異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑨
そんなことを思っていたら、来た来た~。
本日の夕ご飯、湖の幸!大皿がドーン!!
まずは、ビッグアンダーバイトという受け口で大きな白身魚の一品だ。
湖の魚だから少し臭みがあるのかも知れない…なーんて思ってたけど、まったくそんなことはなかった。
一口大に切られた魚と野菜、木の実を一緒に炒めて、上に黒ソースがかかってる。
すっごく弾力があるお魚だ。ゆっくり噛むと弾力があるのでしばらくはちぎれずに頑張っているがブリンと弾けて身に歯が食い込む。淡白だけど、嚙み切るとジューシー。魚の風味がしっかり感じられる。
待望の魚…うんまーい!
小さなお皿も出てきたから何かと思ったら、ビッグアンダーバイドの頬肉の塩焼きだった。
お魚の旨味がさらに凝縮されたような味わいで、口に入れるとホロホロと身が崩れていく。
お酒がすすむってシーラさんが騒いでる。
次に出てきたのはレイクロコダイルーズというワニだね…ワニ。
僕、初めて食べる。
やっぱり湖に生息してるらしい。え…怖いんだけど。
ここのすぐそばの湖にワニが普通にいるんだ…。
どうやらこのワニは、非常にゆっくりとした動きしか出来ず、どうやら遭遇して怪我をする人はいないらしい。
足だけじゃなくて口の開閉も非常にゆっくりしているので、その間に逃げれば噛まれることもないって言うけど…やっぱり怖いよねぇ。
水中で口をちょっとだけ開けたままじっと動かないでいて、自ら飛び込んでくる魚を待つんだって。
岩場と間違えて魚が入ってきちゃうらしいよ。
…へぇ、なんだか見た目はルコッコみたいなお肉だ。シンプルに塩をふって焼いただけみたい。
一口大のお肉がサイコロステーキみたいになって山盛りで出てきた。ロムロムが添えられている。
まずはそのまま一口。
うわっ…。すっごい油!
見た目が白っぽくてルコッコのお肉に似てたから、さっぱりしてるのかと思ったら全然違う。
新鮮だからかな、臭みもない。口の中が肉汁?肉油?でいっぱいだ。
あれ…じゅわじゅわと噛んでいくと、最終的には味自体はルコッコに似てる気がする。
ルコッコは淡白なんだけど、ワニも油がなければ結構淡白な味なのかもしれない。
ロムロムを絞って食べてみる。
あー、これうまいやつだわ。無限ワニだね。
最後のお皿はストライプテイルという大きな海老だ。
こんな大きな海老が湖で取れるなんて!
わたもきちんと取ってある。
この香り…酒蒸っぽい。これもシンプルに塩とロムロムで食べる。
この異世界、大抵が塩味。
続いてマヨ味、薄いコンソメ風味と黒ソース、って感じ。
でも、地産地消というか食べ物が新鮮だから『素材を生かした料理』ってやつが基本、というか全て。
それで十分美味しいから満足だけどね。
まだ湯気が出てるその身をまずは何もつけずに一口。
ほのかな塩味と甘味に甲殻類独特の味わい。
うんまーい。
新鮮な湖の幸はプリップリだ。
お店のおじさんがニコニコしながら、お酒を飲んでない僕の前にパンとバター、マヨを置いていった。
どうやら酒蒸しを挟んで食べなさいってサービスみたいだ。
ありがたくサンドウィッチにして食べる。
まだ湯気が出てる海老にバターが絡む…これはたまらない!ぐるぅうぅぅ…
…シーラさんがすっごい羨ましそうな顔をしてこっち見てるんだけど。
…一口だけだからね。
最後は熱い紅茶を頂いて本日の夕食は終了だ。
大満足!
ミラージュさんとジェイさんが、宿まで送ってくれるらしい。
小さな町だからね、酔い覚ましの散歩にちょうど良い距離だからだってさ。
ありがたく送っていただこう。
だってシーラさんが酔っぱらってるんだもん!
◇◇◇
この世界には衛星が三つある。
地球で言うところの月だね。
最初見た時は驚いたけど、もう…見慣れた光景。
でもとにかく大きいからさ、ふと視界に入ると未だにギョっとはするけどさ。
今日も星がすごく綺麗。空気が澄んでるからだよね。
最初の頃は正直、少し怖かったんだ。
余りにきらんきらんしてて大きくてさ。
落っこちてきそうなんだもん。
そういえば夜出歩くの、異世界に来てから初めてかも。
歩いてるだけで楽しいな。
ミラージュさんは完全なる絡み酒で、シーラさんに「わだじもみねらりぁにずみだーいの」とか言っている。ミネラリアに住みたいって言ってるらしい。
シーラさんは「はーいはーい!大歓迎しまーす!」とか言って、肩を組んで僕とジェイさんの前を歩いている。
「あー。また始まった。ミラージュは飲み過ぎると、最近いつもああなんだよ」
「ミネラリアですか?王都じゃなくって?」
自然と男二人での会話になる。
「王都?あぁ…うーん…王都ってさ、そんなに良いもんじゃないよ?物価は高いし貴族は居丈高だしね。あ、これから初めて行くんだったね。ごめん」
「いえいえ、情報を教えてもらえる方がありがたいです」
「そう?ミラージュなんかも、ずっと王都の店が流行の最先端なんだって、思ってたみたいだけど…最近、そんな感じもしなくなってきてるらしいんだ。僕にはギルドの買取物…魔獣素材の流行くらいしかわからないからね。王都の最先端だのどこが発信地だのって言われても、いまいちよくわからないんだけどさ」
へぇ…あんまり王都に良い印象がないみたいだな。
「早馬便の利用が急激に増えてるって聞きました。流通の発達で、町との差がなくなってきてるのかもしれませんね」
「…そうかもな。でもまぁ…王都は王都だ。面白いものもあるだろうし、お店を巡るだけでも勉強にはなるもんだろ?あ、タンデムは良い町だからさ。楽しんできてね」
ゆらゆらしてる前の二人を見守りながら話を続ける。
「…ジェイさんは採取人なんですか?」
「ははっ!アギーラはなかなか鋭いねぇ。僕はとにかく身のこなしだけは軽いもんだからね、ギルドから誘われてはいるんだけど。一応はまだギルド職員だよ」
「ミネラリアの方が国境や山にも近いから、良い素材がとれそうですね」
「やめてよ、上司と話してる気分になってきた…。まぁなー…ミラージュもあれでけっこうマジなんだよ。だからって訳でもないけど、僕も最近は気持ちが傾いてきちゃってるんだよねぇ…」
夜の湖が見えてきた。
町とお屋敷街の明かり、湖の対岸に見える王都の明かり、そして衛星や星の明かり…湖面に色々な明かりを映す夜の湖は、僕が思い描いていたものよりも、もっとずっときらびやかだった。




