ガイアとソウと瘴気の渦と貞操危機の妄想と①
シーラはどうしているだろうか…。
俺は魔道具師のシーラの夫。冒険者のガイアだ。
荷物の定期便が大きな町同士にはあった為、俺からはセレストの王都から手紙を出して連絡を入れていたが、シーラからは定期便では連絡はできない。
なんせ、俺は瘴気祓いの為に、とても辺鄙な地へ来ているからだ。
あいにく近くには村もないから、ここに着いてからは、俺からも手紙を出してない。物資の補給隊に頼むのも気が引けるしな。
今回は緊急の連絡用にとバディバードをシーラに渡してきている。
バディバードというのは、鳥形の飛行術式が付与された魔道具だ。
お互いに持つ魔道具の、その相互間でのみ飛ばす事ができる通信魔道具。50文字程度しか送れないのが難点だが。高価だから、普段は魔道具師のシーラでさえ使う事はない。
今回の遠征は何だか嫌な予感がした。何故か長引く気がしたんだ。
何もなければシーラも、バディバードを無駄に使ったりしない。
便りがないのは良い便りなのだから、送られてこないほうがもちろん良いに決まってる。寂しいが、それで良いんだ。
そのバディバードが届いたのは、ちょうど俺が本部横のテントで、休憩を取ってる時だった。
何かあったかと体中の毛が逆立ち、首の付け根あたりが一瞬キンッっと痛んだ。俺は人型に戻り、恐る恐る開封した。
『森記憶喪失者保護、男16だが見た目10髪白に銀、目耳薄ピンク犬人、セレスト失踪者確認願う、私元気愛してる』
なっ…あいつ、またおせっかいを…じゅ、16歳!…だだだ、男性!これはいかん。とってもいかんぞ…一刻も早く家に帰らなくては!!
◇◇◇
私生活のイライラを持ち込むつもりはないが…イライラする。
しかもこの瘴気ってやつを見てると、余計イライラが募る。
こんこんと湧き出る弱い魔獣に辟易しながら、もう何度目かもわからないため息をつく。
俺は…こんな事をしてる場合じゃないんだ。本当に冒険者を辞めたくなってきた…成人した男だぞ?何もかも投げ出して帰りたい。
突然、各国のギルドから、瘴気の渦が発生したと所属ギルドに連絡が入ったのは、3か月半ほど前だ。
同時期に4つの瘴気の渦が、各国の辺境に発生した。それも全てが海沿いで発生したという。
この大陸には5つの国がある。俺が暮らすユスティーナは、大陸の中央にある国だ。
海に面した土地はない。今回、瘴気の発生が唯一起こらなかったのは、ユスティーナだけだった。
ユスティーナは、その中央にある『精霊の祈り木』の加護を、強く受けていると言われている。
魔の巣窟ではあるが、お宝や貴重な素材を提供してくれるダンジョンは、他の国と変わらずに発生するのに、何故か瘴気は一度も発生したことがない。
今回もどうやら恩恵を受けているようだ。
ギルドに所属する冒険者にとって、国なんてものでの縄張り意識はない。ギルドランク自体も大陸全土共通だし、Cランク以上になれば国を行き来するのもフリーパスだ。
大きなダンジョンが発生すれば、国を跨いで冒険者が集まるのが常だし、早くダンジョン踏破しないと周辺に魔獣が増えたりするものだから、どこの国も冒険者が入国することを歓迎してくれる。
各国のギルド同士はしっかりと連携が取れていて、今回のような事態が起こるとすぐさま行動に移る。
そういう意味では、大陸すべてのギルドは一つの大きな組織だと言ってもいいくらいだ。
住む国が違うというだけで貨幣も共通、崇める神も同じ、地域によって多少の訛りはあるが言葉も同じ。
だからダンジョン踏破や大物の討伐なんかは、気の合いそうな他国の冒険者と、即席でパーティーを組むことも多い。
ギルドも一応国ごとに分かれてはいるが、実際のところ国同士なんかよりも、ずっと連携体制や統制が取れているのではないかと思う。
今回もユスティーナのギルドは、各国ギルドの要請を受け、即日、出動態勢を整え始めた。
Bクラス以上のギルメンは強制参加で割り振られた国へと発つ。クラスがあがれば、報酬の高いクエストも受けられるが、義務も発生する。今回のこれはその義務というやつだ。
もちろんCクラスでも十分に対応できる奴もいるだろうが、ダンジョンはあるし、クエストも減るわけじゃない。
この瘴気祓いってやつへ、人手を取られすぎても困るんだ。
雑魚をさばきながら、時間だけがだらだらと過ぎていく。
…シーラに男の影がちらついてる。絶対にあざとい男に違いない。
…瘴気なんて、もうどうだっていいから…俺は…俺は…
「俺は…早く…家に…帰らなきゃ…いけねんだ……よっ!」