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はいアギーラ、ハズレ~!

「イタタタタ…痛ーい!」


「…でしょうねぇ。朝から晩まで…そっからさらに一晩中だもん。ほら、諦めて早くポーション飲みなよ」


「嫌っ!ちょ、ちょちょちょ…こっちに持ってこないで。うえ~、めっちゃ生臭いっっ!!」


「そんだけ文句言えるんだから、元気っちゃ元気じゃん。寝てりゃ治るよ…知らんけど」


「知らんけど…は私の専売特許だから使用禁止。うぅぅ、痛いよぅ…」


 そうなのです。ワタクシ、張り切って毒沼な異世海をぐるぐるし続けた結果、ド級の筋肉痛になっちゃったのです。

 私ってば結構良い事したと思うんだけどなぁ…。


 そりゃぁさ、パケパ芋ノスケミンッチーチョとミニミニマッチョ妖精軍団と精霊の祈り木のお陰ってのも大きい…というか、ほとんとを占めていたかもしれんよ。

 だけど…見たでしょ?あの海の色!ちゃーんと綺麗な海に戻ったんだからね!!


 なのに…なのに…なんでこんな目にあうんだよぅ。異世界ご褒美って事で、筋肉痛くらいチャラにしてくれよぉぉ。

 うぅぅ、痛いよぅ…。


 あ…またパケパ芋ノスケミンッチーチョとミニミニマッチョ妖精軍団が、ベッド脇をうろうろしとる。

 すまないねぇ、アタシがこんななばっかりに…。


 わかってる、わかってるよ。ご褒美の魔素水が欲しいんだよね。

 この忌まわしい筋肉痛から復活したら、ちゃーんと魔素水をたくさん作るから…ちょっと待ってておくれ。

 って言いながら、全く回復の兆しは見えないけど…。


 って事で、未だに全然動けないんだけどね、アギーラが隣の家のおばちゃんをザッツライトを餌にして、お世話係としてスカウトしてきてくれたもんだから、潮風と海水でベタベタの体も拭いてもらえたし、おトイレも連れて行ってくれるしで…現状、至れり尽くせり状態なんだ。


 隣の家のおばちゃん…そう、ここはブンカンの村。

 ガイアさんが力尽きた私を抱えて、そのままブンカンまで送り届けてくれたのよ。


 そのガイアさんはバルハルト辺境伯にドナドナ(強制連行)されちゃって、辺境伯のお屋敷に連れていかれちゃったけどさ。


 ◇◇◇


 毒沼じゃなくって、綺麗な海で取れた魚介類が食べたい一心が招いた結果だけど…異世界中が大騒ぎ。

 ブンカンの村も、もちろん大騒ぎで、みんなの嬌声やら奇声やらの騒ぎ声が、寝ている私にも聞こえてくるくらい。


 いつも何かある時は、辺境伯サイドからきちんと通達がくるらしいんだけど、今回はまだ何も言ってこないんだって言って、みんなソワソワしてるのよ。

 果たして元の海に戻ったのか、一時的な気まぐれなのか、正式見解を待ち望んでるんだって。

 

 正式な連絡が来てないって事は、ガイアさんへの聴取がまだ終わってない、もしくは、終わった後でみんなへの通達をどうするか、話を練っているんだろうなぁ。

 ガイアさん、頑張れ…他人事…。


 ブンカンの村にはギルドがないけれど、近くの町にはギルドがあるからって、村の若者達が情報を求めて隣町まで行ったとかなんとか。

 そんな村の噂話をしていたら、アギーラが恐ろしい事を言い出した。


「たぶんだけど…明日には、バルハルト辺境伯の遣いの人が来ると思うよ?」


「ぐごー、ぐごー」


「いや、寝たふりしても来るもんは来るし」


「面倒な事に巻き込まれちまった…」


「いやいや…これってどちらかと言えば、()()()()()()()()()()()()()()んだって。まさか綺麗な海で取れた魚を食べたい一心…てか、考えてた事が、タコパ(たこ焼きパーティー)だったなんて、誰も考えもしないだろうけどね~」


「普通にタコパはしたいでしょ?」


「発言が大阪で育った感強め。タコパは浪速の使命的な?」


「そうそう。大阪府民には府知事が一家に一台、たこ焼き機くれんねんで」


「まじで!?」


「ウソやけど」


「こんな時にも自然に訳わからんウソついて…ぜんぜん自分の置かれてる状況がわかってないでしょ。でもまぁ、まさかこれがタコパしたいばっかりに起こった事だなんて誰も信じないだろうけどね。僕からしたらすげぇ笑えるけど…この局面はどうやって切り抜けるつもり?」


「ぐごー、ぐごー」


 ◇◇◇


 はいアギーラ、ハズレ~!

 辺境伯の遣いの人、来ませんでした~!!


「ベル、どうだ…具合は。無理に起き上がらなくとも良いんだぞ」


「いえ…座ったままでのご挨拶、失礼します…」


 これはアギーラの予想をはるかに上回るやつ、そう、バルハルト辺境伯ご本人が登場しちゃう展開…。

 こんなシチュエーション、ものまね番組に出てる演者さんくらいしか喜ばないからなっ!


 バルハルト辺境伯がブンカンの村に来ちゃったもんだから、村全体が昨日までとはまた違う騒ぎになっちゃった。

 そんなん知らんもん。うちらのせいじゃないもん…。


 アギーラが誰か来ることを見越して、即席車椅子を作っておいてくれたから、私も一応座れてはいる。さすがにベッドにゴロゴロしながらお貴族様と相対す訳にもいかんもんね。アギーラったら相変わらずそつがないったらない…まぁ、ありがたいけどさ。


 この即席車椅子はね、ダットンさん達を救出した時に閃いたんだって。寝たきりだったダットンさんが、驚異のスピードで復活したもんで、脳内お蔵入りしてたらしい。

 

 脳内では既に図面が出来上がってて…ものの数時間で作ってくれたんだ。さっすが、道具職人アギーラ!これ、絶対売れるよ!!


 そう言えば、ずっと海でしゃがんでる私を見かねて、海では(やぐら)とボートの中間みたいな海上ベースを作ってくれもしたりしたんだよな~。


 だから海水に濡れる事無く、ぐるぐるができたの。さすがに一晩中海に居たら、水分で体がブヨブヨになりそうで恐かったからさ、すっごく助かっちゃった。


 ガイアさんも私が寒いだろうって、砂浜で火をおこしてくれたりしてね。濡れたタオルを浜辺で乾かしては、ほかほかのタオルを補充し続けてくれてた。

 ほんと…みんなには感謝しかないな。


 ちなみにアギーラお手製海上ベースにはテントもついてて、かなり居心地が良かったんだよね。筏の真ん中に穴が開いてて、そこから攪拌棒でぐるぐるしてただけなんだもん。


 アギーラ、あの海上ベースも売れるかもよ。

 …さすがに売れないか…あはは~。


 ‥‥‥。


 ちょっと現実逃避してみました。

 だってさぁ…


「本当に寝たままでも構わないんだがな。ベル、この度は…世界を救ってくれて、本当にありがとう」


 下げとる下げとる。バルハルト辺境伯が、頭、下げとるっちゅーねん。ほら、現実逃避したいでしょ?

 お貴族様が頭を下げてるこの現実を直視したくない。

 はぁぁ…貴族云々には、絶対に関わり合いになりたくないと思ってたのに…。


「この世界中で発生してた瘴気が消えたそうだよ…全部な」


 ◇◇◇


 この世界ね、実はかなりヤバかったらしい。


 まぁ…うん。でしょうね…。

 みんな騒ぎもせずに粛々と生活してたけど、あの海の色を見たら、何か思うところがあるに決まってんじゃん…。


 私達、下々な平民にはもちろん何も知らされてなかったけど、この世界が瘴気にのみ込まれるのは、もう時間の問題だったんだって話よ。


 疲れたら眠っても良いから、聞くだけ聞いて欲しいって言われて…バルハルト辺境伯が色々と…本当に色々と…え?そんなこと聞いちゃったら後々面倒そうだから、出来たら聞かせないで欲しいんですけど。

 

 …って、思うようなことも色々と…動けないから逃げられもしないという、この哀れな私に話して聞かせてくれたの。

 そうです、皆さん、これが俗にいうありがた迷惑ってやつです。


 さっきから隙あらば後ずさりして、部屋から逃亡しようとしているそこのアギーラ君。あんただけ逃げようったって、そうはさせないから。


 ――ジローーー


 私の眼力に負けたアギーラが、居心地悪そうにモゾモゾと椅子に座り直した。

 よし、宜しい。


「海全てが瘴気に代わり、瘴気の海がこの世界全てを覆いつくし、やがてはこの世界は終焉を迎える…そういう未来がすぐにやってくる。そう…言われていたんだ」


 やっぱりね。ダットンさん達も、あの毒沼がやがては瘴気になるんじゃないかって…かなり気にしてたもんなぁ。


「本来、こういう時に最前線で世界を守るために、強い魔法を使うものが…魔力をたくさん持つ者が、(まつりごと)をつかさどる事になって幾年月。この世界で最初の政をつかさどったのが、魔力の高い者達、強い魔法の使い手…今現在、貴族と呼ばれている者達の先祖だった…」

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