おいこら、私だって異世界人やぞ!
グリンって、最近どっかで聞いた事があったような…どこでだっけ?
うーん、うーん…
「村作りなんて、また随分と面白い事を始めたもんさねぇ」
「そうなんですよ!すっごい楽しくって、実は今ね…」
次はそっちの話だとばかりに、ヌクミーズ村の話をせがまれて、あっという間にグリンとはなんぞや?から、気が逸れる私。
グリンデルさんったら、ヌクミーズ村にものすっごく興味を示してくれちゃって…コーヒーやカカオの話にも食いつきまくり!
コーヒーとカカオ…これは私的最優先の研究対象だから、話す私もテンションマックス。
加工方法についての熱い議論を交わしちゃうもんね。
地球にもあった植物ではあるけれど、この世界で知識がある人の見解も大事だもん。もうね、絶対に飲みたいんだ…コーヒー。
私ってば、日に日にコーヒー飲みたい欲が強まってる。このままいくと、大人になってコーヒーがない場合、発狂してしまうかもしれん。だから…絶対に何とかしたい。
なまじっか原材料をゲットしちゃったのが、飲みたい欲に火をつけてしまった原因なのよ。
醤油だって喉から手が出るほど欲しいけど、素材も製造知識もゼロ…なんていう場合は諦めもつく。
でもコーヒーは…もう、諦められない。もちろんチョコもね。
いつの間にか私とグリンデルさん以外の全員が、とっくにお休みになってるけども、眠気ってなにそれ美味しいの?な
、私のマシンガントークが止まらない。
「あれ…二人共、まだ起きてたの?」
「アギーラ、ごめん。うるさかった?」
「ついつい年甲斐もなく騒いじまったよ。悪かったねぇ」
「ううん。僕はトイレに起きただけだから。そう言えば、王都のキラキラ…あの話は聞いてみた?」
「あー、その話もグリンデルさんにしたかったんですよ~!」
そこからはアギーラも加わって、王都の上空に漂っていた…恐らく魔素ではないかと思われるキラキラについての話になる。全部話し終えたところで、時刻は夜中の…もう二時じゃん!
「そのキラキラが見えたってベルが言ってたの…ちょうど今くらいの時間じゃなかった?」
◇◇◇
ガイアさんとソウさんを叩き起こすべし!
キラキラ話に盛り上がった私達、ぐっすりと眠っている二人を叩き起こして、王都の様子を一望できる場所へ行ってみようって事になりました。これぞ夜中の謎テンション!
「ソウさんはアギーラとグリンデルさんの護衛ね」
「なんでこんな真夜中に俺が…」
「まぁまぁガイアさん。そこは保護者って事で…いっちょお願いしまーす」
獣化したガイアさんは、とっても速く走ることができるから、二人でささっと行って、ささっと帰ってこようと思っ…
「って…あれ?」
「どうしたの?」
「王都を見に行くまでもなく…」
「行くまでもなく…?」
「たぶん…あれはタンデムの上空だと思うんだけど…」
◇◇◇
小屋のすぐ近くで浮遊の力を使って、縦方向にす~っと飛び上がる私。
ふっふっふ。かつては1cmプロだった私も、今やかなり高く飛び上がる事が出来るようになったのだよ。柿の木に必死だった頃が懐かしいぜ。
タンデムが一望できるところまで一気に飛び上がって…キラキラを眺める。
あれ?流動しているキラキラが…町中にある街灯に吸い込まれてるみたいに見えるんだけど…なんだ?なんで??
「ふむ…街灯にかい…。ミネラリアや他の町でも起こってるのかねぇ…」
「うーん、ジネヴラ国では途中で何度か確認して…結局、他では一度も見えなかったんだけど…。ミネラリアに関しては孤児院からじゃ町の様子は見えなかったし、そもそも、こんな夜中に町中を見た事すらなくて」
孤児院に居た時は、夜中の二時三時なんて…完全にがっつり眠ってたもんね。トイレにも起きないくらいに毎日ぐっすりだったし…。
「なぁ、そのキラキラが街灯に吸い込まれて見えるってのはおいといて、そのキラキラってのは、どこから湧いてるんだ?」
「私、まとまった魔素は見えるんだけど、分散してると見えないから…でも、もう一回見てくるね」
縦方向にぐんぐんと飛んで再度確認。
――ジロー
よーく見て。よーーく見て。よーーーく…
ん?一緒に俯瞰で飛んでくれていた半透明アギーラが横で何やら叫んでる…!?
(ベル…め、目が!)
…目?
自分の目を指さして、アギーラに問う。
(左目だけ、すっごい光ってる!もしかしてさ、魔素とかモロモロは、左目で見てるんじゃないの?すげぇすげぇ、目ん玉、かっこいいー!)
‥‥‥。
自分、人族だと思ってたんだけど…。
片目だけ光る人族とか…いる?
異世界だから、なんでもありで…いるのかな?
ぶつぶつ独り言を呟きながら、手で片目づつ隠しながら確かめてみる。
わー、本当だぁ。確かに左目にはキラキラが見えるけど、右目だと見えないんだねぇ。
‥‥‥。
確かにすげぇ。
他人から指摘されて気付く自分、すげぇ。
すげぇ…悲しい…。
しょんぼりしながら、もう一度右目を隠してみる。
確かに…より一層クリアに見える気がするよ。
気を取り直して、片目で空を漂うキラキラを見つめ…
――ジロー
この体って、元々は妖精であるパトナの為の体だったからなぁ。だから、人族ボディとはいえ、もしかしたら特別妖精仕様なのかもしれないよね。うんうん、それならあり得ない事でもないな。自分の事だけど、考えるのが面倒になってきちゃった…。もう…そう言う事にしておこう。
――ジローー
片目で観察して一分ほど、どんどん目が慣れてくるのがわかる。小さな魔素の動きもくっきりしてきて…
◇◇◇
「うーん。どう見ても、普通の民家から出てる感じがしたんだよねぇ」
「それは一か所?それとも、いろんな家から出てきてるって事?」
「いろんな家から出てる感じ」
「普通の家にあるもので、その…キラキラしたやつが出るモノってなんなんだ?植物だと野菜…食材?いや、木材から出てるとしたら家具、それとも家自体か…。でも、この小屋からは出てないんだよな?」
ガイアさんが小屋をぐるりと見渡しながら聞いてくる。
そう言えばそうだよ。私達が寝泊まりしている小屋からは出てない…小屋をタンデムに設置したら出るのかなぁ。
うーん、試してみたいけど恐い気もする。
キラキラ、一体何から出てるんだろうね。
「あの町中の街灯ってさ、僕の記憶が確かなら“ボンクラ王家の数少ない良策”みたいな言われ方されてなかったっけ?」
「それ、私も聞いた事あるよ。初期学校の無償給食と街灯だけは素晴らしいんだけど、他はボンクラ~とか」
グリンデルさんが腕組みしながら厳しい顔をして言った。
「ふん…民家からとしか出どころはわからんが、要するに、国が管理する街灯にそのキラキラ…魔素だろうものが取り込まれてるって事かい」
「うん…そう言えば、グリンデルさんは私が魔素が見えるって話…すぐに信じてくれましたよね?やけにあっさりと…」
「あぁ。大昔の話だがね…知り合いに魔素が見える奴がいたんだよ」
そっかぁ。ダットンさんもバズさんも、私とは違う見え方ではあるけれど、魔素が見えてる人達で…他の人だって見えてる可能性はあるよね。
町中のこの状態を騒ぐ人が居ないって事を考えると、数は少ないのかもしれないけど…。
「街灯ってどういう仕組みなんだろう。魔道具だよなぁ」
「プロ的ご意見がある?」
「いやいや、技術的な事とかじゃなくって…単純にさぁ…この世界のこういう道具の動力って、魔石に頼ってるでしょ?だからこの街灯も、魔道具なのかな~って」
「たぶんそうなんじゃないかなぁ。えっと…この話はどこに繋がるの?」
「魔道具って事は、定期的に魔石を交換してる人がいるんじゃないかと思って」
「あ、そうか!電柱みたいに電線がある訳じゃないみたいだし、誰かが魔石を交換する…」
「そうそう。下水の件で配管工の人に色々聞いた事があるけど、地下配線の可能性はないと思うし…」
「ねぇ、電柱ってなに?」
ソウさんがアギーラに質問してる。ガイアさんも、グリンデルさんさえも、興味津々な顔をアギーラにだけ向けてるよ。アギーラにだけ。
異世界人なんです~、って話をした当初は、私の方にも顔が向いてたんだけど…もう、誰もこっちを見てない。むしろ4対1の構図が常の無情さよ。
それもこれも…アギーラの地球解説が上手すぎるのが悪いんだ…。
そりゃさ、電柱やら電線の事を聞かれても、答えられる気は一切しないけども…おいこら、私だって異世界人やぞ!




