異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑦
本日の宿は、なんとシーラさんが奮発して部屋から湖が見える宿を取ってくれた。
早朝には出かけちゃうし、夜はあんまり見えないんじゃ…って思ったら、「夜の湖も綺麗よ~」って。素泊まりならそんなに高くないからってお言葉に、結局甘えてしまう僕でした…。
なんでも、『8時過ぎからの案内でよければ、主従コネクティングルームに一室空きがある』って宿の人に勧められてさ、遅いチェックインだから部屋代を少し安くしてくれるって言われたらしいんだ。
主従コネクティングルームって、主人用の部屋と従業員用の部屋が扉一枚で行き来できる連結部屋。
扉には両方向からのしっかりした鍵が2つ。もちろん別種類の鍵が付いてるから、男女の主従でも気兼ねなく宿泊できるんだってさ。
異世界の宿にコネクティングルームがあるとはね…何だか大型ホテルみたいだよ…。
◇◇◇
僕らは荷物を宿に預け、早速今日のご挨拶まわりへと向かう。
夕飯を先に食べても良かったんだけど、今日のご挨拶まわり先は女性が経営しているお店なので、先に挨拶へ行ってしまおうという事になったんだ。
湖で魚が取れるから夜は魚料理がいいね、なんて話していたらすぐに目的の『トリネラル金物店』に着いちゃった。
町がコンパクトだから移動が楽でいいや。
シーラさんが元気よく挨拶しながらお店の扉を開けた。
僕の見た目テンプレは割愛します…。
トリネラル金物店は、金物職人の店主、ミラージュさんが経営するお店で、主に小物金物を取り扱っているんだって。
金物職人とは金属の加工を専門にする職人さんの事なんだ。取っ手や飾り、金具なんかを専門にしているらしい。
センスが良くて、細やかな装飾や新しい試みなんかも嫌な顔一つせず、むしろ面白がって引き受けてくれるし、金属だけでなく珍しい素材…それこそ魔獣素材との組合せなんていう、斬新な手法も積極的に取り入れる職人さんなんだ。
もちろんミネラリアにも金物屋さんはあるんだけど、大量生産に特化してるお店。
シーラさんは注文品魔道具で生計を立ててるから、ロット数が出なくって頼みづらいらしいんだよね。
実は今回、僕も一つ作ってみたい道具があるから、試作品の作成をお願いするつもりなんだよ。
シーラさんには事前に許可をもらって図面なんかもチェックしてもらい済み。
僕としては是非、製品化したいと思ってるんだけど…上手くいくか、需要があるかはわからない。でも、やってみないとわからないからね。前進あるのみさ。
しばらく、手土産を渡したりお茶をごちそうになったり…二人はお互いの近況を報告しあっていた。
やがて仕事の話になって、まずはシーラさんが作成中の魔道具に使う為に、加工をお願いしている金属板の最終確認や、金具部分の細かい調整を終えた。装飾金具は帰りに受け取る算段をしている。
いつもは早馬便でやり取りしてるけど、直接話せると話が早くて助かるんだって。
次は僕の試作品作りのお願いだ。
守秘匿魔法契約を交わした上で、設計図を見せながら説明を始めた。
僕は木工細工で簡単な立体模型も作って持ってきていたからそれを見せながら説明していく。
僕、こんなに器用だった?って言いたくなるほど、最近メキメキと木工が上達してるんだ。
ラシッドさんの作ってくれたナイフのおかげだよ。小さい木の細工なんかもさくさくいける。
話をひと通り聞いたミラージュさんは、非常に興味を示してくれた。
商品化したら、うちにも欲しいと言ってくれるほどに。
三人で素材や取付部分の金具形状について話し合う。
こういうの楽しいな。それにすごく勉強になったし。
ミラージュさんの頭の中では、すでに僕が出した案(地球の製品だけど)を使っての取付部分のアイデアが、いくつか浮かんでいるみたいで、是非とも挑戦してみたいと意気込んでいる。
タンデムからの復路でこの町に立ち寄った時に、もう一度来てもらえれば、試作品一号を作っておいてくれるってさ。
話し合いが済んだ頃には、時計の針はもう8時をまわっていたもんだから、「ジェイさんにもご挨拶したかったけれど、そろそろお暇を…」なんて、シーラさんが話している。
ミラージュさんの旦那さん、ジェイさんは恐らく9時過ぎには戻るみたいなんだけど、僕らはまだ夕食も食べてないしね。
――おっさかなおっさかなふんふふ~ん♪
美味しいお魚料理を出す店があるから、夕ご飯を一緒に食べに行かないかと、ニコニコして僕を見ながらミラージュさんがシーラさんに話している。
…はっ!まさか僕の心の鼻歌…勝手にご披露してないでしょうね…




