最初はグー!
ソウさんに孤児院へ様子を見に行ってみたいと伝えれば、すぐに賛成してくれたから、速攻でミネラリアへと行く事になった私達。
ってな事で本日は、ミネラリアの孤児院へ里帰りの巻でございます。
そんなに時間は経ってない筈なんだけどさぁ…すごく久しぶりな気がする。言うなればもう、既に孤児院に郷愁を感じちゃってるレベルよ。
今日は孤児院にお泊りさせてもらう事になってるから、時間も気にせずに、みんなとお喋りができてとっても嬉しいな。あーぁ、こんな変な事が絡まなきゃ、もっと楽しかったのに。
それに…本当だったら成人するまでここでこうやって、みんなと普通に暮らせてたはずなんだよね。
でもさ、どこぞの誰かに目を付けられるような事をしでかした過去は変えられないし、何度過去に戻ったとしても、私は懲りずにきっと同じ事をするタイプ。
だからさ…これで良いんだ。たまにお菓子なんかを持って、こうやって立ち寄れる…自分のホームグラウンドだと思える場所が、この異世界にあるってだけでも、十分に幸せだと思わなきゃいかんよ、自分。
院長先生達の話によると、あれから孤児院には侵入者はなく、もちろん部屋を荒らされるなんて事もなかったらしい。
極めて平和だとは言うけれど、念のため、本日のお泊り部屋は一人部屋にしてもらったんだ。
まぁそりゃ少し寂しいけどさ…これも仕方のない事よ。
みんなにおやすみを言って暫く、ソウさんが小さな姿で飛んで来た。パケパ芋ノスケミンッチーチョも一緒にね。
ちなみにアギーラも只今、里帰り中。シーラさん達に会いに行ってるからね、今日は別行動だよ。
さてと…そろそろかな。
時刻は…夜中二時過ぎ。ステルスマントをきっちり羽織って、みんなと一緒に孤児院の中庭へ出て…からの~、浮遊!
クロノスケと、飛べるけど飛ぶのがあんまり上手じゃないっぽいツッチーをナップサックに入れて、孤児院を上空から眺め…
◇◇◇
「ミネラリアの町もね…キラキラしてたよ。孤児院からも…たくさん、たくさん出てたの…」
「そうか…」
「なぁガイア、どう思う?俺はさぁ、もう…俺達の手に負える話じゃない気しかしないんだけど」
結局、みんなと話し合った結果、ギルドへ相談してみようって事になったんだ。
私の能力がバレちゃう事になるんだけどさ…もう、そんな事言ってられない気がする。
それにさぁ…もうね、ほんとにがっくりしちゃったんだよ、私。
孤児院から出てたキラキラのあの量…成人してない子供達からも相当量、盗んでるって事じゃん。
体がまだ出来上がってない発育途中の子供達からも、勝手に魔力を盗んでるって…これはもう、絶対にダメなやつでしょ…。
だからもう…仕方ないのよ。
色々と恐いだのフィクサーだのって冗談みたいに言ってたけどさ、この異世界でなにかしらアクションを起こせるとしたら…ギルドしかないと思うから。
私達が解決するには話がデカすぎるし、なんせ相手は…恐らく…国。ユスティーナ国。
いくら転生者だからって、周りの奴らにチート臭がそこはかとなく漂ってるからって…数人で一国相手に立ち回るなんてこと、さすがに出来ないもん。
ま、この話を信じるも信じないも手を打つも打たないも…ここから先は全てギルドに任せようと思うんだ。
私はほら、異世界でスローライフエンド狙いの…ただのしがない子供なんだからさ…
◇◇◇
「はじめまして、私がギルド総長のビーナスです。今日、ここでお話を聞くのは、現ギルド総長である私ひとりだけ。もちろん守秘匿魔法契約もしますし、どんな秘密であろうと他の人に漏らす事は一切…」
ずいぶんと若い女性がギルド総長だった事に関しては、今回はさておくとして…。
巷じゃ、Sランク冒険者のガイアさんとAランクのソウさんが、揃ってワンランクUPするとかしないとか噂されてる今日この頃。
そんな注目度MAXのお二人と、薬師会でも信頼と実績と、そのすべてがお高いグリンデルさんがスピーディに動いてくれたお陰で、すぐに現ギルド総長であらせられるビーナスさんとやらと、早々に面会する事に相成った訳でございます。
ビーナスさんは私やアギーラが諸々発明した件も知っていてくれて「是非一度会ってみたかったの」、なーんて言ってくれるとっても素敵な人だったよ。
なんか知らんけど、あとでいっぱい珍しいものをくれるって言ってるし、サルエルパンツを愛好してるって話で、現に今日も履いてくれてるし…うんうん、ビーナスさんってば絶対に良い人に違いないね!
おい、聞こえたぞ。チョロいって言うな…
◇◇◇
町のキラキラの件、街灯の件、王宮に運ばれていった魔力の事、子供達からもどうやら魔力を…今までに起こった、全てのキラキラ関連事象を話し終える。
ビーナスさんからまず一言、あとはギルドに任せて欲しいと言われて、そこは思いっきりアギーラと共に力強く肯いた。
アギーラはね、一緒に来てくれたんだよ。来てくれただけじゃなくって、自分も“見えてる”って…一緒に証言者になってくれたの。
これから先の人生で、もしかしたら今日の事を後悔する事になるかもしれないのにさ。
クリームパン…一生分、獲得やで…。
「二人共…よくぞ話してくれました。実は昔から…色々とやらかす国ではあったらしいのだけれど…ここ十年程、ユスティーナがまた何やらよからぬ事を画策してるんじゃないかって…私達も掴んではいたのよ。ただ確固たる…いえ…今の話で、ようやく私達もようやく動けるようになるかもしれない」
私達もようやく動ける…よ・う・や・く?
何かするつもりがそもそもあったみたいなビーナスさんの言い方に、アギーラとおもわず目線を交わす。
そもそも、こんな私達以外が見えてないだろう魔力の話なんて、荒唐無稽すぎて…普通はまともに聞いてもらえないんじゃないかって、実は九割くらい思ってたんだけどさ…どうやらギルドにはギルドで何かしらのネタはあるみたいで…やっぱ恐いわ、ギルドって…
「うふふ、私達にだって色々とあるのよ。まだ抽象的にしか話せないのだけれど…これだけは言っておくわ。これから先に起こるだろう事は、決してあなた達のせいじゃない。だから…何があっても絶対に気に病んだりしない事。二人共、良いわね?」
長い長い面会もそろそろ終わろうかという時、ビーナスさんが鍵のかかった戸棚から、沢山の荷物を取り出して、テーブルの上にわんさかと乗せてきた。
「今日のお礼と言ってはなんですけれど…これを差し上げようかと思って。珍しい物もたくさんありますからね…ほら、じゃんけんでもして順番に選びなさいな。最初はグー!じゃんけん…」
「よしっ、勝ったぁぁ!」
「あ…あ、あぁぁ」
私が勝利の雄叫びを揚げた瞬間、チョキのポーズのまま頭を抱えて、アギーラが床にうずくまってしまった。
へっへっへ、アギーラ君よ。そんなに私に負けた事が悔しかったのかい?
頭を抱えるアギーラの姿に、未だ何も気付かないワタクシ。
さて、皆さんはお気付きでしょうか?
グー舎があるから勘違いしちゃうけど…そう、この世界には、じゃんけんなんてものは存在していないという事に。
アギーラから遅れる事数秒、やっとその事に気がついた私も、もちろん頭を抱えたけどさ、時すでに遅し…
「ごめんなさいね、だまし討ちなんてまねをして。お詫びに…是非見てもらいたいものがあるの。これなんだけれど…あなた達には読めるんじゃなくって?」
ギルド総長、ビーナスさんから渡された一冊の書物、そこにはこの世界の言語の他に…とっても懐かしい文字が綴られている。
見まごう事なきそれは日本語だった。
ひゅうっとアギーラの喉が鳴る。
いや、もしかしたら私の喉から出た音かも知れないけど、自分の心臓の音がうるさすぎて…もう、よくわからない。
アギーラは日本語を見てもこの世界の言葉を見ても、同じように見えるって言ってたけど…これが日本語で書かれてるって、どうやら一瞬にしてわかったみたいだよ。
じゃんけんでやらかした事も、ビーナスさんの存在も忘れ…アギーラと二人、目の前の書物を食い入るように見入る。
深呼吸を何度も何度も繰り返し…ビーナスさんに促されるままに、そっとページをめくった。
誤字報告、ありがとうございます!




