よっ、ちょい漏れ吟遊!
「よ、呼ばれた…私に?」
<呼ばれたから来たんだぜぃ>
「ワタシィ!?そ、それはさ、ほんと~に…私かな?」
<お前が呼んだんだぜぃ。呼ばれたのに、全く俺達が見えてねぇみたいだから、みんな困ってたんだぜぃ>
「‥‥‥。えーっと、ちょっと待っててね」
<おうよ!>
「アギーラさぁ…さっきのあのアニソン、ちょっと歌ってみてくれないかな?」
別にミニミニマッチョ妖精軍団の興味が、アギーラに移行したら良いなぁ…なーんて思ってないよ。絶対に絶対に思ってないけど…試してみても損はないと思うの。
私の謎リクエストにいぶかし気な顔をしながらも、アギーラが歌い出した。
大丈夫大丈夫、全責任は私が取るから。…出来るだけ。
「♪天使の羽だよ広背筋♪腹筋板チョコいただきマッチョ♪大胸筋は歩き出す♪見ろよお尻にバタフライ♪」
‥‥‥。
あれ?何にも起こらないや。
「うーん。もしかしたらアニソンが原因なのかもって思ったんだけど…反応しないなぁ…」
「くぅぅ、それはもしや僕の内なるパッションが足りないからでは…」
「うん。パッション以外で原因を考えてみようか」
「僕が見えないのをいいことに、ベルがそのマッチョ妖精とやらを僕に押し付けようとしてたって事だけはわかったけど」
「バレたか…」
「ベルがもう一回歌ってみたらどう?あの時さ、僕、リズムは取ったけど歌ってなかったよ?」
「そうだったっけ?じゃぁ…仕方ないから私も歌ってみる。ごほん…♪みんなバリバリ!マッチョポーズ♪仕上がりすぎてて阿修羅像♪本気の筋肉みせてやれ~♪」
うわ…うわうわうわ。ミニミニマッチョ妖精軍団が一斉にざわついてわちゃわちゃし始めた。
あっさり原因確定…だけど謎は深まるばかり。
このアニソン…WE!GO!!MUSCLE!!!って…一体なんなの?
<呼んだな!俺達は何をすればいいんだ?>
「ベル、どうだった?」
「ええと…順番に答えるから、アギーラはちょっと待っててね。えーと…妖精さん、私はあなた達を呼んだつもりは毛頭なくって…これは、なんというか…そう、鼻歌みたいな感じで…」
<久しぶりに呼びかけられたから…俺達は嬉しかったんだぜぃ…>
「そんなにしょんぼりされても…」
<ふむ…こいつらにはわしから話してやろう。いいか、このベルはな、なんでも無自覚に…>
なに!無自覚ですと!?…自称天然系と無自覚系の人間は、信用しないと決めているこの私が?
お芋ちゃんは話をしながらテントの入り口へと向かっている。テントの外にいるミニミニマッチョ妖精軍団にも説明してくれるらしい。
お芋ちゃん流、私解説はすっごく聞いてみたいけど、まずはアギーラに説明しないと…
「ベル、どうなったの?」
「私がアニソンを歌ったらさ…それが“戦いの呼びかけ”だったって言ってるんだよね。なんで?なんで私の歌だけなんだー!」
「それは僕の内なるパッションが…」
「はいそこ、パッションから離れて!」
「あー!もしかして吟遊じゃない?」
「吟遊は使ってないもん」
「…漏れてる可能性は?」
「漏れてるってなんか嫌…でも…そう言えば、やけにみんなに心の声が漏れてるような…」
「ちょいちょい漏れちゃってんじゃないのぉ?よっ、ちょい漏れ吟遊!」
◇◇◇
これからミニミニマッチョ妖精軍団に話をして、今日のところはお引き取り願おう交渉をしようなんていう計画を練っていたら、「ベルが疲れてしまったようなので、もう少しだけテントを使わせて欲しい」というホラ話をしに、アギーラは辺境伯の従者さんの所へと向かって行った。
気が利くアギーラのお陰で少しは時間稼ぎができるけど、早くなんとかしないとね。小屋をホラーハウスにはしたくない…なんて考えていたら、お芋ちゃんがミニミニマッチョ妖精の群れの中から戻ってきた。
<なぁベル、こやつらは戦う気満々だそうだ。早く戦いたいと言っておる>
「戦う戦うって…一体誰と戦う想定なんだろ」
<さぁな。こやつらは、呼び出した者の意思に従うと言っておるが…>
「意思って言われても、私は平和主義なんだよねぇ…」
<戦うと言っても、こ奴らが直接手をくだす訳ではないようだぞ。例えば…パトナが塔で人助けをした時にベルにしておっただろう?>
「え?じゃぁ、人のアシスト的な感じで戦うって事?それって戦いじゃないんじゃ…」
<白いのは白いののやり方で、ああいった働きをするようだ。その代わりに働きに見合った魔力は持っていかれるからな>
「へぇ、報酬は魔力なんだ…」
魔力かぁ。
お忘れかも知れませんが、私の魔力は∞なのよ。いや、ステータス画面上での魔力はとーっても少ないんだけど…ほら、例の無色の魔法アレコレは、何故か使いたい放題なんだわ。
もしも私の魔力でなんとかなるなら、手伝って欲しい事がない訳でもないなぁ。
「私の魔力でオッケーってなった場合さぁ、その…私にじゃなくって、別の人達に力を貸してくれたりは出来たりするのかな?」
<そこらへんは交渉次第であろう。まぁ、久々に人と話せて奴らは嬉しそうにしておるし、引き受けそうな勢いではあるがな>
テントの外で他のマッチョ妖精さん達と話しながらも、こちらをチラチラ、いや、ガン見しているさっきのマッチョ妖精さんに、おいでおいでをしてみる。
またもやプルプルと震えながらも、嬉々としてこちらにやって来るその姿を見て、あたしゃ確信したね。
てっきり私の事を恐がってるのかと思ったけどさ…こりゃ、ただの武者震いだよ。
<よし、戦うかっ!>
「いやいや戦わないから。あのさ、ちょっとお訊ねしたいんだけども…私の魔力でお礼をするから、他の人にみんなの力を貸してもらうっていうのはアリなの?」
<アリだぜぃ!そもそも呼び出したお前の魔力が良い匂いだから、みーんなここから離れられないんだぜぃ!!>
え…私の魔力って匂ってるの?
ちょい漏れ&匂ってると!?
なんでしょうかね、えも言われぬこの気持ちは。
「みんなが欲しいと思う報酬をあげられるかはわからないけどさ…今ね、この近くに瘴気ってのが発生してるの。強い人たちがその瘴気ってやつを祓ってる最中なんだけどね。だから、その人たちのさ…お手伝いがお願い出来たりするかなって」
<人々は俺達の存在が見えなくなって久しい。もう、誰にも呼ばれる事がないのかと思って…だから…だから…俺達は張り切って協力するんだぜぃ!>
もしも瘴気祓いに役に立てるなら、今回は怪我人が沢山出てるって話だし、こっそり瘴気祓いに協力してもらうのは、やぶさかでもないと思ったんだけど…ミニミニマッチョ妖精軍団は一体どんな事ができるんだろう。
「みなさんは白いの…詳しくは知らないんだけど、白色の魔法が使える妖精さんって事で、良いんだよね?」
<そうだぜぃ>
「白魔法って言えば、癒しの力だって聞いた事があったんだけど…なんで“戦い”なの?」
<俺達は治癒を武器に戦うんだぜぃ>
「そ、そうなんだ」
<癒す事は、戦いにも通ずるという事なんだぜぃ。俺達は体を癒す事で、そいつの能力を最大限に引き出す力を持っているんだぜぃ>
<これだけの数がいたら、なにやら面白い事になりそうだ>
「え…お芋ちゃん、なんか言った?」
<なぁ、ベル。まずはベルが作った魔素水を渡してみてはどうだ?>
そっか!魔素水って私の魔素が入ってるんだ。
自分の体から直接チュウチュウ魔力を吸い取られるのは、正直嫌だな~って思ってたんだけど…魔素水で済むならイイ、めっちゃイイ!
マイ収納から、作り置きしてある自家製魔素水を取り出して、グリンデルさんからもらった調合用の攪拌棒で、さらにぐるぐる。
アギーラがマジックバッグで持って来てくれた荷物の中に、グリンデルさんからの色々って袋があってね。
その中に調合に使う攪拌棒と壺が入ってたんだけど…これがすっごく便利なんだわ。
薬師さん達がお薬を調合する時に使うプロ仕様なんだけど、これを使うと均等に混ざるから、小分けにした時に偏りが出ないんだよ。
さらに次に使う時には全部綺麗になってるという優れモノ。ズボラな私でも、前回調合したものが混入したりする事もないし、とっても使いやすいんだ。
って、通販番組みたいに説明しまくっちゃってなんだけど…よく考えたら今のところ、魔素水作りにしか使ってなかったわ。
「あの…今日は何もしてもらう事もないのに、呼び出しちゃってごめんなさいって事で…これはお詫びだよ。私が作った魔素水なんだけど、このお皿で飲めるかな?」
ミニミニマッチョ妖精さんのごくりと唾をのみ込む音が聞こえてきた。
<い…良いのか?>
「もしこの魔素水でみんなが協力してくれるなら、あとあとお願いしたい事も出てくるかもしれないし。今日は試飲も兼ねてって事で…みんなで順番にね」
お、勢いよく飲み始めたぞ。
テントの外でじっと様子を伺っているミニミニマッチョ妖精軍団にも、おいでおいでをしてみる。
わらわらプルプルと近づいてきた彼ら、やけに規律正しくきちんと並んで順番待ちしてるのが可愛い~!美味しい美味しいって嬉しそうに魔素水を飲んでる姿もなかなかに可愛い~!!
私の魔素水で十分に報酬になるって言ってくれたし、彼らが瘴気祓いの役に立てないか…ガイアさんに相談してみよう。
でもまずは…今日のところは念願の解散!だぜぃ!!




