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なんか知らんけど、絶対に嫌だー!

 設営テント群にある厨房設備、意外にしっかりしてるんだよ。コンロと作業台と水場なんかもひと通り、ちゃんと揃ってる。


 本日はそこをお借りして、哀しみの配膳係と相成りました私とアギーラが食事の用意をしている間に、ダットンさんとバズさんがバルハルト辺境伯とお話する…という流れになっております。


 良い方向で話がまとまると嬉しいな。

 バルハルト辺境伯は、権威嫌いっぽいグリンデルさんでさえも認めてる人。領主の裁量ってどの程度かは知らないけどさ、平民の一人や二人、救ってくれると思いたいよね。


 辺境伯の従者だっていうおじさんが、食事のセッティングを手伝ってくれるから、サーブ順序の確認なんかをしながら気になって気になって…ついついダットンさん達の様子をちらちらからのガン見という名の盗み見をしてしまう私。


 料理の用意がちょうど終わる頃、ダットンさんとバズさんが椅子から立ち上がった。

 話し合い、無事に出来たかなぁ。

 

「食事を一緒にどうだ?と言っても、絶対に断わられそうだから言わんからな。わはは」


 という、辺境伯の声と共に、激しく頭が上下するダットンさんとバズさんが見えた。

 それはヘッドバンギングって言うんやぞ。危険なんやぞ!


 私を置いて二人共逃げる気満々じゃん。

 はぁぁ…世間様は冷たいよ。まだこんなに小さいのに、あたしゃもう誰も頼れないんだ。


 よし、二人が退出する時に、すかさず後をついて出て行こう。もう逃げる道はそれ一択しかねぇ。辺境伯の従者だっていうおじさんよ、後は任せた!


「お、美味そうだ。急に頼んで悪かったな、ベル」


 ギャッ!


「いえ…お口に合うと良いのですが…」


「ベルとは話をしていないから、食べながらで悪いが、少し話をしていかないか?」

 

 退路が…アタイの退路がぁぁ!

 

「は、はい…」


「そんなに恐がらないでくれ。ガイアもここに残るからな。こいつ、昨日の事すげぇ恨んでて、一緒に食うってきかないんだよ」


 ◆◆◆


 両人ともが星詠みとは恐れ入った。

 当代に一人という噂はまやかしという事か…。


 こちらにとっては有難い人材だが、ユスティーナは馬鹿な事をしたものだ。星詠みの御仁達に逃げられるとは…ぼんくらだという噂、どうやら本当らしい。

 

 ‥‥‥。


 いや、問題はそっちじゃない。

 あの子は…一体何者なんだ?


 ◇◇◇


「はぁぁぁぁぁ」


「すまん。本当にすまん」


「生きた心地がしなかった…」


「ごめん…」


 げっそり疲れて、言葉少なに一路帰路。

 みんなで鍋やらなんやらをえっちらおっちら抱えて暫く歩く。人目がなくなった場所で、荷物をマイ収納にしまったあとは、私のとぼとぼが過ぎて、ガイアさんがおんぶしてくれたけどさ。

 

 ‥‥‥。

 こんな…おんぶなんかでチャラにはならないからっ!


 だってさ、機嫌を損ねたら即クビチョンパ。なーんて事が、あるのかもしれないって恐怖と戦う羽目になったんだよ!


 まぁ、私が思ってたより、ざっくばらんな雰囲気だったけども…。

 話もソツなくきちんと出来たと思うし…それでも怖かったんだ。だって…あの辺境伯って人さ…私に…絶対何かしたと思うんだよ。

 

 目が合ったほんの一瞬だけど…ザラっとした…こう…全身を舐め上げるような感覚が、体中を駆け巡ったの。


 魔道具…スキル…魔法…何かはわからないけど…絶対何かした。ダットンさんとバズさんにもなんかしたのかも…ガイアさんにも同じ事をしたのかもしれないよね。


 体内に何かが残ってる感じはしないけど…一応、吟遊しまくっとかなきゃ。あぁ、キモイキモイ。


 ザラっとしたやつ、どっかに飛んでけ~♪なんか知らんけど、私たちの体に何かしたなら無効無効~♪


 ◇◇◇


「はぁぁ…疲れた…」


「お疲れお疲れ」


「もう、二度とごめんだよぅ…アギーラも来てくれてありがとね」


 ガバッとテーブルに顔を伏せてアギーラと話していたら、ダットンさん達と話をしていたガイアさんが、苦笑いで話に加わってくきた。ダットンさんとバズさんも部屋に入ってくる。


「悪かったなぁ。こんな事になるとは思わなくて…」


 アギーラがお茶を淹れてくれたし、みんなで休憩がてら少し話しをしよう。


「それで…結局、ダットンさん達はどういう事になったのかなぁ。私が聞いても大丈夫?」


 ダットンさんとバズさんが大きく肯いて了承してくれる。


「あぁ、俺から話そう。要約すると…星詠みの力で視えた事で、報告したほうが良いと思ったネタを提供してくれるなら、この領地で身分も保証してくれるってさ。領地内なら好きに住んでも構わん…まぁ、そんな感じだな」


「えー。すっごい自由じゃん!」


「そりゃそうさ。どんなスキルやら魔法やらが使えたとしても、普通はそんなもんだろ。変わったスキルがある冒険者だって沢山いるだろうけど、みんな自由に生きてるぜ」


「あ、そっか。ついつい今までの二人への酷い扱いが頭をよぎってしまいました…」


「ついでに言うと、視た情報が有益なら金一封が出るって話だからな。条件的にも悪くはないと俺は思ったんだが」


「すっごい手厚い!」


「バルハルト辺境伯としたら、美味しい話だ。これくらいなんでもないんだろう」


「やっぱり星詠みって凄いんですねぇ」


「俺は星詠みってやつを知らなかったが、辺境伯はかなり驚いていたからな。それが二人も治領に来たんだぜ。厚遇もしたくなるってもんさ」


「ダットンさんもバズさんも…それで構わない?」


「あぁ、もちろんだ。なぁ、バズ」


「はい。有事の際の協力は別として、普段は星詠みするもしないも、あくまで自分達の裁量で構わないなんて…まさかそんな風に言われるとは思わなかったから…正直驚きはしました」


「それが当たり前なんですよ。まぁ、話を聞く限りじゃ、ユスティーナのやりかたは悪手だったとしか…」


「ですよねぇ。あ、ダットンさんとバズさんの定住地を探さないと」


「それなんだがな、わしらはあのブンカンの村に世話になれないかと…」


「そうなの!?いつの間にそんな話になってたんですか?」


「いやいや、まだバズと二人で話をしただけだがな」


 ダットンさんがバズさんをちらりと見る。バズさんがひとつ肯き、ダットンさんの話を継いで続けた。


「これから…この世界にもしも変異があるとしたら…あの海からだろう。星詠みの…俺達の力が少しは役に立つことがあるかもしれないって思って…」


 塔に幽閉なんてされてたのにさ、そんな時だって庶民の生活が脅かされるような事態は、きちんと国に進言すべきだって思ってるような人達だったもんね。

 

 あんな海を見ちゃったらさ…そんな気持ちになるのも理解できる気がする。


「じゃぁ…今、借りているお家を、そのまま使わせて貰えないかなぁ」


「いやいや、あんな立派な家はさすがに…」

 

 二人共そう言いながら苦笑い。

 あ…そっか。現状、職がないんだった。


 私が諸々用立てる事は出来るだろうけど、今後の事も考えなくっちゃいけないしね。私のお膳立てを、もろ手で喜ぶような人たちない事は、この逃亡劇の中で十分にわかってるし…うーん。


「わしらはまず働き口から考えなければならんから」


「仕事かぁ…」


 ◇◇◇


 そして早朝――


 ――トントントン


 ん…

 なんか…音がする?


 ――トントントン


 する!音がする!!


 またまた5時だよ!私以外、誰も起きてない時間だよ!!

 ソウさんを無理矢理起こして抱っこして、そ~っと扉に近づいて…


「朝早くからすまん。誰か起きてるか?」


「ひぃぃ、ガイアさん…」


「ベル、すまん!」


 嫌だ。

 嫌です。

 なんか知らんけど、絶対に嫌だー!

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