「あた…ギャッ」
アギーラと尾行を始めようとしたその時、いつの間にやらマッチョブラザーズの元に、ミニミニマッチョ妖精軍団がわらわらと…わ、めっちゃ集まってきた!
<みんなで手伝うんだぜぃ!>
「え、尾行を手伝ってくれるの?」
ビシッと親指をたてるマッチョブラザーズ。その小さな親指の先を見ると、ミニミニマッチョ妖精軍団が、四体一組でぴょこぴょこと矢印らしき形を作り始めていた。その矢印で居場所を伝えてくれるって?なんだ、その便利機能は。
お、こっちはこっちで魔石回収をしてる作業員の頭の上に、トルネード型でうじゃうじゃと群がってるじゃないのさ。
空を見上げれば作業員がどこにいるか一目でわかる仕組み?一体そんな芸当、どこで教わったんや…。
作業員に一切近づくことなく、初めての尾行は続く。途中でクロノスケ達が連れてきてくれたソウさんとも無事合流できたし、もう恐いもんなしやで!
「なぁ…この尾行に俺は必要なのか?」
矢印状に連なるミニミニマッチョ妖精軍団を見ながらソウさんが呟いた。
無事に成人男性の姿に戻ったソウさんだけど、精霊も妖精も見えるままだったの。
パ芋ミンッチーチョやミニミニマッチョ妖精軍団さん達がくっきり見えて、且つ、お話もできちゃうという、かなりのレアキャラ状態。
やっぱ、おチート野郎様は出来が違うねぇ。
「そこはまぁ…護衛って事で」
「俺が居なくてもなんとでもなるだろ…」
「私とアギーラじゃ、戦闘力ゼロ。いや、むしろマイナスかもだから」
「お芋ちゃん達がいるじゃねぇか」
「そこはまぁ…人型の保護者って事で」
そんな会話をしつつ、ミニミニマッチョ妖精軍団が作り出す矢印を目印に、ゆっくりと歩みを進めた。
作業員は尾行…というか、ミニミニマッチョ妖精軍団に一切気付くそぶりを見せず、ひたすら魔石を取り換える作業を続けている。そして、いくつかの街灯を回ったのちに、とある建物へと消えていった。
その人影をしっかと見送ったのはもちろん私達尾行軍団。
「街灯に何かあるにしろ、作業してる人は無関係っぽいし、変な場所にはいかないとは思ったけど…」
「すんごく普通の民家っぽい」
アギーラと私が話をしている間にも、ソウさんが裏口の有無とか、建物側からの視界の確認とか…せわしなく民家とその周囲の様子をチェックしてくれる。
建物側から外を見張られてる可能性もあるかもだってよ!相手がかなりの悪の組織だって脳内設定になっちゃってるもんだから、そんな事言われると妙に気分が盛り上がっちゃうよね~。
「向こうから監視されてる気配はなし。入口はそこの一か所だけで裏口もない。一か所だけだから、交代で見張ればいいさ。どこかにあのブツが運び出されるのを待つだけだからな」
◇◇◇
えーっと、残念なお知らせがございます。
今度こそはとせっかく張り切ってたのに、アギーラと私はミッション要員から除外されてしまいました…。
子供がずっと民家の周りをプラプラしてたら目立つからダメだってさ。
アギーラは大人でしょ、って?いやいや、アギーラは見た目がやけに可愛いからね…アイツ、妙に目立つのよ。
普段の買い物やら逃亡中の検問なんかでは、みんながチヤホヤ親切にしてくれてありがたいって話だったけど、正直、こういうミッションには不向き中の不向きなの。
「ねぇ…ここ、すんごく見覚えがあるんですけど」
「さすがにこれ以上は追えないな」
「帰ろっか」
「そだね…」
「ここから先は…ガイアに相談しよう」
結局、ミッションの実働部隊は、尾行に引き続き、ミニミニマッチョ妖精軍団が引き受けてくれた訳なんだけど…その彼らが現在たむろしてる場所が問題なのよ。
なんせそこは…王宮に繋がる門のど真ん前でーすーかーらー!
街灯が国策だってのは知ってたからさ、可能性はあるかと思っちゃいたけど…まんま王宮に行くとは、むしろ驚愕に値するね…
「せめて、“頑張ってめっちゃ調べたら実は王家関連の施設だった!さぁ、どうする!?”とかさぁ…そういうのが尾行の醍醐味ってもんだと思うんだけど」
「うーん…誰かに疑問に持たれるって意識がそもそも薄いんじゃないかな。ステルス機能もずいぶんしょぼかったし…」
「あっさりと、この国で一番詮索出来なさそうな場所に運び込まれちゃったじゃん」
「まぁね。ほら…なんちゃってクリームパン作るんでしょ?僕も食べたいから早く作ってよ」
「期待されても、カスタードはほぼプリンだからね…。でもさぁ、よく考えたら私ってヌクミーズ村に戻っちゃっても良くない?」
「えー!この展開、気にならないの?」
「そりゃぁ気にはなるけど、これってもう確実にユスティーナ国か王家絡みじゃん。余計な事に首突っ込んで、自分の首を絞める事はしたくないっていうか…ねぇ…」
◇◇◇
ヌクミーズ村に戻りたーい帰りたーい。と、ブウたれながらも、ガイアさんに相談してからって事で…暫くタンデムでの借家住まいを決め込みましたよ。
リブロさんが手配してくれたこの貸家はね、エリーゼ湖が一望出来て、すっごく景観が良いの。バカンスだと思えば全然悪くない。だけどさぁ…
「湖は綺麗だけど…暇。あーぁ、暇暇暇、暇だよ~」
貧乏性はバカンス楽しめないとか言うなよな!
やりたい事だって山ほどあるんだけど、ヌクミーズ村で腰据えて、じっくりと色々やりたいんだもん。
それにさ…私的にはこんな国、母国感ゼロだし…むしろ、王都に近い分、とっても心休まらない。
「まぁまぁ、そう言わずに。クリームパンうんまーぃ!」
「菓子パンって、この世界にはないもんね。ヌクミーズ村に帰ったら総菜パンも作ってみようかなって思って…あ、そう言えば私ね、ずっと歌の事を考えてたんだけども」
「でたよ、唐突な話題変換。歌って…吟遊の事?」
「うん。ほら、例のアニソンを歌ったらさぁ、ガイアさんに日本語を聞かれちゃったでしょ?」
「変な言葉が重なって聞こえたって…ガイアさん、言ってたよね」
「そうそう。でね、色々と考えたんだわ…」
「怖っ」
「まだなんも言ってない」
「最初に釘を刺しとこうと」
「いやいや、これは大丈夫だから。まじでまじで」
「嫌な予感しかしないけど…何考えてんのさ」
「クロノスケのね」
「でたよ、話の飛躍」
「飛躍してないって。クロノスケの頭の上にはさぁ…精霊の祈り木が生えてるでしょ?」
「うん…?」
「あの時…歌をうたったじゃん」
「あー…筋肉戦隊バルハルトだっけ?」
「ううん、違うやつ。ほら、アギーラが宿屋でゲーム音楽が頭から離れないって言ってた時の話…覚えてる?」
「コネクティングルームに泊った時の」
「そうそう。あれでさ、私もがっつりアギーラから鼻歌感染しちゃって…ずーっとゲーム音楽が脳内リプレイされててね。そのうち、歌が野球チームの応援歌になって…」
「野球?」
「あー、その作詞作曲がアギーラの大好きな白玉さんの…」
この異世界に転生する直前まで見ていたスマホ。
とある有名な作詞作曲家夫婦の…スマホに出ていた情報を思い出す。
「あー、白玉さんの両親の…」
「そうそう。白玉さんから派生して、そのご両親夫婦が作ったブラックウルフの応援歌をね。♪おおお ブラックウルフ ブラックウルフ♪ってやつ。知ってる?」
「サビは聞いた事あるけど、全部は知らないなぁ。ファンだったの?」
「ファンじゃないけどさ。近くのスーパーが協賛だかなんだかで、ずーっとエンドレス店内放送してたもんで…」
「優勝するとセールしちゃうお店的な?」
「それそれ。私のようなスーパーマーケットユーザーが、がっつり洗脳されるというパターン」
「あー」
「あの時さぁ…真夜中に眠れなくって…おーぃ、クロノスケ~ちょっとこっちにおいで~!…よいしょと。…こうやってさ、クロノスケを抱っこしてもふりながら歌ったの。♪我らが女神 星々の瞬き~♪今こそ誇る 証を見せよ♪誰もが欲する 熱き血潮を この胸に~♪ってね」
――もふもふもふもふ
いや~、やっぱもふもふはサイコーっすね。
こうやって歌いながらクロノスケを抱っこして、もしゃもしゃってしててさ。そしたら、朝になってクロノスケの頭にピコン大事件が…
「ベル!」
ガイアさんから別の言葉らしきものが聞こえたって言われて思い出したのよ。あの時…私の中では確かに日本語が存在してた。
それが例の如くで…ちょい漏れしてたんじゃないのかなって思って…。
アギーラはね、日本語で話すと、この世界の言葉に勝手に変換されてる感じらしいの。異世界転移ボーナスだって本人は言ってるけど…。まぁ、言語っていうスキルも持ってるって話だけど、結局のとこはチートでしょ、チート。
でもさ、私のは違うから。ほら、この異世界で一歳児からがっつりやり直してるじゃん。だから…バイリンガル状態っていうか…。
普段のお喋りなら、日本語で変換したものを異世界語に訳して…なんて、まどろっこしい事にはならない。むしろそのまま脳からダイレクトに異世界語が出てくる感じ。
もう日本語を話す事もないから、異世界語が第一言語になっちゃってるのかもしれないけど。
でもね、歌は…なんか違うの。上手く説明できないけど、異世界語で歌詞を言ったとしても、脳内ががっつり日本語って言うのか…英単語なんかも混じるから、要するに地球語でね…
「べ、ベル!」
あの野球チームの応援歌は、風間銀之丞と風間花夫婦とやらの作詞作曲で…あの筋肉戦隊バルハルトのアニソンだって同じ人が作った訳でしょ?…何が言いたいかって言うと…うーんうーん…
「ベルってば!!」
「うーんうー…なんすか?」
「ク、クロノスケの!あ、あたま!!」
クロノスケの…
「あた…ギャッ」




