ガイアとソウと瘴気の渦と貞操危機の妄想と③
瘴気から出てくる魔獣は非常に弱い。大量に出てくるのだが、総じて驚くほど弱い。
だが突如、強い魔獣がでてくる。
他の弱い魔獣が、残像と共に消滅するのとは違い、強い魔獣は屍が残る。
まるで親玉気取りのその魔獣を倒し体内から魔石を取り出すと、一気に瘴気の渦が薄くなる。
そこで黒い霧のような渦の周辺をごっそりと、炎の精霊サラマンダーの吐息が火種だと伝えられている、特殊な炎で焼く。
何故かこの炎で焼き清めると、瘴気が消滅する。
強い赤魔法の使い手ならば清める事もできると聞くが、あいにく俺はまだ一度も強い色魔法を使える奴に会った事がないから、本当のところはわからない。
瘴気の嫌なところは、親玉魔獣が出てくるまでの時間が毎回違うところだ。
最短では1日で親玉魔獣が出てきて終わる事もあったが、今回のような事もある。
まぁ、ここまで長いのは俺も初めてだが。
親玉魔獣が出てくるまで、ひたすら交代で弱い魔獣を切り続けなければならない。
いつ親玉魔獣が出てくるかがわからないから、瘴気祓いの出動命令はBランク以上の高ランカーに下される。
弱い魔獣は切られると、残像を少し残すだけで、実体は何も残さず消滅する。
切っても切っても死骸が残る訳ではないから始末は楽だが、今回のような長期戦となると、さすがに疲労の色が濃くなってくる。
こういう時に泰然自若な態度で皆に声をかけ、皆を労わる事が出来るソウのような人材は貴重だ。
「なぁなぁ、これってやっぱり結界が弱くなってきてるからじゃないかって噂があるけど…やっぱりガイアもそう思う?」
「あぁ…間違いない。だっておかしいだろ?どこの国の瘴気も同時期に、だぜ。結界の弱化に関しては、もうどこでも公然の秘密ってやつになってるしな」
前線交代で休憩に入ると、ソウが緊迫感がまるでない、いつもの口調で話しかけてきた。
この人懐っこさは天性のものか。この人たらしめ…ニヤリとしながら答えた。
「やっぱりなー。でも酷いよね。こういう時の王侯貴族様だろ?どうして自分たちが特権階級で、優雅な暮らしができてるのか、忘れちゃったのかなぁ」
「おい…どこで誰が聞いてるか、わかったもんじゃないんだ。やめとけよ」
「それはわかってるけど…。この大陸の大事な大事なお約束じゃないのかよ。結界が弱まった時は、神から貰った特別な力を持った奴ら…貴族達が、瘴気を祓い結界を張りなおすって。なのに…今回のこの一連の瘴気祓いだって、自分たちは一度だって足を運ばないんだよ!全部ギルドに丸投げじゃん!!」
「『最近の瘴気の異常発生は、結界の弱体とは無関係と思われます』、だとよ。何人かのまともな識者が、必死に掛け合ってるみたいだが…無駄だろうなぁ。お綺麗な自分達の手を汚すくらいなら、知らぬ存ぜぬでいたいはずだ」
「ぶはっ…ガイアったら。『おい…どこで誰が聞いてるか、わかったもんじゃないんだ。やめとけよ』って自分で言ったくせに。」
笑いながら、全く似てない俺の物まねを披露したソウは、少し顔を暗くして話し続ける。
「でもさ、他の国の冒険者にまで迷惑かけて…自分たちは知らぬ存ぜぬって…やっぱりむかつくよ。ガイア達だって一週間以上かけて来てくれてんだろ?こんな遠方の海沿いまで…これって何で俺たちがしなきゃなんないんだ?」
「ん-…瘴気祓いがBランク以上は強制参加だからだな」
「ちぇ~っ。そういう事言ってんじゃないからね!わかってるくせにっ!!」
そんな会話をしながら休憩地へと歩いていると、急にソウがビクッと立ち止まった。
「ガイア!…来るよっ!!俺はサラマンダーの炎を貰ってくる。ガイアは先に戻って皆に伝えて!」