ポッポポッポー
「実に見事であった」
「ありがとうございます」
「まぁ…その、なんだ…色々と事情もあるのだろうが…。お前たち二人の傍にベルがいたのも…むろん、意味があっての事なのだろう?」
「それは…」
「…まぁいい。俺もあまりの事に、今何か言われても咀嚼できる自信がない。ともかく今日はゆっくり休んで、明日、少し話をしよう。ソウとベルも一緒に連れてこい…良いな?」
◇◇◇
今ね、ガイアさんがバルハルト辺境伯にズルズルと引きずられて、辺境伯の専用テントに消えたとこ。
瘴気の前で試してみたい事があるからって、Sランク冒険者としてのメンツで許可を貰ったみたいなもんだったから、細かいことは話してなかったらしいし、辺境伯の方もこんな結末は予測してなかった。
だから気軽に承諾してて…っていう経緯もあり、結果、全員大混乱。
瘴気が一気になくなって、ポッカーン状態のバルハルト辺境伯から、同じくポッカーン状態からいち早く我に返ったガイアさんが、サラマンダーの炎を辺境伯の手からひったくって、お芋ちゃんと一緒にその地を綺麗に焼き払った。
あまりにサラっと終わっちゃったから、正直拍子抜け。
ホントびっくりなんだけど…瘴気、なくなりましたわ…。
本来ならボス魔獣が出てくるはずなんだけど、瘴気自体が消滅しちゃったもんで、ボスの登場なんてものもなく、しれっと終了よ。
若干引くくらいに上手くいっちゃったじゃん…。
でもこうなるとさぁ…この大成功な結果をどう誤魔化して幕を引くのかって話になる訳でね。
そこらへんの話と、諸々すり合わせとを今夜、徹夜してでもやらねばいかん!って話にはなってるけど…こりゃ一体どうすりゃいいのさ。
それにしても…すっごく近くで見てたのに、全然見えなかったなぁ。
何の話かって?そりゃあガイアさんよ、ガイアさん。
ガイアさんがさ、静かに大きな剣をスンッて振っただけでね、終わっちゃったんだもん。
スンッよ、スンッ。あれがSクラス冒険者の実力ってやつなんだなぁ。
ガイアさんが大剣で瘴気の渦に斬り込んだ時に、ソウさんがガイアさんの剣に沿わせて氷の刃を添えて…いつもそうやってダンジョンで遊んでたんだってさ。見事な連携プレーを見させてもらいましたわ。
ほんとにほんとに、二人の合わせ技はとっても見事だったんだから。ほへぇぇ…って見てる間に、ガイアさんの大剣が見えてるのに全く気付かないくらいに、静か~に瘴気の入口部分を切り裂いてさ。
ガイアさんが静か~に斬ったところから真っ白な光が、あの禍々しい瘴気を飲み込んで…あっという間に勝負がついちゃったんだもん。
「ベル、手がお留守!手を動かして!!」
「あ、ごめんごめん」
今ね、大量の魔素水作りをしてるの。
ガイアさんが話したそうな顔をしてたけど…先に小屋へ行ってもらってるんだ。他の冒険者達から、質問攻めにあって困ってたからね。ソウさんと小屋でゆっくり休んでおいてもらおうと思ってさ。
私?私は未だテントに居残りですよ。
何故ならば、お礼をしなければならんから。
と言う訳で、現在ワタクシはテントを一つお借りして、休んでいる風を装い…魔素水作りと相成っておるわけでございます。
いやだってさぁ、小屋に全ミニミニマッチョ妖精軍団におしかけて来られても困るし…。
テントの見張り役は前回同様、アギーラでお送りします。
テントなんかも撤収されちゃうのかなって思ったけど、ボス魔獣がでる間もなく収束しちゃったもんで、辺境警備隊も冒険者も暫くは様子見。ここに居残るんだってよ。
「またっ!ぼ~っと考え事してないで手を動かすっ!!」
「ひぃぃ」
アギーラが、私がぼんやりするたびに魔素水作りをせっつくのであります。おっかないのであります。
そうそう、俯瞰で見守っていた半透明アギーラもね、白い光が見えたんだって。
もしかしたらアギーラは、鍛えればパケパ達の事も見えるようになるかもしれない。鍛え方は知らんけど。
「マッチョブラザーズ、魔素水が出来たよ!順番に30マッチョずつ呼んできてね」
あの巨大なムッキムキブラザーズは、戦い終わったらシレっといつもの小さな三人組なマッチョブラザーズに戻ったけど…小指の白い光はそのままだった。
これって誰に紐ついてるんだろう…訳の分からん詐欺にいつの間にかひっかかってた気分…。
マッチョブラザーズはね、三人組になったり一体づつになってみたり、自由自在にトランスフォームできるようになったんだって言って、えらく喜んでるから…まぁ、いっか。
なんとなーくだけど、ワンランクアップした感があるんだよね…あのマッチョブラザーズ達。
瘴気との戦いが終わってから、他のミニミニマッチョ妖精のリーダー的存在になってるっていうか…細かい事なんだけど、着用してるタンクトップの素材が他のミニミニマッチョ妖精より上質になってるし、なんだか全体的にグレードアップしてやんの。
そんなグレードアップマッチョブラザーズがリーダーシップを発揮して、うまい事みんなを順序良くテントに呼びこんでくれたもんで、魔素水もさくさく配布終了。
ミニミニマッチョ妖精軍団は増えてるんだろうなぁとは思ってたけど、まさかの500マッチョ越えよ。
500マッチョ、どこから来たんやろなぁ…そしてどこに帰るんやろなぁ…。
‥‥‥。
みんな…ちゃんと帰ってくれるんだよね?
◇◇◇
ガイアさんとアギーラと私。
夕食後、バルハルト辺境伯対策を練るべく…練るべく…全く何の案も出てこない!
ソウさんはクロノスケと一緒に、ブンカンの村でお留守番しているダットンさんとバズさんへ手紙を届けてくれている。もう二人共、わかってるかもしれないけど…一応、この一連の出来事を伝えておこうと思ってさ。
「辺境伯対策も大事だが、俺はその前に聞いておかないといけない事がある。なぁ、ベル…アギーラとお前は…その…同類…同郷…って事、なんだ…ろう?」
あの例のアニソンを歌った時、近くで聞いてたガイアさんが言うには、私の声がね…二重に聞こえたんだって。
この大陸はさ、地域ごとの方言はあれど基本は単一言語。その言葉ともう一つ、不思議な呪文が聞こえてきたって…。
呪文ってなんだ?って考えた結果、そんなつもりは微塵もなかったけど、私の歌ったあのアニソンには、地球の言語が混ざってしまっていたのかもしれないという考えに到達。
呪文だって言い張る事も出来るかもしれないけど…もう、良いかなって。
アギーラが昔、嘘をつくのがどんどん心苦しくなるって言ってたけどさ…今は私もその気持ちがすごくわかるんだ。
「うん。アギーラと私は同じ…異世界から来たんです」
「…だろうな。俺、ずっとさ…心のどっかではわかってたんだと思う」
そこからは堰を切ったようにアギーラと私で話す話す地球の事やらこの世界に来た経緯やら。私はたぶん一度死んでいる事、アギーラは学生で私はもう大人で…一度話し出すと止まらない。
あぁ、やっぱり私、ガイアさん達には打ち明けてしまいたくて、ずっとずっと辛かったんだな。
「ベルはね、出会った頃…ある日、突然自分の魂はこの世界から消えるかもしれないって言ってたんだ。ある日突然、僕の事がわからなくなったら…そう言う事だからって…ごめんって…」
「こんな言い方があってるのかわからねぇが…随分とひでぇ話じゃねぇか。そんな事って…」
「あ、でもね。私の場合はここでの命は、自分の人生のおまけみたいなもんだって考えようって…だから、そんなに酷い話でもないと思えるようになって…」
さて、皆さまはもうお気づきでしょうか。
辺境伯対策がまったく出来ずに、転生転移話だけで夜が更けていった事を。
これまでのあれこれを大いに語り、あっという間に時間が過ぎていった事を。
そして…外から聞こえる鳥の鳴き声に、朝がきた事を感じ取った三人、見事に何の策も練れていないという事を。
――ポッポポッポー




