いやそれ、逆に絶対目立つやつ
街灯の魔石を交換してる作業員を探せ計画~!
え?どうやって探すのかって…そりゃぁもちろん誰かに聞く訳にもいかず、いや、誰に聞けばいいのかもわからず…町中の街灯をひたすら見張って、作業員を見つけて尾行するのが手っ取り早いよねって事になりましたけど。地味ですが、何か?
さてさて、そんなミッションのメンバーは、アギーラとソウさん、そして私とパケパ芋ノスケミンッチーチョでお送りしまーす!
今朝ね、ソウさんと一緒にヌクミーズ村に一旦戻って、村の様子を見てきたんだけど…バルハルト辺境伯から手配されたらしいツガイコウモリの関係者がいっぱいでさ。
パケパ芋ノスケミンッチーチョがつまらなそうにしてたから、一緒に連れてきちゃったのよ。ミニミニマッチョ妖精軍団も、30マッチョくらいが常時ふらふらと上空からついてくるし…もうね、かなりの大所帯よ。
ヌクミーズ村にはツガイコウモリのお世話をしてくれる人や、乗り方をレクチャーしてくれるバットマン、万が一の時の為にって辺境警備隊の人まで来てくれてたんだもん。
ツガイコウモリが新しい環境に馴染めるまでって…万が一暴走したら大変でしょ?だからね、筋肉自慢の辺境警備隊がうろうろしてたよ。今やヌクミーズ村、対人対策としては、とんでもなく安全地帯になってるの。
だからパケパ芋ノスケミンッチーチョもお役御免でさ…こっちは一気ににぎやかになったけど…別れもある。
そう、グリンデルさんとは今日でお別れ。残念だけど薬局も心配だろうし、寂しいけど仕方がないよね。あとはガイアさんも。
ガイアさんがグリンデルさんの護衛として付き添って、一緒にミネラリアへ帰る事になってるから…ここで二人とは一旦お別れ。
私のせいでガイアさん、ずいぶんと帰宅が遅れちゃったよなぁ…。愛息ライアン君も、さぞ父親であるガイアさんのお顔を忘れている事でしょうよ。いやほんっとに申し訳ない。
「何言ってるんだ!ベルのお陰でこんなに早く帰れるんだぜ。感謝こそすれ…」とか言ってさ、ガイアさんは私に気を使わせないようにしてくれてるけど…瘴気の終焉時期なんてわかるもんじゃないじゃん。あの次の日に普通に終わってた、なーんて可能性もあるもんね。
申し訳ないなぁ…そうだ!せめてものお詫びに、シーラさんとライアン君にお土産をたくさん持ち帰ってもらおう。
色んな町での買い物三昧の成果を、ガイアさんのマジックバッグにポイポイと…もちろん海塩も。そうだ、あいつも入れとこう、ワニ肉。ワニ肉のカツレツをたくさん作ってみたのよ~。ワタクシ特製のベルジナルソースも入れとこう…。
あとは、お手製知育おもちゃと編み物色々。肌触りの良い布で作った子供服と親子コーデシャツ。あ、あとはグリンデルさんにもお土産を…これね、割烹着なの。絶対グリンデルさんに似合うと思って…これもガイアさんのマジックバッグに入れて…そうそう、大事な事忘れてた!コーヒーとカカオの実をグリンデルさんに少し持ち帰ってもらうって話になってたんだわ。
グリンデルさんが、海魚の料理が懐かしいってすっごく喜んでくれたから、魚料理もたっぷり入れとこう…あ、めっちゃガイアさんがこっちをガン見しとる…。
はいはい、もちろんガイアさんの分も入れときますよ…魚のフライでしょ?わかってますって…
◇◇◇
「宿で宿泊しながら、ずっと街灯を見張るって…この世界の宿屋でやるには、ちょっと難易度が高い気がする」
ぼんやり町中に立ち尽くすのには限界がある。
街灯が見える宿屋に泊まって、鎧戸の隙間から様子をうかがう作戦が無難だと思ったんだけど…。
「宿屋のご主人に怪しまれると思う?」
「うん。ずっと部屋に居るってのはちょっと…宿屋で何泊も何もせず、優雅に引きこもる人なんて、この世界にはいないもん。旅行とか避暑地なんていう優雅な概念は、貴族くらいにしかなさそうだし…怪しい奴らだと思われて、追い出されそう」
「うーん。ソウさんの人気にあやかって…ってのは、まずいかなぁ」
「そうだ!リブロさんに相談してみよっか?」
と、いう訳で、タンデムで魔石生産人をしているリブロさんが、即日、短期契約で賃貸住宅を借りてくれました~!
「家ってさ…こんなに簡単に借りられるものなの?」
「さすがにここまで早いのは、リブロさんの信用度がものを言ってるだろうね。でもダンジョンが近くにできると、冒険者達が仲間と一軒、家をまるっと借りたりするらしいから、短期での貸し借りノウハウがきちんとあるんだって話だよ。ちなみに…聞いて納得、この短期貸家システムもどうやらギルドが考案したらしい」
出た出た、またギルドだよ…
◇◇◇
「アギーラ君、我らはアンパンと牛乳とトレンチコートを用意した方が良いのではないでしょうか」
「古っ!」
アンパンは現状難しいから、クリームパンだけどな!なぞ、己の張り込みイメージを熱く語りながらもミッション開始!!
とは言っても、借りたお家の二階から街灯を見るだけ。トレンチよりもイメージ的には、時代劇で宿屋の二階から通りを見張ってる岡っ引きって感じ。
民家と民家の隙間から見張る訳じゃないから楽だわ~。
ちゃんと街灯が目の前にあるお家を借りたからね、みんなで順番にミッション遂行ができるしさぁ…パケパ芋ノスケミンッチーチョがいるから人員は少々、いや、かなり過多になっちゃってるよ。
あまりに暇なもんで、二週間目が過ぎる頃には、ソウさんは冒険者としてギルドのクエストを受けたりし始め、アギーラも店舗を使ってモノづくりに励んでたりして…なんやかんやで普通の生活に落ち着いちゃっております。
いつも誰かが見張りをしててくれてるから、私も料理しまくったり、コーヒーの研究やらカカオからココアを作ろう計画の実現に向けて余念がない。
<ベル!誰か来たよ!!>
大量の玉ねぎをじっくり炒めてる時に、パトナの叫び声が聞こえてきた。
途中で中断したくない作業の時に限って事件は起こるんだ。人生なんてそんなもんさ。
「アギーラ、パトナが誰か来たって言ってる!」
アギーラに伝えると同時に、お芋ちゃんを背中に乗せたクロノスケが、ギルドのクエスト受注中で外出しているソウさんに、連絡を取るためにと走り出す。
クロノスケの鼻は便利なんだよ~。タンデム近郊くらいなら、すぐに目的地にたどり着く優れものなんだから。
「アギーラ、あれって魔石の交換をしてるんだよね」
「うん。でもあれ見てよ…交換してるのって街灯のヘッド部全部でしょ?今回限りって事じゃないなら、あんな交換方法はおかしい。作業的に大変だからね、魔石だけ交換するのが普通だと思うんだ」
「魔石を交換するだけなら、あんな…全とっかえする事は必要ないって事?」
「そうそう。でも、おかしいのはそれだけじゃなくって…あの作業してる人なんだけど、ステルス機能がついたものを身に着けてるみたいだ」
「えーっ!?思いっきり見えてるけど…アギーラはなんでそんな事がわかるの?」
「ただの勘…って言ったら信用してもらえなさそうだけど、たくさん自作した実績に基づいた勘ってやつ?」
「作りまくってたもんねぇ」
「僕さ、この世界に来たら視力がすごく回復してたんだよ。ずっと眼鏡族だったのに、今は裸眼でめっちゃクリアに見えてるくらいにはね。でも、自作のステルス製品を見ると、視界が独特な感じで…ブレたり霞んだりするんだ。それで色々試してたら、これは精度が低いとか作用が穏やかとか、そういうのが目視でわかるようになってさ。あれは興味のない人なら、作業員には意識がいかないかなってくらいの…」
「個人の私物…じゃぁ…ないよね?」
「たぶん。実は僕が作ったの以外…ステルス系製品なんて、町中で売ってるのを見た事がないんだ。王都でも見なかったし、シーラさんも見た事ないって言ってたから」
「みんなの気分が悪くなってバレバレなステルスがあったじゃん。ほら、ダットンさん達が幽閉されてた塔の…」
「うーん。あれはあれで、誰も近づかないようにしたかっただけだろうから、ステルス機能とはちょっと違うのかなって気もしてるんだ。今思えばさぁ、ツガイコウモリに真上を飛ばれないようにって考えられてたんだと思うんだ」
「そっか、上から見たらバットマン達が塔に気づくかもしれないもんね」
「そうそう。まぁ、その話はともかくとして…ステルス製品は、なかなかお目にかかる事はない代物だと思ってくれて良いかな」
「そんなものを作業員の人が身に着けてるのはおかしいって事かぁ。ステルス製品を身につけまくってる私が言うのも変だけど…」
「地球の知識ありきで僕が作ったものは別として…ちょっとどうかと思うんだよ。魔石の交換って、悪事を働いてる訳じゃないでしょ?それなのに、そんなもの身に着けてたら、逆に気になるっていうかさ…」
「あ…あれ見て!交換が終わったみたい」
「よし、ここから後をつけて…やばい、尾行って初めてなんだけど。すげぇ緊張してきた…」
「わかるわかる、めっちゃ緊張するよね~。あーぁ、やっぱ雰囲気大事だわ。トレンチコート、作っとけば良かったなぁ」
「いやそれ、逆に絶対目立つやつ。ほら…行くよ!」




