まぁ、暇つぶしになったから許してや…
「出たね」
「うん、出たねぇ」
「ぴこんだね」
「うん、葉っぱだねぇ」
「ね、これってさぁ…私のせいだったりは…しないよね?」
「可能性は高…いや、ベルのせいに一票」
「ぅおい、これはアギーラも共犯やぞ!」
クロノスケの頭に生えた精霊の祈り木。
ソウさんにクロノスケから貰った落ち葉を渡してしばらく、木は生えたままだけど、葉っぱは出てなかったんだよ。
でも今…
<あー!葉っぱが!!また、葉っぱが出ているのです!!!>
「ツッチー…そうなの、また葉っぱが出たんだよ」
<凄いのです凄いのです!こんなにもハイペースで葉っぱが…>
「ねぇねぇ、ツッチーさんよぉ…葉っぱが出てくることで、クロノスケの体に負荷がかかったりしちゃう可能性があったりするのかなぁ…?」
返答によっちゃ、それは私のせいではないかという、罪悪感にもの凄く苛まれる事になるから…慎重に答えてくれたまえよ…
<それはないのです!なぜならば…これは…これは…精霊の祈り木の意思だからなのです!!>
「え…まじで?」
ツッチー…めっちゃドヤ顔のとこ申し訳ないけどさぁ…これって、どちらかと言えば、精霊の祈り木の意思と言うより、風谷銀之丞と風谷花っていう日本の作詞作曲家の意思って感じが、って…あれ?
「なんかこれ…変じゃない?地球から作詞作曲家が干渉してるとかって、そもそも…いや、この人達は、もう亡くなっちゃってたんだから、曲自体がこの異世界に干渉してるって事になって…あれ?」
「うーん。それはどうだかわかんないけど…少なくとも、白玉さんの両親が作詞作曲したその曲を口ずさむと、クロノスケがぴこん…って事?」
「そんな気がするって思ってたところ、まさに立証されちゃったって感じがしないでもない気がするというか…頭の中がこんがらがってきた…」
「他の人の曲はどうなの?」
「一人でいる時にたま~に歌った事はあるけど…特に何か起こったという認識はないかなぁ」
「ふぅん…あっ!」
「あっ?」
「風谷夫婦の作詞作曲した…別の曲を歌ってみたらどうだろう」
◇◇◇
作詞作曲がどこぞの誰がしただなんて…私はそこまで意識して音楽を聴いたりするタイプじゃなかったもん。好きだったバンドの曲とかなら多少は知ってるけど…普通はそんなもんでしょ?
…そうだよね、うん…みんなもそうに違いない。
「うーん、すっごい有名な作詞作曲家だって事は存じてますけどね…急に別の曲って言われても、すぐには思い出せないという現実が今ここに」
「僕も同じく…いや、待てよ。一つだけ思い出した。しかも…完全に覚えてるやつ」
「本当に!?私も知ってる?」
「絶対知らないと思う。何故ならば、それは僕の母校の校歌だから」
「あー。そういえば昔、そんな話を聞いた気が」
「校歌を僕が教えるから…ちょっと歌ってみなよ。面白そうだし…」
「確かに。ヤバそうだったら歌わなきゃいいんだしね」
「そうそう」
「そうそう」
ぐふふ、私に暇を与えた罪は重いのだよ。
暇つぶし作戦、開始~!
「それにしてもアギーラって凄いね。私、高校の校歌なんて全く覚えてないんだけども」
「え、そうなの?」
「校歌なんて現役でも覚えてる子、いないと思うなー。私調べだけど…」
「毎週朝礼で校歌を歌うタイプの学校だったからかな。さすがに毎週聞いてりゃ覚えちゃうもんでしょ」
「そ、そーなんだ…」
私の記憶が確かなら、うちの母校も毎週毎週、校歌を歌うタイプだった気が。ちーん…
◇◇◇
タンデムの貸家で、ガイアさんの所へ行っているソウさんの戻りを待つ間、暇つぶしでアギーラが通っていた高校の校歌を教わる私。
「練習中は何も起こらなかったね」
「風谷夫婦の作詞作曲した曲が、この世界の何かに共鳴してるのかなぁって思ったんだけど…違ったのかなぁ…」
「そもそも共鳴ってなんやねん。って気がしないでもないけど」
「だってさぁ…そう考えた方がしっくりくるんだって。ちゃんと歌ってみようという気持ちで歌うのが大事なのかもしれないよ。ほらほら、早くフルコーラスで歌ってみて。はい、どうぞ~」
「そうかなぁ…これまでも、ちゃんと歌ってみよう!なんて思って歌った事は一度もないけども…こほん。では…在学した事も、見た事もない高校の校歌をちゃんと歌います!」
◇◇◇
「♪ひばりの空に尊けき~♪友と並びし学び舎は~…♪」
これはアギーラの母校、緑園雅高校の校歌。
歌っているのは、その高校に何のご縁もないワタクシでございますよ~。
「…♪希望の光 英知の証♪あぁ~緑園雅~緑園雅高校~♪」
はい、終了!
――‥‥‥
やっぱ何にもおこらないか。
つまんないの。
まぁ、暇つぶしになったから許してや…
――ガタガタガタガタ
前言撤回。
地面が…揺れてるよ!
――ゴゴゴゴゴ…
「うわ、地震じゃん!この音は…なに!?地響き?」
「わかんないよ~。ひぃぃ、凄い音」
パケパ芋ノスケミンッチーチョと部屋の中で飛び回っていたミニミニマッチョ妖精が、一斉に私に向かって突進してくる。みんなを抱きかかえ…鎧戸の隙間からそっと外を覗く。
「こんな音、今までに聞いた事がないんだけど…」
――メリッ、メリメリメリ
「あ…あれ、精霊の祈り木じゃない!?」
――バキッ、バリバリバリ
「うわっ!木が…なんで?なんで空に浮かんでるの!?」
「そんな事、わかんないよ…あの根っこの部分…見て」
「あれは…卵?木の卵…えっと、木って卵を産むんだっけか…」
「産むわけないでしょっ!あれは金属かなぁ…根っこに絡まってるみたいだ…」
タンデムから見える王都上空、一本の巨木がゆっくりと浮かび上がっていく。
――ドッゴーーーーン
あまりに非現実的な目の前の景色をポカーンと見ていると、やがて巨木の根っこに絡まっているように見えていた、金属っぽい卵型の物体が、エリーゼ湖の上に落下していった。
盛大な水しぶきを呆然と見つめる私達。
「えーっと…これは…さすがに私とは関係ないよね…」
「それはなんとも…とにかく、エリーゼ湖に行ってみよう」
急いでエリーゼ湖に向かう。
タンデムで貸りている家は、エリーゼ湖が見える優雅な立地。貸家から一歩踏み出せば、もう目の前は湖。
そこにはすでに人だかりができていて、その人だかりが一様に、同じく首をひねって立ち尽くしていた。
「でっけぇ卵みたいだな」
「あんなもん見た事ないぜ」
町の人たちが不安そうな目で見つめるその先には、エリーゼ湖に鎮座している、つるんとした卵型の銀色の巨大な物体。
「おい!…木、木が…行っちまうぞ…」
そんな声につられて空を見れば、空中に浮いていた巨木が、さらなる上空へと消えていくところだった。
凄いよ凄いよ、どんどん遠くに行っちゃうよ。
「あれってさ…精霊の祈り木で間違いないの?」
「うん…ほら、見て。見えてる人と見えてない人がいるでしょ?」
周りの人々の様子を探ると、確かに空飛ぶ木が見える見えないでもひと騒ぎおこっている。
えっと…精霊の祈り木って、どっかに行っちゃう…移動式なの?
シンボルツリー的なやつだって話じゃなかったっけ?
この世界の始まりに、大陸の中心に植えたとかなんとか…孤児院でも初期学校でも教わった気がするんだけど…。
やがて上空にあった精霊の祈り木が、完全に見えなくなってしまうと、自然とみんなの目はまた湖へと引き戻される。
エリーゼ湖にデーンと現れた卵型の物体。こちらはどこへ消えるでもなく居座ったままだった。
町のみんなが「あんなもの、見た事がない」とかなんとか言って大騒ぎしてるんだから、メジャーなものじゃないのは確かだよ。
「あ…鑑定。ベル、鑑定してみてよ!」




