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お芋ちゃんの恩返し?③

 そして何故か院長室。


 廊下で会っても全然緊張しないのに、院長室に呼ばれると何故かド緊張してしまうこの事こそが、企画コンペや社内プレゼンを勝ち抜けない一因ではなかったかと今更ながら考える、ベルこと成留鈴花でございます。


 私のベッドの上に置いてあったバスケットボールよりも大きなあの繭は、非常に高価なボヨンビヨン・モリという蚕の繭。

 その事をアリー先生に話したら、さっさと院長室に案内されてしまった。ココが只今の現在地。


 アリー先生の横で、院長先生が面白いものを見るような顔で私を見ている。


「ドラジャの次は蚕の繭だって?」

「はぃ…」

「しかしなぁ…誰が置いたのか全く分からずか?」

「一応、いたずらしそうな友達には聞いてみたんだけど…誰も本当に知らないみたいで…」

「ふーん。あはは、ハラペコ軍団の恩返しだったりしてな」

「あはは…」


 すごいでしょ。4歳にして乾いた笑いを取得済み。


 …ん?

 何か引っかかるぞ…乾いた笑いじゃなくって、ハラペコ軍団の恩返し。

 …なんだ?ハラペコ軍団…、

 …ハラペコ…はらぺこ…はらぺこ〇〇むし(某有名絵本)…、

 むし…いもむし…芋…。


 はっっ!まさか…お芋ちゃん!?

 …お蚕さんだったとか?

 そう言えばすっごく大きかったし真っ白だった…でも…。


 いや…まさかねぇ。

 …って、思って口をつぐむのは数年前までよ。

 こちとら異世界転生しちゃってんだから何だってあり!


 こんな事を話すと、かなりヤバめな妄想少女だと思われるかも…でも、ここまで来たら言うしかないわ!!


「心当たりってがあるというか…一つだけ思い当たるようなないような…」

「え!何?何かあったのか?」

「あの…森で遊んでたら、動物に虐められてる真っ白な大きい芋虫がいて…その…むやみに手を出しちゃダメってわかってたんですけど…思わず助けちゃったの…」

「うん」

「それで…すっごく傷ついてたから…フワンフワで編んだ籠に入れてこっそり孤児院に連れて帰りました」

「…それでどうしたの?」

「傷から体液がたくさん出てたから、毎日籠を取り換えて身の回りを清潔にしたりとか…よく食べる葉っぱがわかったから、その葉っぱで毎日餌をあげたりして…お世話してて…」


 虫が苦手なアリー先生の顔がめっちゃひきつってる…まぁ気持ちはわかるよ。うん。

 私も日本にいた時はそうだったからね。

 あ、アリー先生が誰かに呼ばれて…これ幸いと逃げ出していったぞ…お花畑の同志じゃないのか?裏切者~!

 院長先生が話を促すように肯く。


「それで…途中でまったく動かなくなって、もうダメかもって思ったら、2回も脱皮して…それでもさなぎにならないから…」

「うん」

「でも、どんどんおっきくなってるし、その…脱皮したら体液が出なくなって、それに傷もまったくなくなったの。とっても元気になったから森に戻しました…」

「いつの話?」

「半月ほど前。お世話してたのは10日間くらい」

「ふむ……」

「か…関係ないですよね…」

「…いや…つじつまが合うっちゃ合うような…」


 え?つじつま合っちゃう感じ?妄想少女認定じゃなくって?


「あ、合いますかねぇ…」

「ない訳じゃないだろ。知性の高い生き物は、たくさんいるからね」

「あの…できれば私、巻糸になったものを見てみたかったの…見るだけでも見させてもらえませんか?」

「…僕もね、アリー先生に一票かな。繭はベルの物だと思う。ねぇ、今は夏だよね。窓が開いてたんじゃない?」


 ん?んん?蚕が飛んできた設定?蚕って飛ばないよね…?

 あ…でもこの間のレイラの話だと飛ぶ方がしっくりくるかも。

 蚕の野生種がどうたらこうたらって話。同じ場所を生息域にできないって言ってたもん。

 鳥なんかに運んでもらうってのも可能性としてはあるかもしれないけど、普通に考えれば飛べないと話のつじつまが合わないかも。


「それは…窓は開いてたけど…蚕って飛ぶんですか?」

「そりゃぁ時が来たら飛ぶさ。時々飛んでるのを見かけるけど…遠くからだと蝶々なんかと区別がつかないからなぁ…。その大きくて珍しい蚕ってやつは知らないけど、蚕は繭を作ったら一旦、どこかへ飛び立って行ってしまうんだ。飛んでるの、見たことがないかな?」


 左右にキコキコ首を振る。そんなん見た事ないですわぁ。

 お芋ちゃん、どんな姿で飛ぶんだろう…いや、お芋ちゃんって決まったわけじゃないけど…


「でもすぐに帰巣本能で…蚕は本能で生まれ育った場所に帰ってくるらしい。繭を置いた同じ場所へ戻ってきて、次の世代を産みつけ、またどこかへ飛び去ってそのまま生涯を終える。そのサイクル…戻ってくる本能なんかを利用して、蚕製糸は成り立ってるんだ。だから製糸工房はどこも森の中にあるんだよ」


 …やっぱり地球とは違うんだなぁ…。

 記憶が確かならば、蚕は飛べないまま生涯を終えるはず。種類によるのかしら…。


 糸の取り出し方は忘却の彼方だけど…飛べないって可哀想だなって思って…覚えてたんだけど。

 いやいや、待てよ。

 お芋ちゃんがあれを抱えて飛んで…私のベッドまで来ちゃった感じ?…お芋ちゃんって決まったわけじゃないけど…

 何芋ちゃんでも…めっちゃホラー。


「ベルは先方の提案通り、少し売っても構わないと思ってるって聞いたけど…変わりない?」

「はい…。どんな糸ができるのか興味があるから…もし、巻糸にしてわけてもらえるなら…是非、お願いしたいって思って…」

「そう。ちょうど良いタイミングだから…話をしておきたい事があるんだ。話がちょっと変わるけど…この間のね、ドラジャの件なんだけど…他の孤児院の院長たちへ話をしたら、レシピカードを売りだしたらどうかって言われてね」

「はぁ…」


 レシピって言うほどのものじゃないけどね…。


「基本のドラジャガはもちろんなんだけど、それをサンドウィッチに入れてかさ増しするとか…卵を使ったバージョンやオーブンでチーズと焼く料理なんかも話してくれたろ?あと、くず野菜なんかと一緒に焼くのもあったよね?みんな評判が良くてね。何よりゴミだって捨ててたもので、あれだけのレパートリーを出せるのなら、レシピ販売を考えたほうが良いって言われてね」

「へぇ…」

「もしかすると、ラヴァリマを飼う人が増えるかもしれないとまで言ってくれる人もいたんだ。あはは。もしそうなったら、凄い事だよね」

「はぃ…」


 いや、だめでしょ。そんなに気軽に生き物を飼わないで欲しいわ。


「ドラジャの搾りカスを乾燥させて日持ちを考えてるんだって?

 もしそれが実現可能なら、それも素晴らしいと思うんだ」

「はぁ…」

「レシピを販売するって事は、お金が動くって事なのはわかる?レシピカードが売れれば、ベルにお金が入ってくるんだよ。もちろん、蚕の糸を売った場合もね」

「はぃ…」


 これ…私が貰っていいお金だと思う?

 はい、そこのあなた!どう思う?


「ベルはまだ4歳だからね。ギルドへは登録できないんだ。ギルドへの登録は12歳からなのは知ってる?」

「はぃ…」

「レシピやなんかを販売するってなるとね、商人ギルドへ登録しておいた方が色々と便利が良いんだ。レシピカードはもちろんだけど…糸がね、とっても貴重なものらしいから、トラブルを避けるためにもギルドを通した方が良いんだよ」

「はぁ…」

「ギルドへ相談してみたら、そういう子供の為の制度があるっていうんだよ」

「へぇ…」


 ギルドから金融臭が漂ってくるんだけど…気のせいかしら…。


「でも、それを使うには本人の魔力を登録しなきゃならない。ベルはまだ魔力覚醒してないからね。それならって商業ギルドの人が、僕を保護者として、預託先に指定しておく方法もあるってアドバイスをくれたんだ」

「はぁ…」

「僕はベルのお金を預かる。12歳になったら、ベルはギルドへ登録する。恐らくその蚕の糸だけで入会金分は十分に溜まっているから安心して大丈夫だよ。…それで、登録後すぐに、それまでにベルが稼いだ金額が、ベルのギルドカードへ入金される。もしも僕が、この孤児院を去る事になったとしても、きちんと後任に引き継ぐから、その点もだいじょうぶだからね」

「はぁ…」

「ともかく一度、一緒にギルドへ行かないとならないんだけど。ギルドの偉い人と日程の調整をするからね、決まったら一緒にきてくれるかな?」


 いいとも!

 …違う、いや、違わないけど違う!


「はい…」


『はい…』『はぁ…』『へぇ…』

 この私の相槌三種の神器をBGMに、院長先生のお話は、かつてお昼休みはウキウキしてたという、某ご長寿テレビ番組の挨拶のような終わり方で終了した。


 こうして私は転生当初に狙っていたマヨネーズ商人ではなく、料理レシピというにはお粗末なレシピを売り、お芋ちゃんの恩返し品(妄想少女の妄想かも)を勝手に売り…4歳児にして、あくどい商売人のようになってしまったのだった…誰か私に覆面をください…

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