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下手すりゃお尻が泣き別れ。

 慰めるつもりが、逆効果。


 ロート君にめちゃくちゃ泣かれてオロオロしていると、お父さんらしき人が走って戻ってきたから、内心絶賛安堵中のアギーラです。


「おい、ロート!大丈夫か。何があったんだ!!」

「おどーーー。ぅえーーーーーん」


 安心したのであろう、ロート君が父親に抱きつきながら大声で泣き出した。


「あ、あの…………(かくかくしかじか)、その後の僕の声かけがまずかったみたいで…また一段と泣いちゃいまして…す、すいません…」

「そ、そうか。ありがとうな。坊やも怖かっただろう。ほら、ロート。もう泣くのはやめなさい。お兄ちゃんにお礼は言ったのか?」

「ひっく…お兄ちゃん、ありがどぉ」

「それにしても大銀貨3枚(日本円で約三十万円)以上って…悪質だな。本当にどうもありがとう。息子の事も、守ってくれて…」


 途中から、一部始終を仁王立ちで見ていた隣の屋台のおばちゃんや、野次馬で見てた人なんかが口々に「そっちのちっさな子をさ、後ろ手にかばいながら、男を言い負かしていたよ」「坊主、偉かったよなぁ。ちゃぁんとちっちゃい子を守ってさ」とか何とか言い出したもんだから、おじさんはひたすら恐縮しはじめた。

 …いやもうだから、僕は成人してるんだってば…居心地が悪くなってきた。

 さっさと買い物をして帰ろう。


「いえいえ。被害がなくってよかったです。あ!僕も買い物したかったんでした。この大銅貨3枚でどれでも5枚の毛皮…これ、頂けますか?」


 泣いている男の子をあやしつつも、しっかりと毛皮を物色していたのだ。

 在庫処分品であろう5枚で大銅貨3枚(日本円で約三千円)の毛皮。

 とにかくお金を貯めないといけない僕にとっては高い出費だけど、これは必要経費だよ。


 この安い毛皮は毛がとっても太くて硬い。それにすっごく一枚が大きいんだ。

 ビッグスカゥラーテルって魔獣の毛皮らしい。触ってみたけど意外にチクチクしないし、丸めて触ると硬いけど何とも言えない押し返されるような、不思議な弾力性がある。

 …これは僕が欲していたものができるのではないだろうか。

 ほら…この弾力をごらんよ。絶対いける、必ず手に入れてやるんだ…ぐるぅぐぅぅ。


 安いのに浄化済みってところも気に入ったポイント。

 『浄化』って生活魔法の一種で、どうやらこのお店のおじさん本人が特化しているらしくて、お店の品は全て浄化してから保管しているらしい。

 異世界の綺麗好きおじさんだ。サイコー!


 同じ魔獣の毛皮ばっかり5枚買おうとしたら、「こいつは全く売れないのに、一枚一枚がでかいから保管庫で邪魔だったんだ。お礼と言っちゃなんだが、気に入ったなら同じ毛皮を全部持って行ってもいいぞ」って、買った量より多いという冗談みたいなおまけをつけてくれた。


 持ち運びが一回じゃ出来なくて三往復したけど、良い買い物ができたよ。

 ロート君もすっかり泣き止んで店の手伝いをしている。

 良かった良かった。


 ◇◇◇


 何を作るのかって?

 そりゃ…クッションに決まってるでしょ…。

 馬車で10日間の旅だよ?

 下手すりゃお尻が泣き別れ。

 

 本当は馬車の座席に、そのまま敷き詰めようと思って買ったんだけどね。それだとズレてきちゃうかもって思って…クッションを作る事にしたんだ。

 なんせ縦にも横にもとんでもなく揺れるんだから。


 同じ市に出てた露店で、日焼けして売り物にならないような生地を安く売ってたから、それも買ってみた。

 物凄い量だけど何と大銅貨1枚!

 千円ポッキリじゃないか、即決購入だ!!

 

 麻をもっとザラザラさせたような茶色の生地。綿っぽい深緑の生地…色も素材も悪くない。

 日焼けの跡がなければ普通に売れただろうに…これじゃぁねぇ…。

 使い捨てになる可能性だってあるから僕には十分だけどね、ありがとう!


 ◇◇◇


 布地を一度洗濯して、翌日からシーラさんの呆れ顔をよそに、クッション制作を始めた。

 布と毛皮は町の店舗の奥、工房になってる場所の隅に置かせてもらってるんだ。

 こんなにたくさんの毛皮を部屋の中に入れたら、僕の居場所がなくなっちゃうもん。


 まずは丸めてみる。腰に当てるクッションってあるでしょ?あんな感じのイメージ。

 一枚の時より弾力がすごい。

 試しに何枚か重ねてぎゅうぎゅうに布に詰め込んだら…思った通り、低反発風クッションが出来てしまった。


 それにしても、このナイフ…魔獣の皮もスーって切れるんだ。

 『使い方の癖をみたいから、旅から戻ったら一度鍛冶店に来てね』って、僕のナイフを作ってくれたラシッドさんに言われてるんだよね。

 そんなアフターサービスまでしてもらっちゃ申し訳ないくらいなんだけど…。


 毎晩、仕事が終わるとひたすらクッションを作り続ける…僕、裁縫がかなり上達したと思う。

 直線縫いだけだけど。

 かなり毛皮を押し込むから二重に縫ったよ。

 

 ファスナーのない枕カバーみたいに、長めにカバーを作って端を折り込んで使うようにしたから、汚れたら洗ったり、毛皮の取り出しも簡単に出来るんだ。

 これで最後…カバーにぎゅうぎゅうと毛皮を押し込んで…

 僕のクッションコレクション、完成!!

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