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異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑪

 とうとう見える人には見えるっていう『精霊の祈り木』が見える休憩所に近づいてきたよ!

 …見られるかどうかは、もちろんわからないけどね。

 シーラさんはちなみに見えない人。

 さて、僕には見えるのか…。


 そうそう、なんで王家は『精霊の祈り木の丘』を厳重に管理してるのか、って…疑問じゃない?

 どうせ神様の謎ルールでみんな丘に入れないんだからさ、別に開放しても良いじゃんね。


 そんな事を思ってたら、これにはちゃんと理由があったんだ。

 『精霊の祈り木』から落ちた葉っぱをすべて自分たちのものにする為、なんだってさ。

 なんでも自然に落ちた葉っぱには物凄い価値があるらしくって、一枚だって取りこぼさないようにって周囲を囲ってるらしい。

 

 どうやら万能ポーションや、高度な錬金術やら魔法陣の材料なんかに使われるような凄い力が、自然に落ちた葉っぱには秘められてるらしいんだよ。

 シーラさんが「万能ポーションって何が治るのかも知らないけどね。もちろんお目にかかった事なんてないわよ~」なんて言いつつ、そんな話をしてくれた。


 ◇◇◇


 僕らを乗せた馬車がタンデム最寄りの休憩所へと着いた。

 『精霊の祈り木の丘』が見えるビューポイントだよ。

 わざと丘の方を見ないようにして馬車を降りる。

 見えるか…見えないか…何故か緊張。


 うわー、気持ちいい風が吹いてる!

 天気も良いし、最高だね。

 ぐるぅうぅぅ…深呼吸して肩をぐるんぐるんまわす。


 湖とその先には王都、そして…



 僕は…その祈り木を見た瞬間…



 視界はみるみる僕の体から遠く離れて――

 


 意識だけが空高く舞い上がる――



 遠くに見える丘の上にあるはずなのに、僕は祈り木のすぐそばでゆっくりと旋回して――



 凄い力…体が木に吸い込まれそうだ。

 ざわざわと葉っぱが…まるで僕を誘う(いざなう)ように揺れている。

 あぁ…なんて心地いいんだろう…。


 ふと目を木の根元にやると、そこには一匹の大きな…あれは…犬?

 僕の姿は見えるはずもないのに、大きな犬と一瞬目が合った。


 真っ黒な犬はまっすぐに僕を見据えて――



 <ワオーーーーーン>



 僕は…僕は…


 体の中を何かが急激に駆け巡る…




『ポワン』――


 ***

 アギーラ(16)

 ♂ クー・シー


 体力160/160

 魔力179999/180000


 固有スキル

 言語1

 俯瞰1

 魔法付与1

 生活魔法1 

 +


 職スキル

 道具1 

 ***


 …え!い、今!?

 …これ、ステータス画面ってやつ?



 僕の意識は一瞬にして休憩所に戻った。


 ◇◇◇


 今の…なんだったんだ?

 僕は一歩も動いてなかったのに…こんな事ってある?

 葉脈が見えるほど、あの青い葉っぱに触れそうなほど近くで…確かにこの目で見たんだ。


 景色を堪能してるふりをして、頭をフル回転させる。


 落ち着け自分。

 もう一回、ステータス画面を見てみようじゃないか。


『ポワン』――


 ***

 アギーラ(16)

 ♂ クー・シー

 …

  …

   …


 えーっと…まず、僕…本名が『アギーラ』って事でしょうかね。

 あれ?そうなっちゃった感じ?

 はい、次。


『クー・シー』って、何ですかね。

 種族に(なかぐろ)ついてるよ…そんな人種、聞いた事ない。

 僕…魔獣じゃないよね…。

 はい、次。


 固有スキルがいっぱいあるのが嬉しい。

 後でじっくり見よう。

 はい、次。


 魔力の数値…おかしくないですかね。

 100以下の人もざらにいるって話のところ、まさかの『180000』。



 ・・・・・。


 僕、普通~にお仕事しながら、ゆる~く異世界生活を楽しみたいだけなんだけど。


 なんかこれ…すっごく嫌なフラグが立った気がする。


 ◇◇◇


「シーラさん、シーラさん、僕、見えましたよ!『精霊の祈り木』!!」


 休憩所に着いてから、いの一番に馬車から飛び降り、お手洗いへと、いそいそと走リ去ったシーラさんが戻ってきたので、はしゃいだ声でそう伝える。


 ミネラリアへ戻るまで、魔力覚醒の事は黙ってようと思うんだ。

 シーラさんは心配して、このまますぐに帰ろうとか言い出しそうだから。


「うっそー!見えたの?アタシは…ダメだー、今日も見えなーい!!」


 ちなみにシーラさん、ダリアさん、ドイルさんは見えな人。ザ・おっちゃんさんは見える人だった。

 みんなでああでもないこうでもないと話しながら休憩する。

 見える見えないの基準がわからないから面白いんだってさ。


 なんでも5分の2の確立は高いらしい。20~30人に一人いるかいないかって感じみたい。

 何だろうね、基準。確かに気になる。


 いや…一番気になるのは僕の魔力覚醒だけど。


 家に帰るまでが遠足です。

 そう自分に言い聞かせて、覚醒の事は一時保留にする。

 …シーラさんに迷惑かけたくないんだ。


 ◇◇◇


 馬車は無事、タンデムに到着。


 エリーゼ湖には湖を挟んで南北に流れるロードスターという川がある。ユスティーナ国を南北に、果てはそのずっと先の海まで続く大きな川なんだ。

 タンデムは、湖から北の国ジネヴラ側の海へと繋がるその川の、ちょうど河口部分の東側に広がる町。


 祈り木が見える男、ザ・おっちゃんさんとはここでお別れ。

 シーラさんはダリアさんとドイルさんと明日からの事を確認している。前もって言ってあったから確認だけね。


 僕らはタンデムに五泊する予定だから、ミネラリアの町でレンタルパック馬車を借りる時に、事前に護衛を往路と復路で変えるかどうか、事前に相談してたんだ。


 女性の護衛が少ないって事あるし…できれば同じ冒険者に担当してもらいたいって事もあるんだけど、冒険者にだって予定があるもんね。

 で、ギルドが声をかけた冒険者にぴったりと条件にはまった人たちがいた。

 それがダリアさんとドイルさん。


 二人はタンデムに懇意の防具職人さんがいるらしくて、ちょうどメンテナンスを頼もうと思ってたんだって。

 先にお店には連絡もしてあるし、時間のかかるメンテじゃないから、3日もあればできるみたいなんだけど、状況によってはもう少し時間がかかるかもしれない。

 だから、5泊ってちょうど良いらしくて、復路もそのままお願いできる事になってたんだ。


 と、言うわけで5日後の朝に集合、何かあってもなくても前日に厩舎横の建物にいるギルド職員へ連絡を入れてお互いの状況を確認するって事にして、二人とはしばしのお別れとなった。


 って、僕…それどころじゃないんだけど。

 まだ、ドキドキしてるんだからね…

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