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あんっれれれれぇぇぇぇぇ?

「アギーラ…それ、一体何個縫うのよ?」


 呆れたシーラさんの声をよそに、僕はひたすらクッションを作っている。

 何故ならば、クッションにするのにちょうどいい固さの素材を見つけたから。

 実はね、明日からシーラさんと、十日間程の旅に出かけるんだ。


 馬車で。

 そう、馬車で。

 …果たして僕のお尻は耐えられるのか…。


 ◇◇◇


 少し遡って二週間ほど前。

 

 僕は初めてのお給金を貰った。

 この世界では大抵お給金の貰える日って月末なんだ。僕のお給金もそれに倣って月末払いって事になった。今回は日割りで考えて、銀貨3枚(日本円で約三万円)

 次からは銀貨5枚(日本円で約五万円)、状況により変動。


 本当は月、銀貨8枚って言われたんだけど…銀貨3枚分を今までの諸々諸経費で差し引いてもらう事にしたんだよ。それでも食事付きの住込み、その他にも色々買ってもらってて、こんなに貰っちゃ申し訳ないくらい。

 でも、独り立ちすることを考えて、出来るだけ貯金していきたい。

 

 僕はお酒を飲まないから、そういう出費もないし。

 だってさ…何かとんでもない…こことは別の世界の事なんかを、酔っぱらってペラペラ喋っちゃったら困るじゃないか…。


 さらに言うとさ、スマホやWIFI通信費とかサブスクの料金とか…ゲームも漫画も…趣味のものも…何もないんだよ。

 使う事が何にも思いつかないんだよね。服も靴も鞄も…とっくに全部買ってもらってるんだから。

 だから少しずつでも、お金を貯めるんだ。


 でも、お金を貰えるのって単純に嬉しいよね。

 今日は中央広場で市が立っているから、買い出しついでにちょっと屋台なぞ冷かしております。

 おい…ちょっとそこの僕、数秒前の決意はどこに行ったんだい。

 

 いやだってさ、まずはシーラさんへのお礼を買わなくっちゃ。

 初めてのバイト代って感じなんだもん。

 どうしても何かお礼をしたくって…初の給金で僕はお酒を買ったんだ。

 お酒ならガイアさんも一緒に飲めるしね。

 

 たぶん高価なものは怒られる。色々考えて消耗品が良いかなって。

 返品できないし、気軽に受け取ってもらえる可能性が高いから。

 

 必ず受け取ってくれそうなもの=大好物のお酒。

 僕の作戦勝ち。


 この世界は小さな子供がお酒を買っても何も言われないんだよ。

 家のお使いは子供がして当然だから。

 …僕は成人してるけどねっ!


 ◇◇◇


 我ながらお酒は名案だったな、なんて思いながら、ほくほく気分で市場を歩いていたら、とっても安い魔獣の毛皮を売ってる露店を見つけたんだ。

 よく見てみようと近づいた途端、店番をしてる獣人の男の子が例によって例のごとく、見事にぼったくられようとしてる現場に遭遇してしまった。


「トルオーク70枚…これは5枚で銀貨1枚と大銅貨5枚ね。で、この大銅貨3枚のやつを70枚、あの5枚で銀貨2枚のを6セット、このブーデルガールの毛皮を8枚貰おうか。これは2枚で銀貨2枚と大銅貨5枚だね。合計で…悪いんだけど銀貨と大銅貨で支払っても良いかな?銀貨が…はい、28枚と、大銅貨18枚。じゃぁ、ここに置くからね」


 男の子は涙目になりながら、不安そうに両手の指を折って懸命に数えてるけど…すでにぼったくり男は、毛皮を大きな袋に詰めようとしてるじゃないか。

 いや…指を折って数える範疇の計算じゃないと思うぞ…特殊な計算方法なら別だけど。


 ええぃ、我慢ならぬ!

 男の子を後ろに隠すようにして男と対峙する。大声で周囲を意識しながらゆっくり話しかける。語尾も伸ばして、時間も引き延ばそう。保護者よ、早く来い!


「あんっれれれれぇぇぇぇぇ?ちょーーーーーっといいですかぁぁ?このトルオークが70枚だと、5枚セットが14個ですよねぇぇ。そうするとぉぉ、銀貨が14枚と大銅貨70枚。大銅貨3枚の毛皮を70枚で大銅貨が210枚。銀貨2枚のを6セットで銀貨12枚、ブーデルガールが8枚だから4セットで銀貨8枚と大銅貨20枚ですよねぇぇ?おっかしいなぁぁ、おっかしいなぁぁぁ」


 よし、周りには人だかりができ始めている。

 小さな子供が二人で、悪いおっさんに立ち向かう図の完成。

 …僕は成人してるけどねっ!

 

 もう一押しだ。


「合計で銀貨34枚、大銅貨300枚ですよぉぉぉ。これをわかりやすく言いますとぉぉぉ、大銀貨6枚と銀貨が4枚だと思いますけどぉぉぉ。ここに置かれたお金は…銀貨が28枚と、大銅貨18枚ですよねぇぇぇ。あと大銀貨3枚と銀貨4枚、大銅貨2枚足りませんけどぉぉぉ。足りませんよねぇぇぇぇ。半分以上も不足し「ちっ。う、うるせー、くそがきがっ!誰がこんなしみったれた店で買うかボケェ!」」


 周りの屋台の人達も、台前に出てきて胡散臭そうな目で男を見つめている。

 分が悪くなった事を悟った男は、大声で悪態をつき、置いたお金を奪うように掴んで去って言った。


 ぼったくり男の形相に体を硬直させながら全力で泣きじゃくるという、見事な技を披露している店番の男の子に声をかける。


「沢山買ってくれるみたいだったから、少しくらいなら目を瞑っちゃおうかと思ったんだけど…さすがに半分以上も誤魔化すのは見てられなくて…怖い思いさせちゃったかな。大丈夫?」


 男の子は相当怖かったのだろう、硬直はなくなったが今度はぶるぶると震えながら泣きじゃくっている。


「ひっく、ひっく…お父さんに店番頼まれたんだけど…さっきの男の人が凄い勢いでお金押し付けてきて…俺…俺…全然わからなくなっちゃっ…こ、怖くて……ズズッ」

「そっかぁ。もう大丈夫だよ。いっぱい買ってくれる人には『計算間違いがあると困るから、一つずつ清算してください』って、お願いしたら良いと思うな。もう少し大きくなるまでは…ね?ちゃんとお買い物したい人なら、みんなわかってくれるから。たくさんだと計算が難しいからさ」

「ひっく…グス…うん、わかった…ひっく…」

「でも、もうお店番が一人で出来るんだから凄いや。名前は何て言うの?」

「ロ、ロート」

「ロート君、お父さんはもうすぐ戻ってくるのかな?」

「ゔっ…わがんない…父さん、すぐに戻って来ると思ゔ…ひっく」

「そう…じゃぁ、お兄ちゃんも疲れちゃったから、少しここに座って休んでいこっかなぁ。…ほら、泣かないで。な?あんまり泣いちゃうと、目が溶けてなくなっちゃうぞ!」


 ひっくひっくが止まらないので、背中をゆっくりさすってやる。


「ゔ~~~ひっく、ふぇぇぇぇーーーーーーん」


 ぎょ。悪化させちゃった!

 僕のバカヤロ~!

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