実に、しばらくの間、俺はちょいとおかしくなっちまった。

 だが、ダットンのおかげで、狂気の深淵までは覗かずに済んだんだ。


 表向きは平穏に過ぎていく。

 今までの座学ともくだらん実践訓練とも違う、本物がここにはあった。

 ダットンは星詠みという占星術式の何たるかを、惜しみなく俺に教えながら、時折、目を壁に彷徨わせる。

 小屋のあちこちに、大量の文字が刻まれている事は気付いていたから、すぐにわかった。


 何かを伝えようとしている――


 ◇◇◇


 俺たち星詠みには、魔紙による守秘匿魔法契約が、魔素の干渉を受けるからって理由で使えない事になっている。

 確かに、魔力を感知しやすい傾向があるから、あながち完全な嘘って訳でもないが…ただ、普通に魔道具だって使ってるからな。

 まぁ…嘘って事になる。


 使えない事になっている…ってのは、守秘匿魔法契約が出来た時代の星詠みがついた、一世一代のはったりのおかげなんだそうだ。

 魔紙による契約を使用することによって、体内の魔力がゆがみ、星詠みの精度が著しく低下するって、のたまったらしい。

 星詠みの囲い込みは各国ともに極秘事項らしく、事の真偽を誰にも相談できなかったのが功を奏した。

 王家はビビっちまった。

 それを信じ込んじまったらしいんだ。


 だから、何を話そうが何の制約もない訳だから、本来なら自由に話ができるはずなんだが、それはできない。

 星詠みの後継者には、占星術式だけを口伝し、他の余計な事を画策させないようにと、塔内にはありとあらゆる小難しい仕掛けが施されているからだ。

 

 ここに来るのが成人を過ぎていたのも、そのあたりの事情かららしい。良からぬ事を二人して画策しないようにってな。

 部屋に石壁に刻まれた大量の文字は星詠みに必要なの術式の一種だと思われているらしく、唯一使える伝達手段だった。


 表向きにはこの間のような強い瘴気の同時発生、昨今の結界の弱化、凶作の前兆のように民の為に詠むもの全て、これを占う術を伝授される。

 

 さすがに王家も自分たちの私情に使うような馬鹿な真似はしない。

 私情を挟めば星詠みが穢れを帯びる、そういう事になってるからな。


 そう、壁の文字を介して目で語り合うのは、王家へは伝えない星詠みの…



 ―――!!!


 なんだ…今のは…!

 俺は思わずダットンと目を見合わせる――



 ここのところ、星も衛星も騒がしい。

 ダットン曰く、数年前に一つと今年に入ってから一つ…この大地にとても静かに、だがはっきりと顕現した二つの何かが原因だと言っている。特に数年前のそれは星の色さえも変えたという話だ。

 夜空はやけに騒がしくなったが、何も凶事の印は出ない為、ダットンも静観していたらしいのだが…。


 今、そのうちの一つからと思われる膨大な魔力…何だこれは…。

 こんな魔力が大地に溢れかえれば星を詠まなくたってわかる。


 ここのところの結界の弱化、瘴気の異常発生、東の巨大ダンジョンの発生。

 それにこの魔力…一体…何が起きてるんだ…。


 今夜の星詠みが…俺は恐ろしいよ。


 これを王家に伝えたが最後、その何かを手に入れようと必死になるだろう。

 奴らはとにかく膨大な力を手に入れようと必死だから。

 

 民に仇なすものでは決してない。

 むしろ何か好転の兆しすら感じ入るとダットンは伝えてくる。

 俺も然り。

 

 だから、王家には絶対に秘密だ。

 こういう大事な事は決して奴らに言うな。

 そういう事なんだよ。


 ◇◇◇


 なぁ、昔話をしてやろうか。

 これは、『同じ星詠みとして、解呪方法がわかれば是非とも教えて欲しい』と、王家から言われているらしく、引継ぎで堂々とダットンから話を聞いたんだがな。


 今より何十代も前の星詠みは、膨大な魔力と呪力を持つ魔女だったらしい。

 俺のように親に売られた訳じゃなく、魔女として気ままに暮らしていたところを無理矢理捕らえられて、幽閉されちまったんだ。隠居してた師匠を人質に。


 スキル『星詠み』を持つものは圧倒的に数が少ない。

 もし、その力を持った者を国が知れば、どんなことをしてでも絶対に手に入れようとする。

 そういう時代があったんだ。


 その魔女は、相当頭にきてたんだろうな。

 師匠が死んだと知った時、魔女は自らの命と引き換えに、王家と侯爵家に呪いをかけた。

 

 ()()()()名前には恐ろしい凶の呪印が出るようにって。


 …そんなショボい呪印って笑うか?


 でもな、今ではこの大陸中、ひっくり返したって呪印なんてもんを結べる奴なんて一人もいねぇ。

 それを二家の血筋すべてに結びやがったんだ。

 もの凄い力を持った魔女さんだったんだろうよ。


 そんな事があって、呪いで付けざるを得なかった王家のファミリーネームが今の王家の名前。


 ボンクラーノ


 ありとあらゆる方法で解呪させようと、それはそれは頑張ったらしいが…今も王家はボンクラーノだ。

 必死の解呪結果はどうだったか…わかるよな?


 魔法省を牛耳る実質国のナンバー2、侯爵家一族には、ホンダラゴルターナ。

 魔法伯という、この国ではとても優位に立つ地位の者を輩出してる一族だ。

 ファーストネームの最後の文字は必ず”ア”をつけないと呪印がでるらしい。


 侯爵家当代は、バッカルア・ホンダラゴルターナ。

 前当主、ボケルーア・ホンダラゴルターナ。

 そんな具合にな。


 もちろん王家のファーストネームもなかなかにゲスい。

 今の王はダメダヨーゼフハイネス。

 皇太子はダメダネールヴェスタム。

 前王は確か…ダメデスカルノヴェスタムだったと思う。


 この呪いの解呪だけどな、絶対に出来ないって訳でもないらしいぜ。

 なんでも、この呪いが解かれるのは『徳高望重な王があらわれたその時』らしいから。

 これさえクリアできれば呪いは自然に解かれるんだと。


 でもな。こんな場所へ人を平気で幽閉したり、足腰の弱った、死期が近いという老人を蔑ろにするような奴らの一族に、徳が高くて人望が厚い奴なんて出てくる気はさっぱりしねぇ…そもそも、人を人とも思ってねぇみてぇだし。


 だからいつまでたっても盆暗の(ボンクラーノ)まま、なんだろうけどな。

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