異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑥
疲れているのに大興奮…全然眠れなかったアギーラです。
いや…ダリアさんとドイルさんの高校生活の夢とか見てないから…。
初めての馬車の長旅、初めて見る景色…もう目がぎんらぎんらしちゃってさ…仕方ないよね…。
シーラさんが心配して「もう一泊しようか」と、尋ねてきたけど、僕はこれから見られるであろう異世界の景色が楽しみ過ぎて、ぶんぶんと首を横にふった。
だって、予定では今日、すっごく大きな湖が見られるんだ!早く見てみたいじゃないか!!
最終的にシーナさんの「ちゃんと馬車で寝なさいよ」の一言で話はまとまり、昨日洗っておいた樽に飲料水を注ぎ、お湯を貰って馬車酔いの薬草茶を水筒に入れ…わちゃわちゃと荷物をまとめて慌ただしく宿を出立した。
◇◇◇
今日も屋台飯にお世話になる。
朝食はパールカラントとルビーカラントの2種で作ったジャムとチーズが入ったサンドウィッチにスープ。
パールカラントのジャムはすっごく甘いいんだけど、ルビーカラントは結構酸味が強いんだって。
だからルビーカラントだけで作ってる売ってるジャムって見かけた事がないんだ。
パールは甘くて、ルビーは香りが強い。
だから、この二つのカラントのブレンドジャムが良く売られてるんだ。
スープはシンプルに野菜と肉の旨味、薄いコンソメスープって感じ。
寝不足でお疲れな朝、濃い味のものは遠慮したかったからちょうどいいお味だったよ。
シーラさんはルコッコのお肉と、サニーレタスのような葉物野菜とチーズに、マヨたっぷりのサンドウィッチ。
異世界の…いや、ここらへんの地域のサンドウィッチの王道と言ったらコレ!って、感じの定番商品かも。
飲み物はシロツクリタケの白スープっていう、クリームシチューよりさらっとした感じの白いキノコがたっぷり入った白いスープを飲んでる。
僕は昼用にパンにワイルドグーズラズベリーのジャムをひと瓶と、ここの地方で作ってるいうお茶を買ってもらった。
この瓶は戻せばお金が帰ってくるから、出来れば帰りに戻したいところだけど…こういうのって忘れちゃうんだよねぇ。
シーラさんはレディーキラーディアというその名の通り、女性が夢中になるほど美味しいと言われる魔獣の赤身肉のサンドウィッチと基本のロムロム果実水。
レディーキラーディアのお肉はすごく柔らかくて肉汁たっぷり。
固いパンに焼きたての肉の熱で溶けたバターと肉汁が吸い込まれて、お昼ごろには固いパンまでデロッデロになってる。
別に固いパンを薄くスライスしたもの渡されるので、そのパンでデロッデロのサンドウィッチを挟んで食べるサンドサンドウィッチなんだよ。
冒険者のダリアさんとドイルさん、本日お世話になる御者さんとは厩舎前で集合。
あれ?…御者さんが昨日お別れしたはずの、まいどした君に凄く似ている。
双子かも!…違った…本人だった。
まいどした君は独身の若者。かなり自由に動けるので、御者仲間がドタキャンした時の穴埋めなんかもよく任されるらしい。
急に進路変更などがあるとちょっと手当に色がつくから、本人も喜んで穴埋め要員をしてるんだって。元気よく「おなっっしゃーす」と挨拶してくれた。
今日の目的地はトリネラル。いざ出発。
◇◇◇
トリネラルはユスティーナ国最大で唯一の湖、エリーゼ湖の湖畔にある町。
海に面していないユスティーナだけど、広大な面積の湖を有してるんだ。
初めての異世界の湖だぞ!
昨日、馬車から見た車窓は森森森森休憩所森森森森…みたいな感じだったから、すごくドキドキしてるんだ。
お昼休憩をして、馬車は再び道なりに進んでいく。
途中で道が二股に分かれていた。
僕らは進行方向右手側へ北上していくけれど、南西に進むこの道は湖に沿って南の国、インデガルダへと向かう事ができる道なんだって。
この道も大きな道路だから、比較的安心して利用できるって…比較的ね。
今日も途中休憩を挟みながらも10時間強を走り続け…ついにエリーゼ湖に到着だ。
とは言っても、僕はぐっすりクッションコレクションに挟まれて爆睡してただけだけどね。
◇◇◇
シーラさんに揺り起こされた僕の目の前には、広大な湖が広がっていた。
すっごいや…こんな綺麗な景色、見たことない。
休憩所では厚手の大きな布を一枚敷いて、僕のクッションコレクションを並べて…みんなで思い思いの姿勢で休息を取ってもらってるんだ。
御者さんは馬の世話があるからなかなかゆっくり休憩できないけど、5分でも10分でも休めそうなら、くつろいでもらいたいと思って。
冒険者の二人にも足をあげると疲れが取れるし、むくみが楽になるって教えたら、いつの間にか小さな木箱が客車の上に括りつけられてた。
休憩になると、その木箱の上にみんなで足を乗っけて、座布団に座ってまったりしてるんだ。
すぐに町に着くし、休憩しなくても良いんだけど、なんとなく、みんなで休憩スペースを作って、少し寛いで行こうって事になった。
ぼんやりと湖を眺めて休憩だ。初夏の空は4時になってもまだまだ高い。
真っ青な空とエメラルドグリーンやターコイズブルー…さざ波ごとに色を変える澄んだ湖面が美しくて、広大な湖はまるで凪いだ海のよう。
キラキラと水面が光る様に、ずっと見てるとついつい体が吸い込まれそうになる。
お、危ない危ない。電車の接触事故とか起こしそう…あ、もう電車とかないんだった…。
水面からふと顔をあげれば、そこには遥か遠く山脈が連なり…いつかあの山脈を越えた、向こう側にも行ってみたいな。
食べた事のない食べ物もたくさんあるよね…。
ち、違うぞ、結局は食い気って訳じゃないからな。
僕はまだ見ぬ大地へも思いを馳せ、とびきり贅沢なひと時を過ごした。
◇◇◇
目がばっちり醒めた僕達は、トリネラルの町へ足を踏み入れた。
…寝てたのは僕だけだけどねっ!
検問所でギルドカードを提示して町に入る。
今日の朝、出発した町、カシールと同じくらいの規模なんだけど、大きく違う点が一つ。
それは湖畔に点在するお屋敷群。
王都やタンデムは警備の都合上、湖周辺にも厳しい警備が入る事も多いけど、トリネラルは比較的自由なんだ。
だから貴族や裕福な庶民の別宅が並んでいるらしい。
まいどした君とは今日で本当にお別れだ。「まいどっっしたー!」と元気に挨拶してお別れしたよ。ダリアさん、ドイルさんとは明日の時間の確認などをしてから解散する。
明日は、その後連泊する事になるタンデムに行くだけだから、出発を少しゆっくりにしようって事になった。
6時半に全員集合!また明日!!




