まさに一石二鳥なの…鳥だけにねっ!!
アタシ、魔道具師のシーラよ。
ガイアの事、すっかり忘れてた…ま、今思い出したんだからセーフよ、セーフ。
いやさ、バディバードを飛ばしておこうと思ってね。ちょっと遅くなっちゃったけど、何もしないより全然ましよ。おほほ。
バディバードは鳥形の魔道具。魔法付与で飛行術式ついた素敵な魔道具なの。
お互い受鳥魔道具ってのを持ってれば、その相互間でのみ飛ばす事ができる飛行魔道具で、50文字の文章を送れるんだけど…ちょっとお値段がお高めなのよね。
鳥型の魔道具の方は使い捨てなのよ。だからもったいないって思っちゃって…普段は絶対に使わないんだけど、今回は特別。
今回のこの鳥型は『遠征が長引く予感がする』って騒いだガイアが、緊急事態用にって買っておいてくれたものよ。確かに、もう3か月以上経ってる。ガイアったら凄いわ。第六感かしら…。
この50文字縛りって、アタシ、ちょっと苦手なのよね~。でも、なかなか使う事がないから、ちょっぴりワクワクするわ。
――かりかりかりかり
よしっ、書けた。ガイアがこれで理解してくれることを願おう。
それにしても見事な魔道具…。こういう魔道具をアタシもいつか作れるかしら。もう少し単価が安くて、気軽に使える通信魔道具を作ってみたいわ…夢みたいな話だけど…姿も優美なのよねぇ。やっぱりこういうの、いつかは作ってみたいわ…。
ほんと、うっとりしちゃう…鳥だけにねっ!
何もなければこんなお高い物を無駄に使ったりしないわよ、もちろん。
でも今回は、仕事が終わりで、失踪人の確認をしてきて欲しいのよ。
あんなしっかりした子が失踪したなら、隣国でだって絶対に騒ぎになってるはずだもの。事件性がない事だけを願うけど、ガイアが上手く聞いてきてくれると思うわ。
あとはさ、ガイアが帰ってきてからアギーラの事を知ったら、何だか不機嫌になる気がするの…『成人男子を家に入れるなんて』、とか何とか言って…。
だからバディバードを使うのは、まさに一石二鳥なの…鳥だけにねっ!!
さ、頼んだわよ!いってらっしゃーい!!
――鳥型の魔道具は、セレストの方角へふよふよと飛び出して行った。
◇◇◇
裁縫道具と小さいナイフを貸して欲しいって言うからね、好きに使ってって渡したんだけど…ナイフは使う頻度が高いだろうから、今度二人で新しいナイフを買いに行くことにしたわ。
とりあえずは量産品で我慢してもらわないと。
町の南側って、まだ行った事がないって言うからさ、グスタフさんの鍛冶店に顔つなぎしておくのにちょうど良いと思って…お使いも頼めるじゃない?
ドワーフの親方のグスタフさんとその弟子の青年ラシッドがいるお店なの。
そう言えば、ラシッドはもうそろそろ独立するみたいな話だったけど…どうなったのかしら。
ラシッドが居てくれるから、既製品のナイフを売ってくれるのよ。
それだって、いちげんさんはお断りなんだから。そう。何を隠そう看板のない名店ってやつよ。
馴染みのお客の注文品と、武器防具のメンテナンス、アタシみたいな商売絡みのお付き合いがある人達を捌くだけで、もうパンクしそうなんですって。
ラシッドが独立しちゃったら、一体どうなっちゃうのかしら。ほんとにパンクしちゃったりして。
え?グスタフさんのナイフ?無理よ~、とても買えないわ。
それに普通のナイフなんて作らないもの。ラシッドを後継弟子だって認めた瞬間から、グスタフさんは既製品から一切手をひいたのよ。
後継弟子って、師匠が引退した後に、顧客や道具なんかを引き継ぐ弟子のことね。『これからは俺は俺の好きにするんだ!』って言ってね…もともと結構好き勝手してたと思うけど…。
その代わりって訳じゃないけれど、ラシッドがナイフなんかの既製品を作ってくれるようになったの。知り合い限定だけどね。
鍛冶屋の注文品は、すっごくお高いのよ。
まぁ、あの二人の作品ならお値段以上の価値があるのはアタシにだってわかるから、少々値が張っても誰も文句言わないけどさ。
ラシッドもめきめき上達してるから、そのうち手に入らなくなる。
アギーラの分は手に入れておきたいわ。
◇◇◇
古着も何着か良さそうなのを買ったんだけど…どうやら穴が開いてたみたい。ちくちくと器用に繕ってるわ。
こういう事は忘れてないのよね~。本当に不思議よねぇ。
だからさ、ついついこっちがアギーラが記憶喪失だって事を忘れそうになっちゃうの。
あら、次は何をするのかしら。
こないだ板が欲しいって言うもんだから、道具作りやら薪やらに使うのに便利だからって保管しておいた板を、勝手に使って良いって言ったんだけど…今度はそれを持ち出してきたわよ。
ついつい見るともなしに見ていると、今度はナイフを使って何かを作り始めたの。
何に使うのかと問えば、「洗濯で使いたくて…うまく出来るかはわかんないけど」って返事でね。
アタシが人工魔石の魔力確認作業をしている間、アギーラは一心不乱に木を削ってたわ。暫くすると作業は終わったのかしら…今度は木を撫でて何か考えこんでるみたいね。
ちょっと興味がわいて近づいてみたらさ、驚いた事に手に持ってた魔道具が反応したの。人工魔石の魔力確認用の魔道具よ?普通、人になんか反応しないわ。もうビックリよ。
「アギーラ…今、魔力が出てるんじゃない?たぶん結構な量よ。大丈夫?」
「え!?今?今、魔力が出てるんですか?」
びっくりした顔で逆に質問してくる。ふふっ…耳が…。
あ、そうか…アギーラのステータス画面が、未だに出てこないのを忘れてた…。
これだけの魔力が流れ出しているのに気付かないなんてどうなってるのかしら…本人はポカーンとして自分の両手を見つめてるのよ。具合も悪くなさそうでケロっとしてるし。
体もまったく変調がないって言うけど…。無意識に魔力を放出してるって事?グリンデルに相談したほうが良いのかしら…。
なんでも、『水やら汚れなんかが染み込まないようにしたいなぁ』って思いながら、木を撫でていただけらしいの。
木製のお皿なんかの表面に塗る防撥液っていう、身体に害のない水を弾く液体が市販されてるからさ、それを渡したんだけど。
魔道具にも使うことがあるから、ちゃんとアタシも持ってるわよ。
塗布の方法なんかを教えて…うん、完成したみたいね。
――耐久性なんかはこれからだけど…シンプルで良い道具だわ…。
アギーラがもし…もしもよ?もしも記憶を取り戻せなくても…ここに彼の生きていく道があると思うのよね…




