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秒で陥落した話

「ベル、聞いた?ユスティーナ国が、秒で陥落した話」


「聞いた聞いた、配管工のおじちゃんから」


 私がヌクミーズ村の開拓にいそいそと勤しんでる間に、ギルドがさぁ…思いっきり決起しちゃって、思いっきり下剋上しちゃったの。

 

 これがビーナスさんが“これから先に起こるだろう事は、決してあなた達のせいじゃない”って言ってたやつだったんだろう。

 私達のせいじゃない私達のせいじゃない私達のせいじゃない…よし、自己洗脳完了。


「明け方にエリーゼ湖から押し入って、王宮を一気に攻め落としたんだってさ」


「どうせ、あのギルドの事だから戦略も戦力も抜かりないんでしょ?ユスティーナ国なんて、手も足も出なさそう」


「大正解。まさしくその通りだったらしい。あれだけ悪事が露見したらねぇ…」


「でもさぁ、そもそもどうやってギルドは色んな悪事を暴けたんだろう。私みたいな…鑑定出来る人が思いのほかたくさんいるとか?」


「もちろん数少ない鑑定持ちの人も頑張ったとは思うけどさ、主な原因は…ほら、あれだよ。守秘匿魔法契約」


「契約が原因って…どういう意味?」


「あの契約って関わる人数が5人以上の場合、守秘匿魔法契約に新しい項目が組み込まれると、魔法紙を更新しないと駄目なんだ。魔法紙だって5人以上の使用者の用紙と以下のとで分けてるし。全然レベルが違うらしいから」


「へぇ、そうなの?大人数だと意外と面倒なんだ」


「そうかな。変更がなければそのままで良いんだし…内容の重要性を考えれば、面倒じゃないと思うけど…」


「まぁ、紙切れ一枚ですっごい効力があるんだから、そう言われれば妥当かなぁ。大人数だと魔法紙に負担がかかるって感じなの?」


「あ、それ良い例えだね。そう考えるとわかりやすいかも。キャパオーバーになって紙が破けちゃう前に、しっかりと魔法紙も更新しましょうって感じ」


「へぇぇ」


「ユスティーナ王宮、どうやらサボってたらしいよ。自分たちに楯突く奴なんていないと思って胡坐かいてたのかな。一応、他国とのやりとりなんかはちゃんと更新してたらしいけど」


「更新しないとどうなるの?」


「ほつれが出るね」


「魔法紙に?」


「うーん…言い方が難しいんだけど、契約にほつれ…隙が出来るって感じ?」


「へぇぇ」


「雰囲気的にはスマホのバージョンアップとかと同じ感じかなぁ。あれってずっと放置しとくと、セキュリティが脆弱になったりするでしょ」


「私もそこそこはサボらないようにはしてたよ…うん…」


「パソコンだって10にしないと駄目ですよ~、とかあったよね、懐かしいなぁ」


「あったあった、ビ〇タとか!」


「僕は7から想定で言いましたけども…」


「似たようなもんだって…うん…」


「でもまぁ、厳密に言うと違うんだけど、そういう感じ。契約内容がきちんと更新されてないと、ハッカーが“守秘匿魔法契約の内容を、そのほつれから暴いてやるぜ!”なんて事が、出来ちゃうようになるらしいんだ」


「ハッカーみたいな人がいるの?」


「そりゃね、魔法紙の仕組みに詳しい人はいる訳ですから。僕は…もしかしたら、ギルドが王宮内で暗躍してた可能性もあるのかなーなんて」


「さすがアギーラったら思考が腹黒い。でもさ…それって魔法紙に詳しい人はみんな出来ちゃうんじゃないの?守秘匿魔法契約って、案外危険な気がしてきた」


「僕も色々と調べてみたけど、さすがにそんな事は、そんじょそこらの人じゃ絶対に出来ないから大丈夫。あと、内通者がいないと絶対に無理だね。魔法紙は、この世界のトップクラスの技術がつまってるから、相当な人物じゃないと不正は難しいと思うよ」


「そんじょそこらじゃない人の仕業かぁ」


「そうそう。それにさ、僕らが商売で結ぶ契約って信頼で成り立ってるじゃん。ほら、守秘匿魔法契約って、ほとんどがギルドかグー舎関係か、信用第一の商売人同士で使う物だし…まぁ、5人以上で契約する事なんて、稀だし」


「そんじょそこらじゃないギルドの仕業かぁ」


「やっぱ、結論はそうなるかなと」


 ◇◇◇


 最近のこの異世界、どんどん変化してってんの。

 ユスティーナ国を皮切りに、他の国も王族制、貴族制の廃止なんかが決まっちゃって。世の中、上へ下への大騒ぎだもん。


 これまでの瘴気への対策不足とか、特権制度への批判とか…そういう話がもう光の速さ並みの速度で日々、世界中に巡り巡って、どんどん各国で特権階級制度への反感が噴出したらしいよ。

 これって絶対、ギルドが何か仕組んだんだ…恐い恐い。


 でも、なんてったってユスティーナ国がギルドに秒で陥落されたことが、この一連の…異世界大騒ぎの決め手であることには間違いないけど。

 ってこれも、結局はギルドネタじゃん…ひぃ、恐い恐い。


 こんなに急激に変化したら世界が機能しなくなるんじゃないの?なーんて他人事ながら思ってたらさ、そこもギルドがしっかり舵取りしてたよ。

 一時的にギルドが(まつりごと)を代行して、新しい国家の礎を築く事になったらしいってんだから…ひぃぃ、恐い恐い。


 いずれは民主主義へとシフトするんだって話よ~。

 民主主義なんて言葉、急にどっから出てきたんや…って思うでしょ?実はこれ、例の転生者、トイレ紙準男爵ことロイドさんこと田中正さんの一計なんだって。


 田中さんの民主主義国家樹立のシュミレーションを元に、歴代のギルド総長が練りに練り上げた世界改革が、今後、この世界では実施されていく事になるらしい。田中さん、案外策士だったんだな~。そして、各国は昔っから残念だったんだな~。


 貴族達やら、今まで貴族達に取り入ってた周りの人達は急な方向転換に大わらわだろうけど、私達庶民はせいぜい噂話を面白おかしく聞いたり垂れ流したりするくらいで、今のところ実際の生活は何も変わらない。


 変わったことと言えば、ユスティーナ国内の海塩の価格が、他の国と同じになったことくらいだもんね。

 あ、違うわ。もう一つあるっちゃある。


 私に関わる事で言ったら…バルハルト辺境伯がいの一番に貴族籍を抜けて、とっとと警備の仕事を始めたの。


 その拠点が問題でさぁ…ヌクミーズ村と村から一番近いマッソの村との中間あたり。要するにヌクミーズ村のお隣さんになったのよ。なんでそんな辺鄙な所が拠点やねん…。


 私の周りの事件はそれくらいなもんだけど、世間は違うわよ。なんせ新生国家誕生の始めの一歩!だからね。

 新しいみんなの世界、新しいみんなの国、新しいみんなの政治、とかなんとかスローガンまで作っちゃって大騒ぎしてるもん。

 

 今までとは違って、ちくいち情報が開示されるから、生活は変わらないとはいえ、時代の変動を肌で感じられる訳で…こういうのも悪くないよね、ってのが巷の評よ。


 ちなみに…私の住んでる泉の土地に関しては、ジネヴィラ国の頭がすげ変わっても、永久的な使用許可がちゃんと貰えてるんだ。これはビーナスさんからバディバードで連絡が来たから間違いないもんねー!


 政治やらなんやらには全く興味もないし、ここに住めるならどうでも良いや。まったりとチョコを齧りながらコーヒーを飲めるような…最高のスローライフを手に入れる事を夢見て、異世界の動乱を高みの見物中なんだ。


 泉の水と自家製魔素水で育ててる薬草はすっごく評判が良いし、最近じゃ、薬草じゃなくって、日々のお楽しみになるような…煮出すと綺麗な色になるお茶葉なんかも出荷するようになってね。そっちも評判は上々。


 このままいけば、思い描いていた以上のスローライフエンドを、思い描いていた以上のハイスピードで、手に入れる事ができるかも…ぐふ、ぐふふ。

 

 なんやかんや色々あったけどさ、このままゆっくり穏やか~に、異世界スローライフを満喫していける気がしてきたよ。

 

 たまにツガイコウモリに乗って、町に納品に行くついでにお買い物を楽しんだりできるから、引きこもりって訳でもないし、もちろんミネラリアの孤児院へもこっそりではあるけど、里帰り出来てるし…。


 そりゃぁ出来れば成人するまでは、孤児院でみんなと一緒に過ごしたかったって気持ちは、未だにあるけどさ。

 でも、私がこの動乱の一端を担ったのは確かだし、一部の貴族の人に、もしかしたらとっても恨まれてる可能性だってある。

 だから…もう、孤児院に戻る事は諦めたんだ。


 でも、それ事以外の事は、なーんも言う事なし。

 文句なんて言ってたら罰があたるってもんだよね?

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