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ドワーフって、勝手におっかない感じの人だと思ってた。

 僕とシーラさんはナイフを買いに、町の南側にある看板のない鍛冶店へ。

 修行中の鍛冶師見習い、ラシッドさんに今からナイフを見せて貰うんだ。


 シーラさんが、「ちょっと事情があって、うちの見習いになったけど…ナイフとか…使い慣れてないから、色々説明してやって欲しいのよ」と、ラシッドさんにお願いしてくれている。

 話を聞いたラシッドさんは、店の奥からケースを出してきた。


「僕の既製品のナイフは、セミカスタムって言ってね、注文品と既製品の中間って感じかな。完全な既製品って訳じゃないんだ。だからね…完成品じゃないんだけど、ちょっと見て貰えるかな?じゃあね…まずはこれを見てくれる?こっちがハンドルって呼ばれてる、手で握る部分だよ」

 

 そう言ってラシッドさんはケースを開けた。

 えー!こんなにいっぱいあるの?

 ハンドルっていうんだね…僕、全然わかんないや。


「それと、こっちはブレイド。ブレイド部分は使用用途でもかなり絞っていけるから、沢山あるけど大丈夫だよ。素材に好みがある?もしあるなら、それに近いものを提案できるかもしれないから、教えてくれるかな?」

 

 こんな部分部分だけ見せられても、わかんないってば…。


「いえ…僕、全く分からないので…相談しながら決めさせて頂ければと…」

「そう、わかった。じゃぁまず…ブレイドは…主に木を削るのに使う感じだよね?獣を捌いたりとかは…」

「今のところはそういう使い方は考えてなくって…。もちろん木工メインで使いますけど、日常生活全般で使えるものが欲しいんです。肌身離さず持ち歩こうと思ってて…なるべく小ぶりなものが良いのですが…」

「フィクスドよりフォルダーかな…」


 そう呟いて、ラシッドさんはまた店の奥に入って行った。

 すぐに戻ってくると、ラシッドさんは僕に一本のナイフを見せた。


「これ、僕が日常生活で使ってるナイフなんだ。アギーラはこういうナイフの方が良いかな?これはね、フォルダーって言う…ここを押して…こうやってここを曲げると…折り畳めるナイフなんだ。木工に使うには不安定だって感じるかもしれないけど、このフォルダーは僕がかなり改良を加えててね。そんじょそこらのフィクスドナイフには負けない自信があるよ。フィクスド…ハンドルにブレイドが固定されてる一般的なやつだね。わかるかい?」


 使い込まれた折り畳みナイフを触らせてもらう。

 あ…こういう方が良いかも。ナイフを持ち歩くなんて慣れてないから、鞘とか無くしそうだし…。


「アギーラが日常生活で身に着けておきたいって思うなら、こういう形も便利だと思うんだ」

「はい。僕もこっちの方が使いやすいと思うので…この形でお願いできますか?」

「よし、じゃぁ…まずはハンドルを握ってみて、自分に一番しっくりくるものを選んでね。まだ完全に完成してる訳じゃないけど、ある程度は自分の手との相性がいいなって思うものを選べば良いよ。じゃぁ…ちょっと見て貰ってもいいかな。ゆっくりでいいからね。選び終わったら声をかけて」

「はい、わかりました」

 

 ラシッドさんはフォルダー用のハンドルが入ったケースを出してくる。

 

 意外にもハンドルは即決。

 何でかって?

 その一本だけが他のと全く違ったんだ。なんだか手に吸い付くみたいにぴったり。

 全く知識なんて無いのに…これが相性ってやつなのかな。

 

 うーん…刃はよくわからないや。

 声をかけろという割に傍から動くことなく、微笑みながらも何故か真剣に僕を見つめているラシッドさんに話しかけた。ここはプロにお任せしよう。


「ラシッドさん、刃がよくわからないので…教えていただけますか?形状はこれで、長さはこっちの感じがよくて…良いなって思ったのはこの列のなんですけど…好みだけで決めちゃダメですよね?」

「そう…。この列のが良いなら…この形状でこっちの長さで…うん…じゃぁ、素材について簡単に説明していくけど、木工と生活全般での使用メインと考えると…この列でも右側のものが良いと思う。耐久性をあげるならこっちがお勧め。この刃はメンテナンスも楽なんだ。こっちが…」


 ラシッドさんは素材を丁寧に説明しながら、一つ一つの利点や欠点を教えてくれる。

 僕は三本までブレイドの候補を絞った。

 

 …ん?…あれれ?光の加減かなぁ?気のせいかもしれないけど、一本だけ一瞬淡く光って見えたんだけど…。すっごく綺麗だ………決めた!これにしよう!!

 

「じゃぁ…ブレイドはこれで。ハンドルはこれが良いです」

「………握った感じが一番しっくりきたのかい?」

「はい、これが一番良いです。触ってすぐに…僕の手にぴったりだなって…あ、なんかおこがましいですね…ごめんなさい」

「そんなことないよ!相性の良いものがあって良かった。…じゃぁね、これをアギーラの手にあわせて調整していくからね」


 今度は少し離れた場所で座って待っていたシーラさんに向かって話し始める。


「シーラさん、今日は予約も入ってないんで…このままちょっとだけ調整しちゃっても良いですか?」 

「うん、助かる。よろしくね。アタシはここで店番しててあげるからさ」

「あはは、お願いします。魔道具店だと思われちゃうかも。…じゃあ、アギーラはこっちに入ってきて。まずはね…」


 ラシッドさんは僕の手形を取り、身体を計測した。腕から手部分にかけては特に念入りに測って、カルテのようなものに記載していく。

 それが終わると、今度はハンドルの調整をすることになった。


「ぱっと握った時にね、ここがあたると思うんだけど…こっちからちょっとこう…そう…うん。どうかな…。じゃぁ次は、ちょっとこうして…」


 ラシッドさんが何やら手早く調整を施したハンドルに、ブレイドを簡易止めしたものを渡してくれた。…すごい。すっごくしっくりくるよ。これは使いやすそう!


「すごい!ハンドルが手の一部みたいです。ブレイドの長さもちょうど良いです」

「そう。良かった。そうだね…五日後には出来るから取りにおいで」


 ◇◇◇


 入口のカウンターに向かって歩きながら、ラシッドさんがシーラさんに話しかける。


「代金は…シーラさんが払ってくれるの?」

「うん。今回はアタシのおごり~」

「わかりました。出来上がりは五日後になるから…取りに来るのはアギーラでしょう?どうしましょう。先払いで良いですか?」

「アギーラに行かせると思う。もちろん、お金は今払うわね。あと、これ…グスタフさんと晩酌にでもどうぞ!」

「わ~!火炎原酒だ!!いつもありがとうございます。今日は洞窟の工房に行ってて留守なんですよ。親方が戻ったら一杯やらせてもらいますね」


 ドワーフさんはお酒好き。これはどの異世界でもきっと共通。


「ラシッドがいなくなったら、グスタフさんも工房に籠りっきりって贅沢は出来なくなるわねぇ…」

「親方はけっこう気難しいからなぁ。弟子は取らないみたいなんで…ここを切盛りできる従業員を探してて…なかなかねぇ。…アギーラ、うちで働く気はないかい?」

「っ!だめよ~!!アギーラはうちの見習いなんだから!!!」

「あはは。冗談ですよ~。でも…良い職人になりますよ、アギーラは」

「っっ…!そう…わかってるわよ…ったく…ラシッドったら油断も隙もないわ。アギーラも気をつけなさい!こういう優しい顔した男が一番危険なんだから」

「はい!」

「…アギーラ…元気よく酷い返事をするんだね…」


 そりゃぁもう、シーラさんの部下ですからね。僕は元気にお返事しておきましたよ。


「それじゃ、五日後以降で取りに来てね。この時間帯なら大抵開けてるから」

「どうもありがとうございました。宜しくお願いします」

「じゃぁ、また~。ガイアが戻ったら連絡するわ」

「はい!そっちも是非!!お待ちしてますね」


 和やかに店を後にする。ラシッドさん、良い人だった!

 ドワーフって、勝手におっかない感じの人だと思ってた。ごめんね!

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