淡い野望は一瞬で消えましたとさ。
例の『洗濯板』だけどさ…あのあと、びっくりするほど注文がきたんだ。
商品名を決めるようにシーラさんに言われたんだけど…そのものズバリで『洗濯板』にしてみた。
もしかしたら他の転移者にささるかもって思って。
ありえなくもないネーミングだから、ヤバそうな人だったら知らんぷりするつもり全開の僕、アギーラです。
実は、洗濯板の魔道具バージョンも作ったんだよ。正確にはシーラさんに作って貰ったんだけど…。でもね、設計図案は僕が引いたんだ!
あれ、魔道具にする意味あるか?って…思った?だよね~。僕もちょっと思ったから。
でも、試作品をシーラさんに作って貰って、二人で商品化を決めたんだ。
ただ、洗濯板が微振動するようにしただけ。
馬鹿にすることなかれ、驚くほど汚れが落ちるんだから。お湯も使えれば最高に良く落ちる。石鹸を洗濯板で少しこそげとって、その石鹸くずと板を桶の中に入れておけば、微振動で石鹸くずは溶けて、良い感じに液体に近い状態になる。
その桶の中で洗濯物を漬けながら洗うと、液体になった石鹸くずと微振動で、汚れがとっても落ちていくって仕組み。
魔石の消費量削減には一番苦心したよ。
主婦の人、特に専業主婦は自分の家事仕事を減らす為に、魔道具を使う事を躊躇する人が多いって聞いたからね。
確かに魔道具は安い買い物じゃない。
だからそんな贅沢をせずとも、自分たちが時間をかけて洗えば済むからって。
毎日ご飯を作って、掃除洗濯、みんなが心地よく生活できるように気を配って、その上、ワンオペ子育てだったり…。それなのに、夫や子供の為になら使えるけど、自分の為に魔石は、魔道具は使えないって…それは違うと思わない?
今までならそう思ってた…思うだけだった。
もちろん主婦じゃないし…全く違うのはわかってるんだけど…今は、その気持ちが少しだけわかるような気がするんだ。
日本にいた頃は、親のお金で何不自由なく生きてきて…好き放題で勝手な事してた。
僕、恐ろしいほどに感謝もありがたみも…全部当然だって思ってて…何も考えた事がなかったんだ。
でも、この世界に来て…何にもできない僕の事を、シーラさんは無条件で受け入れて…親切にしてくれてた。衣食住も提供だってそうだよ。
ここで、「自分が楽するために魔道具使いたいから買ってよ」って…言える?…僕は言えない…。
ただでさえ、これ以上迷惑かけたくないんだもん…上手く言えないんだけどさ。
ともかく!魔石消費については一番配慮して、最大限に消費量をカットしたんだ。
少しでもみんなの洗濯が楽になれば良いな…。
あれ…なんか洗濯機のCMみたいだ…
◇◇◇
そんなこんなで、僕は道具職人としての一歩を踏み出しつつ、少しずつ魔道具作成の勉強もしてるんだ。
まだ、魔力覚醒がないから、僕は設計図案の勉強中だけどね。
でも実際は、その設計図案をもとに魔道具設計図を作成するんだから立派な一歩でしょ?
魔道具の設計図って、超微量の魔素が付与されてる魔道具設計図専用魔紙に、設計の図面を書いていくんだ。
魔紙は天然の魔石から採った、魔素が微量に流れている紙の事。
魔素って、自然界のありとあらゆるところに存在する魔力みたいなもので、天然魔石にはそれが内包されてるんだって。
そう言えば、設計図面ってさ…すっごく変な例えで、信じてもらえないかもしれないけど、少し…プラモデルの組み立て図に似てるんだよね。
もしかしたらCADで作る設計図って言うのかも。
でも、僕が知ってる知識ではプラモデルとしか言いようがない。
手書きでそれくらいの精密な図案を引くのは結構きつい。
でも、すっごく楽しい。
宇宙艦隊タイガとかジーグ帝国シリーズとかのプラモ…実は高校生になっても作ってたからさ。
べ、別にいいでしょ…誰かに迷惑をかける訳でもなし…。
設計図とともに魔道具作成の手順指示を、独自の言語を使って記入していくんだけど…なんと僕は一度見ただけですべて理解できてしまった…。
そう言えば、この国の言葉をすんなり習得できてたんだったから、もしかしたら言語だったら学ばずとも理解してしまうのかもしれない。
脱落する人は、この言語習得でまず脱落していくらしいから…これは転移チートって事でありがたく享受しよう。
ちなみに、他国の言葉も理解できるんじゃ…って、期待してシーラさんに聞いたら、この大陸は同一言語らしい。
他の大陸があるなんて話は聞いたことがないって言うし…あわよくば、通訳も兼務で生きて行きていこう…なんて言う、淡い野望は一瞬で消えましたとさ。がっくり。




