異世界旅~家に帰るまでが遠足です~③
一路、初日の宿泊予定地、カシールへと馬車で向かっているアギーラです。
あと、一時間くらいで着くみたい。
お尻も快調だよ…あれ、なんか違う言い方で言いたい…。
ともかくクッションコレクションのおかげ快適な馬車旅だ。
僕らの住むミネラリアは、ユスティーナ国と東西の隣国を結ぶ、大主道と言われる大きな道沿いにある。
エヴァンス領の最東の大きな宿場町って事になるから、隣国セレストへのアクセスには欠かせない町なんだ。
だからね、馬車の手配なんかもすごく簡単でスムーズ。
何故ならギルドの運搬部門は、大主道専用の馬車と御者、冒険者の護衛をワンセットにした、レンタルパックを販売してるから。
冒険者はバディを組んで護衛の仕事を受ける。ランクで選んだり指名したりも可能。
大主道の護衛は指定しなければ、大抵はEやFクラスで、護衛を希望する冒険者が振り分けられる。
冒険者はランク制。
ランクなしのルーキーに始まり、初級者のG、次がF…最高クラスがSSって感じみたい。
この大主道での護衛は基本2名一組。
一人一頭の馬に乗り、馬車の前後で護衛任務につくのが基本スタイルだ。
もっと大人数の護衛が付くのかと思ってたから少ない気がしたけど、それだけこの道のりは安全って事なんだ。
ちなみに国を越えたり、大主道以外の道を行く商人の部隊なんかの場合は、もの凄い人数編成になるんだってさ。
大主道には荷馬車の他にも、早馬便という手紙や小さい荷物を届ける馬が、常にピストン輸送している。
最近は早馬便の利用者が莫大に増えて、物凄い利益を上げているらしい。
ヤ●トさんやら佐●さんなんかを思い出しちゃう。
それにどのレンタルパック馬車も、大抵同じ時間帯で出発するから、実は前後に別の馬車が見えてたりする事もしばしば。
あ、あとは空ね。
大主道の上空をツガイコウモリ便っていう、魔獣の巨大蝙蝠を使って人や荷を運ぶ運搬便がばっさばっさと飛んでるんだ。蝙蝠だから夜行性かと思いきや昼行性。
小さな頃から、人の手によって飼育されてるから、乗り手であるバットマン達にも、すっごくなついてるんだって。
必ず番で飛ぶんだけど、お互いにちっちゃな声で「キィキィ」「キィキィ」って、何故かずーっと言い合ってるらしい。
すっごくちっちゃな声だから、背に乗ってる人にも聞こえないくらいの、ましてや下にいる僕らからしたら全く聞こえないような音量なんだけどね。
このちっちゃな声、他の魔獣がすっごく嫌うんだ。
もしかしたら独自の音波を出してるのかもしれない。
この番蝙蝠が近くにいると、魔獣が嫌がって近づいて来ないっていう、優れものの声を発しながら、荷物や人を運んで…これが結構な回数、上空を通過していくんだ。
必ず番で一緒に行動するから、二つの大きな影が見えると、結構壮観で一瞬ビックリしちゃうけど、実はこれも大主道の安全の一端を担ってるって訳。
魔獣って、悪いヤツばっかりじゃないんだ。
体内に魔石がある獣ってだけだから。
でも、好戦的なものが多いのも事実だから、大抵は悪役っぽい位置づけではあるね。
ちなみに御者と冒険者も安全グッズを持たされてるんだよ。
色煙高筒とキンキン笛ってものを、常に携帯するって決まりがあるんだって。
さっき見せてもらったんだけど、色煙高筒は…そう、家庭用の打ち上げ花火の筒に似てる。
空に向けて打ち上げれば、煙が出てそれが緊急信号になるんだって。
馬が驚かないように地上は煙らない。ただ空高くまっすぐに煙が上がっていくらしい。ピンクやら黄色やら…派手な色の煙が。
キンキン笛はその名の通り『キーンキーン』って音が鳴る笛。
これは動物の耳には聞こえないのに、人には聞こえるって優れものの笛。
音に驚いて暴れ馬でもなったりしたら、そっちで死人がでそうだからね。
これは周囲にいる人達に助けを求める笛なのかな。
シーラさんも笛の音は聞いたことがないって言ってたけど、すごく不快な音なんで、その笛を聞いたことがなくても聞いたら一発でわかる、って言われてるんだ。
さらにはギルドの乗合馬車も走っている。
例えば今回の御者さんのようにギルドの仕事を請け負った人で、復路の仕事がはまらなかった人はこれに乗って帰っても良いらしい。
もちろん荷物が少ない一般の人がチケットを買って乗ってもいい。
隣町の親戚に会いに行く、なんて人にはピッタリ。
ついでに言っちゃうとこれに加えて、自分の馬車を持つような富裕層や貴族、商人とその護衛や傭兵。
もちろん自己責任だけど、こういう大主道には護衛のいる馬車の後に付いて借馬車を走らせる、自ら帯刀した若い商人なんかもいるんだって。
虎威って呼ばれる彼らを誰も嫌がったりしない。
むしろ昔から縁起が良い、幸先が良いって喜ばれたりするらしいんだ。
あとはもちろん、ダンジョンへ向かう冒険者なんかも見かける。
大主道、みんなで渡れば怖くない。なんてね。




