異世界旅~家に帰るまでが遠足です~⑤
宿屋も無事に決まり、時刻は5時を少し過ぎたところ。
これからちょっと早いけど、屋台で夕ご飯を食べるよ!
ルコッコの串焼きがあったので、僕はそれに決める。
シーラさんはストロング・ザ・ボアという魔獣肉の串焼きを頼んでいるみたい。
ストロング・ザ・ボアはちょっと野性味があって弾力のあるお肉。
部位によっては脂も乗っていて、このお肉も美味しいんだよ。
でも今日はルコッコ気分。
シーラさんが夜食用にって木の実を買っている。まだ5時だからね。
あとはカシールの周辺で取れるという、ワイルドグーズラズベリーという、赤い実が入った飲み物を買ってもらった。
飲み物は真っ赤な果物のジャムがドバっと入り、そこへロムロムをひと絞りいれて使った果実水を注いだものだ。
最後にワイルドグーズラズベリーのコンポートを、さらにたっぷりと上にかけてくれる。
すっごく良い匂いがする。甘酸っぱくて美味しい!
馬車に乗り続けてたから、二人ともずっとベンチには座らずに立ち食いで食事を済ませる。
屋台が出てるあたりには、テーブルとベンチがあちこちに置いてあるんだ。
見回すと同じような人がたくさんいた。
みんな腰をもんだり、お尻の側面を手をグーにして叩いたりしてる。
…ほら、やっぱりみんなも辛いんだ。
◇◇◇
食べ終わって少し休憩をしてから、今度は『年輪屋』という木材店に挨拶へ向かった。
個人商店なんかは昼時間をたっぷり休憩にあてて、夜遅くまで開いているお店が多いんだ。
旅人の到着時間がだいたい決まってるからね。
ミネラリアは立地的に連泊する人が多いから、その限りじゃないんだけど。
大主道にある他の町のお店は、大抵8時か9時くらいまで開けてるんだって。
大型魔道具の点灯具が発明されて、国が街灯を整備してくれてから一気にそういう営業時間になったらしい。
シーラさんは肩にかけた鞄から小さな包み紙を取り出して、手に持ち替えると「こんばんわ~」と、元気よく言いながら『年輪屋』へと入って行った。
従業員の人に取次ぎをして貰って、しばらくしたら奥からひょっこりと小さな鳥人族の女性が顔を出した。
「シーラ!あぁ、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
「お陰様で、この通り元気です!皆さんもお変わりありませんか?」
「あぁ、こっちも皆息災さ。ガイアも元気かい?」
「ふふ。もちろんです。…あ、先にご挨拶させてください。見習いのアギーラです」
シーラさんは自分の体の前へ僕を押し出してから紹介した。
「初めまして。アギーラと申します。シーラさんの元で修行させてもらっています。どうぞよろしくお願いいたします」
「んまっ!なんと、立派に挨拶ができる子じゃないか。うちの孫にも聞かせてやりたいよ。宜しくね。私はアマンダだよ」
「はい、宜しくお願いします」
「ふふ…、アギーラの服に『僕は成人しています』って縫い付けようかしら。アマンダ、アギーラはもう成人してるのよ」
「んまっ!そうだったのかい!!いやだね、てっきりうちの孫くらいかと思っちまった。ごめんよ。まぁ、どうりでねぇ…」
もうテンプレだ…悲しいかなこのやり取りに慣れてきちゃった…。
シーラさんが手土産を渡したり、従業員の人がお茶を出してくれたりしてワイワイと雑談をしている。アギーラも食べなさいってお菓子まで出してくれる歓待だ。
従業員の人が何故か僕にだけ、お茶じゃなくて甘~い果実水を出してくれた…もう…いいんだ…。
何人かお客さんが来たけれど、従業員の人達が何人もいるので、アマンダさんはシーラさんとのトークに花を咲かせていた。
シーラさんが渡した手土産はね、カシェリっていう小さいな丸い砂糖菓子。
最近ミネラリアで新しくオープンしたお店の看板商品なんだって。
店名と同じ名前のそのお菓子は、見た目良し、味良し、包装良し、逆方向で値段良し。
この世界は砂糖が高価なんだ。
一般的な庶民が買えないって程じゃないけど、贅沢品の域をでない。
だから、砂糖菓子ってだけで高級手土産だってわかるし、小さくて軽いからご挨拶周りに持参するのにちょうどいいらしい。
日持ちがするってのがポイント。なんでも1年以上もつらしい。
シーラさんの流行アンテナがピピっときたんだってさ。
もう少~しだけ値段が下がったら、きっと大人気になるって言ってる。
こういうのは値段が下がり過ぎてもダメなんだって。
今は、オープンしたばっかりで生産数が少ないから高いけど、材料を定期的に大量購入できるようになれば、仕入れ価格も下がるからね。
「甘いもの好きの若い子が、頑張ったら買えるような値段になれば、一気にくるわよ。見てなさい」って、何故か不敵な笑みを浮かべてる。怖い。
僕も食べさせてもらったけど、甘くてとっても果実感のあるお菓子なんだ。
小さい丸い飴みたいな感じで色とりどり。8色くらいあるのかな。
それが綺麗な柄の油紙で包んである。
贈答用には箱入りもあって、上にリボンがちょこん。
これは確かに可愛いもの好き、甘いもの好きの心をくすぐりまくる一品、だね。
◇◇◇
アマンダさんの旦那さんが外出から戻るのを、もう少し待ってみるらしい。
「そろそろだと思うんだけどねぇ」と、言いながら、お茶を注いでいる。
話はいつの間にか、木材の話になっていて、僕も勉強にと耳を傾ける。
アマンダさんは、最近の受注傾向や曲がりの良い木が見つかった話なんかを続けている。
曲がりの良い木の話にシーラさんが食いついた頃、アマンダさんのご主人が帰ってきた。
「シーラ、久しぶりだな!元気そうだ。ガイアも変わりないか?」
「お陰様で!ロベルトさんもお元気そうね」
うん…挨拶が始まり、僕の見た目についてのテンプレまできっちり踏襲したよ…うん…。
やはり話は曲がりの良い木の話になる。
今までは薄く切った木を、長い間加工して曲線を出し、重ね合わせていたらしいんだけど、新しく見つかった木は、その手間なしに曲線が出せるらしい。
しかも薄く切った木を張り合わせるんじゃなくって、すこし厚みのある一枚板で加工可能なんだって。
シーラさんが今作っている注文品はかなり優美なデザイン性を求められていて、まさにそういう木を探していたところだったからもの凄く食いついている。
ロベルトさんと木材置き場で加工されている実物を見たシーラさんは、即決で買い付けたよ。
こまかな話し合いが済み、帰る頃にはもう10時過ぎ。
食事でも一緒にと言われたが、なんせ明日が早いので…と、断わって宿屋へ直行だ。
こうして僕人生初、異世界旅行の初日は幕を閉じた。




