ここは大奥か~ぃ!
あーら、見ーてたーのねー!超絶お久しぶりでございます。ベルこと成留鈴花でございます。
4歳になった時に、アリー先生から「そろそろお裁縫をしてみない?」と、お声がかかりました。
ビックリでしょ?私も『え?早っ!』って、思ったから!でもこの世界じゃ普通にある事なんだって。
特に孤児院は、全方向で試すだけ試して、少しでも才能がある方面を伸ばすって方針だからさ。
まぁ、掃除、洗濯や料理と裁縫なんかは、出来たほうが良いに決まってるからでもあるけどね。
まずはたくさんお手伝いの人が来てくれている日に、裁縫の得意な主婦から基本を学ぶの。
でもやっぱり針を使うって危険だからね。ちょっと危なかしい子や、そそっかしい感じの子にはお声はかからない。
あとはすごく嫌がる子とかもね。嫌がる子供に針持たせるなんて、周りはガクガクでブルブルだから。
ちなみに同い年で仲良しのラナとジルは不参加です。ちょっぴりそそっかしいところがあるラナは、もう少しお姉さんになってからのほうが良いからって。
すごく嫌がったジルは、まぁそういう事で。
二人は絶対にアウトドアが似合うと思うからそれが良いっす…。
正直、友達だけど…針は持ってほしくないっす…。
◇◇◇
現在、私の左手には裁縫大好き主婦、右手にお針子の職業訓練に通っている年長組のレイラという、裁縫親衛隊に脇を固められ、見守られ圧がもの凄い状態で運針に勤しんでおります。
ちなみに子供が初めて裁縫を習う時は、針の本数も裁縫時間の最初と最後で確認するんだよ。
ここは大奥か~ぃ!
――ちくちくちくちく
正直なところ大人になってからしたことって、ボタン付けと裾上げくらいなんだよね。
そりゃ、結婚して子供がいたりしたら全然違うだろうけど。手縫いじゃないとダメとか言われて、友達が徹夜で子供の幼稚園のサブバッグ縫ったりしてたもん。
でもこちとら魔女っ子の修行が佳境も佳境だったもんで…
なんてね…あ、若い頃もしてなかったわ…異世界ボケかな?
基本から教えてもらえるのは、とってもありがたいのでこの際みっちり習おうと思ってるんだ。
手縫いのお針子さんを抱えるアトリエが沢山あるから、そういう道も将来にあるってことだもん。
でも裁縫も良いけど料理も良いよね~。何か職スキルがあれば更に良いよね~。
料理はさせてもらえないけど、厨房にも少しずつ入れてもらってるんだ。
厨房と言っても隅っこだけど。隅っこに椅子に見立てた木箱があって、そこに座って作業するだけ。
…じゃがいも皮むき要員としてね。ピーラーがないと大変かなって思ってたけど、意外に大丈夫だったわよ。
でもね、この世界のじゃがいもも人参も玉ねぎもすごく大きいの。まだ手が小さいからさ、大きさと重さで手がもたついちゃうけど…かなり上達したと思うわ。
じゃがいもは安くてかさがあるからすっごく重宝されてる。じゃがいも・人参担当が終わったら次は何担当になれるのかしら…葉物担当とか?
キャベツとかサニーレタス、ほうれん草っぽいのは見かけたことがあるけど、他はあんまり見かけない。孤児院だからかなぁ。
背が小さすぎて厨房の棚や台の上が見えないからじゃないかって?
…あー…それな。
ベルちゃんは何が好きになるかなぁ。裁縫がかなり好感触だから、もしかしたらベルちゃんも得意だったりしてね。どうかな?お針子さんになれるかもよ。
手が覚えた事は魂が離れても体が覚えてると思いたいなぁ。
いや、覚えているに違いないと思って、日々生活してるんだけど。
裁縫も包丁捌きもしっかりマスターしとくから、任せて。
――ちくちくちくちく
「ベルって本当に器用ねぇ」
「わ、本当だ!ベルすごーい」
裁縫の腕が裁縫親衛隊のお眼鏡にかない、刺繍も同時進行で教えてもらってるんだけど…何かヘタ打ちましたかね。自分の刺しているものをジロリンコ。器用と言われる所以がどこにも見当たらない…。
栗鼠人族のラナをちょっとデフォルメして刺してみたんだけど…器用に分類されるのはどのあたりな感じで…?
皆が刺してる刺繍のほうが絶対凄いと思う…薔薇がバーンでドーンって刺してあるやつ。
「これって図案はどうしたの?」
「図案?」
「刺繍は図案を買ったり作ったりしてから刺すものなのよ」
「…え?そうなの?」
「だって、普通はそんな風に刺せないよ~、ほら見て!みんな図案線が引いてあるでしょ?」
「これ…ステッチを一個一個数えて覚えてるの?…よくつじつまがあったわねぇ」
「色の組み合わせも私には出来ないわねぇ。これは…今考えただけなの?…子供の発想ってほんと凄いわ~」
わ~ぉ、本当だ。下書きみたいなのが書いてある。
まじか…刺繍って勝手に刺したらいけないやつだったーーー!
今、私が習ってるのは基礎刺しという、基本ステッチばかり。図案がある事なんか、知らなかった…これはマズい…。
今日の基礎刺しは終わったけど、皆が自分の刺繍に夢中になってたからさ…少ーし遊んでただけなの。
だって売り物の刺繍って訳じゃないんだし…てっきりみんな自由に刺してるのかと思うじゃん。
思い込みって怖い。今後はもっと気を付けないと。
目立たない目立たない私は目立たない…ブツブツ…自己暗示完了。
「それにしても器用というかなんと言うか本当にさ…あれ?これってもしかしてラナ?」
「そうなの~。ちょっとシッポを大きめにしちゃったけど可愛いでしょ?」
「ここのステッチから糸を始末しないで、三つ編みの髪にしたのね。これ、良いわねぇ。ほら、ゆらゆらして素敵だわ」
「ほんと!可愛いね。これ、ラナにあげたら?絶対喜ぶよ?」
「そうかな。へへ」
ちょうどアリー先生が通りかかったので、刺繍したものをラナにあげても良いかと聞いたわ。全部、孤児院の所有物だからね。
許可は大事よ。報・連・相よ。あれ…許可は入ってなかった…異世界ボケかな?
アリー先生は何だか興奮して刺繍を褒めまくってくれた。
もちろんラナにあげても良いってさ!嬉しい!!
――ちくちくちくちく
周りをかがってワッペンみたいにしたら、鞄につけても可愛いよね。ラナはよく森で服を破くから、場所的に変じゃなければアップリケみたいにしても良いかも…あ~でも、ラナだからなぁ…すぐ汚しそう。
巾着を作って貼り付けてもいいな。巾着なら基本の運針と玉止めだけで出来るし。いや待てよ、巾着って言わないかも。小物なんかを入れる袋って言っておこう。
わらわは同じ轍は踏まぬのじゃ。




