あ…むしろここ、あとで教えて下さい…。
またまた、魔道具師のシーラよ。
アギーラはお隣の依頼を喜んで受けて、例の板を作り始めたの。
「うわ~、ナイフ凄いっ、ナイフ凄いっ」って、尻尾ぶんぶん耳ぴこぴこで、ぶつぶつ言ってるのが面白くって、思わずニヤニヤしながらずっと見ちゃった…。
ラシッドに渡した時も少し装飾を彫ってたけど…もっと凝った柄にチャレンジしている。
本当に削りやすいらしいわね。傍から見ててもわかるほどよ。
そりゃ大量生産の既製品と、ラシッドの注文品の差は雲泥だもの…。
非力で手の小さな女性でも使いやすいようにか…客目線も意識するあたり、指導した甲斐があるってもんよね…あ、一回も指導したことなかった…。
うん、ずいぶんと女性が喜びそうなデザインにしてるわ。そうそう、意外にこういうのって大事なの。
私も今、注文品の設計図案を考えているんだけど、顧客の考えを読むと曲線美にいきついてね…やりがいはあるけど苦労してるのよ~。
こういう、相手の意図を汲み取る力って、生産職には必須だから、存分に磨いてもらいたいわ。
あ、あのライン…アタシが魔道具に彫り込んだ模様を見て、アレンジしたんじゃないかしら…。
粗削りな部分もあるけど、素晴らしい出来じゃないの。
あの柔らかそうで、ほっそりとした傷一つない手は、職人の手じゃないとは思うのだけれど…やっぱり何かの生産職だったのかしら…。
ちらちらとアギーラが家事やなんかの合間に、アタシの仕事を見ているのは知っていたの。『目で盗む』事ができる子なのよ。
そこにきて『職人手』の持ち主。
何のスキルも持たないとしても、もう怖いものなしの道具職人になれるわ。
純粋な興味からの視線にアタシも悪い気はしなかったから、そのままにしていたけれど、下手な弟子よりよほど職人気質なのよ。
アギーラに、「一枚でも販売すれば、これはもう立派な商品だから」って話をして、板の名前を決めてもらったわ。
暫く考えて「『洗濯板』にします」ってさ。…なんだかそのものズバリできたわね。
ついでに『守秘匿魔法契約』っていう、見た事聞いた事は口外しません、って言う感じの魔法契約の事や、グーチョキパの申請用紙の書き方を教えたわ。
え?グーチョキパって何かって?
『グーテンブルージュ権利保護舎』…みんな『グー舎』って呼んでるけど…平たく言えば、大陸全土で活動してる、発明の権利を保護してくれる団体があるの。
そこへ『グーテンブルージュ著作許諾発明申請書』を申請して、許可がおりれば、その申請した権利は保護してもらえる、って仕組みでね。
でも、長い名前だから申請や申請書の事は、略して『グーチョキパ』って昔っから言ってるわよ。「グーチョキパの記入漏れが…」、「あれ、もうグーチョキパしたの?」って感じ。
これは発明した人の権利を守る為の、大陸全体の掟みたいなもので、もちろんどこの国で取得しても、大陸全土で有効よ。
グーチョキパを取っておけば、もし似たような商品が出た時に、差し止め、もしくは使用料の交渉なんかができるの。
申請時に流行させたければ『使用料〇%』とか決めてしまって、記載しておけば、勝手に使われて、どんどん使用料が振り込まれる事もあるわ。
『大量生産不可』とか『指定数以内なら勝手に使用可能。使用料〇%』とか色々あるのよ…すっごく面倒くさいけど、アタシたち生産者を守る大事な権利だからね。
アギーラにもいつかはきちんと教えないといけないから、こういうのは早い方がいいもの。
すっごく面倒くさいけどすっごく大事よ。
もう、ラシッドにも渡したし、隣の奥さんに売ってしまえば、もう世に出た商品って事になって、第三者にグーチョキパを取られてしまう可能性だって出てくる。
道具職人も当然、発明したものにグーチョキパしておくのは常識だもの。
グー舎が却下したり、似たようなものが既にある場合は、確認のための話し合いなんかもあるけどね…申請は出来るだけしておく事。
すっごく面倒くさいけどすっごく大事よ。
…アギーラがね、大事な事は2回言えって言うもんだから…2回言ったわ。
って…あれれ?
んなっ…なんて呑み込みが早いんだ!
…え?…も、もう書き終わったの??
ちょっと確認を…。
あ…むしろここ、あとで教えて下さい…。