閑話 僕は立派なヒモ犬人になりました…
僕の魔力、そこらへんに落ちてない?どうも、アギーラです。
あの洗濯板を削った時に出た魔力は、またどこかへ引っ込んじゃった。
もちろんステータス画面も出てこない。
シーラさんがすっごく心配して…あの後また、薬師のグリンデルさんのところに行ってこいって言われて、行ってきたんだけどさ。
『異常ないね』の一言で終わった…。
…何だったんだろう。
魔力が勝手に出てるってことは、覚醒したんじゃないかと思ったんだけど…違ったのかなぁ。嫌だぞ、異世界で暴発とか…。
◇◇◇
シーラさんが、「アギーラ用のナイフを新調しましょう!」と言って、連れて行ってくれたのは、町の南側にある鍛冶店だった。
昔は看板も出ていて『南の洞窟・ドワーフの鍛冶店』とか何とか…そういう屋号がちゃんとあったらしい。
今は看板のない鍛冶店。いちげんさんお断りってやつだね。
隠れ家カフェみたいだ。そういや、僕も何回か連れて行ってもらったことがあるなぁ。
クラスメイトの貴羅樹君のお姉さんがやってるお店。いわゆる夜がメインのお店なんだけど…僕が行ったのは昼間だからね。
普通のマンションの一室。一階ならともかく、三階だよ?看板も何もない。よくこんなところでお店開くよね…なんて思いながら、一歩室内に入って…びっくりしちゃった。外観と全然違うんだ。
うわ~ぉ、ご~~じゃすぅぅ!
夜のお店の装飾って、日中見ると結構粗が目立ちそうだけど、これは色々と本物なんだろうと思う。昼間見ても化けの皮が剝がれない感が半端ない。お金かかってんなぁ…僕の感想はその一言に尽きる。
夜は夜で、それはそれはめくるめくな雰囲気のお店になるらしい。で、昼も隠れ家カフェ的に、趣味でたま~に営業してる。SNSでお昼に店を開ける日は合図を出すんだって。既に何組かお客さんがいてビックリする。
「みーちゃんが友達連れて来るなんて~。いっつも彼女しか連れてこないから、男の子のお友達がいないのかって心配してたの。お姉ちゃん嬉しい!」
きゃっきゃしながら喋っているのは、とってもきれいな貴羅樹君のお姉さんだ。
あれもこれもとたらふく御馳走してくれた。
…貴羅樹君…みーちゃんって呼ばれてるんだな…。
「明君はさ、なーんか…餌付けしたくなる顔してんのよね~。絶対、将来は良いヒモ男になれるわ。私の予言は結構当たるんだから。あ、私でも良いわよ…なんてね。うふふ」
そんなことを言って貴羅樹君を盛大にあきれさせたお姉さん。
僕、美人さんに遊ばれてる…。思春期真っ盛りな男子を弄ぶなんてひどいや…。
それはさておき…昔から僕は何故か良く『餌付けしたくなる顔』と言われる。それ何顔よ。
全く意味がわからんけど…顔が貧相なのかなぁ、なんて思ったりしてね。
こういう場所で、夜も営業とか…苦情が来たりしないのかな。なーんて思ってたら、マンション一棟ごと貴羅樹君のお父さん所有物件だったよ…。
貴羅樹君…こんな綺麗なお姉さんに愛されてる挙句、彼女とイチャコラでお金持ちボンボン…ゲームじゃ、ヘタレパラディンって呼ばれてるのに…リア充爆ぜろ。
そんな事を懐かしく思い出しながら、僕はミネラリアの町のメインストリートを歩く。
みんな、どうしてるかなぁ…メイさんも和泉さんも…心配してくれてるかな。
なんでこんな話をしてるかって?
だってね、『餌付けしたくなる顔』…今ならわかる気がするんだ。
僕…犬顔だったんじゃないかなって…。
貴羅樹君のお姉さん、僕は立派なヒモ犬人になりました…




