パケパ芋ノスケミンッチー
あはは、あはは…はは…は…
乾いた笑いはさて置き…いや、さて置いちゃいけない気はめっちゃしてるけど、私に何が出来るって訳でもないし…これはさて置くしかない…。
ブンカンは小さな村で、宿屋なんて洒落たものはないんだけど、村はずれの空き家を使っても良いって、人の良さそうな村長さんが言ってくれたもんで、ちょっとした布製品を賄賂に、空き家を暫くお借り出来る事になったの。
しかもお隣さんにミネラリアを代表するお菓子、カシュリを持ってご挨拶に行ったら、海の幸をたくさん持ってきてくれたのでーす!
カシュリはとっても日持ちがする、ミネラリアきっての名物砂糖菓子。すっごく美味しいんだよ!
包み紙も可愛いって喜んでくれた。これはね、アギーラの異世界ハンコ革命のなせる業なんだ。まぁ、ハンコ革命って言ってんのは私だけだけど。
ついでに追加でどうでも良い情報だけど…ハンコ、結構売れてるらしいっす。
植物に印字しても滲まないインクってのをアギーラが作ったもんだから、お店のマークがついたフワンフワの葉っぱで包んだ食べ物もよく見かけるようになったしね。
インクと言えば…で、イカスミをすぐに連想しちゃう私はただの食いしん坊。
そうそう、イカ。魚だけじゃなくってね、イカまでもらっちゃった事には正直驚いたわ~。
タコも普通に食べるんだってさ。あの見た目だし、イカタコを食べる世界なんて、地球くらいだと思ってたんだけどなぁ。
あ…もしかしたら、最初にイカタコ食べた人って、地球からの転生or転移者だったりして?
違うかもしれないけど、とにかく最初に食べた人に感謝したい。塩バター焼き、最高~!
◇◇◇
村の人達から情報収集したところによるとね、瘴気が大量発生した頃から、海の色がどんどん変わっていったんだって。
ブンカンの村の人はさ、みーんな海と共に生きる覚悟ができてるそうだよ。
「海が死んだら俺達も死ぬ。それで良いんだ…」って言って、みんな普通に生活してる。海沿いの町や村の人は、どこもそんな感じなんだってさ。
この異変から逃げたって…結局は、塩が取れないと人は生きていけないって事、知ってるんだろうね。
ダットンさんとバズさんはさ、海を一目見た時から、妙に黙りこくる事が多くなっちゃったんだ。
ただただ、恐ろしいって…。
ここには魔素が全くない。何も見えないって…。
この世界の自然のアレコレには、大なり小なり魔素があるって話だったでしょ?
魔素が見えてるらしい私の目だけどさ、何故か普通の自然界が、ずーっとキラキラして見える、なんて事はない。
魔素がたくさん溜まってる場所なんかが、キラキラして見える感じ。だからさ、私はそもそも海が魔素でキラキラして見えるって事はないんだけど…。
ダットンさんとバズさんは魔素が見えるらしいけど、私とは違うようにみえてるんだろう。魔獣の中の魔石が光って見えたりはしないんだって話だし。
二人にはどういう風に見えてるのかは分かんないけど…自然界の魔素も見えてるんだろうな。その二人が揃って、海には何も見えないって言ってる…。
あー、ゾワゾワする。はやく、ガイアさんに会いに行こう。会いに行っても何が出来る訳でもないけどさ…。
「ねぇねぇ、ガイアさんが戦ってるところって、ここから近いんだよね?」
「ここが瘴気から一番近い村だからね。近くの町のギルドから伝言を送るか、近くまで行って、ソウさんに飛んでもらって伝言を届けてもらうか…」
「ギルドの伝言だと時間がかかるよねぇ…」
「そうだね。まぁ、馬車で二日くらいとか言ってたから、ベルが走ればすぐだし…直接行ってみるってのもアリかな。僕は俯瞰でついて行くから…」
「えー、アギーラも本体で一緒に行こうよ」
「普通な僕を“本体”って言うのやめて…」
◇◇◇
「だ、大丈夫?顔が真っ青なんだけど…」
ダットンさんとバズさんもお誘いして、結局みんなでガイアさんに会いに行こうという話になって、まずは先発隊が出動。
隊と言っても一人だけどな!とか言いながら飛び出して行った半透明アギーラが、俯瞰から帰ってきたら顔が真っ青っていう不穏さよ。
「大丈夫大丈夫…びっくりしちゃっただけ」
「ヤバい感じ?」
「かなりヤバい。ここの…僕らが見てたこの異世界って割とほんわかしてたじゃん。そういう世界観ではないっていうか…」
「海も相当だと思ったけど…」
「海は禍々しいけどさ、静かっていうか…攻撃してこない感じっていうか…でも、瘴気は違う。あれは…好戦的な悪意を感じる」
「ふぅん…私達が行ったらお邪魔かなぁ」
「交代制で戦ってるみたいだし、休憩時間もあるって言ってたから大丈夫じゃない?邪魔にならない時間にちょろっとだけ顔出して帰ろうよ。ベルの事、ガイアさんすっごく心配してたからさ、一目だけでも会えたら安心すると思うんだ」
◇◇◇
「魔獣~獣、お断り~♪盗賊~獣、お断り~♪」
ここらへんは魔獣というより、イノシシみたいな獣の突進とやらが多いらしいから、獣多めにね。
遠い昔に聞いた事がある、石焼き芋売りボイスをイメージしましたよ。
「今日も吟遊ってるね~」
「本当に効いてるのかはわかんないけど、峠越えが無事に出来たもんだからクセになっちゃった。馬車の中なら誰かに聞かれる心配もないし」
「僕は戦闘能力ゼロだから、ただただありがてぇ」
「瘴気に近づくし…何があるかわかんないもん。いつものより念入りに…あ、そう言えばさ、ガイアさんに渡すマジックバッグには何が入ってるの?」
「シーラさんからのモロモロ~」
「ふぅん。まだ入る余地はある?私、食料追加しとこっかな」
そんな呑気な話をしているうちに、馬車はあっという間にガイアさん達が戦っているという地へ到着。
アギーラセレクトのちょっと離れた場所に小屋を出して、ダットンさんとバズさんにはそこに居てもらおうって事になった。パケパ芋ノスケミンッチーも小屋でお留守番ね。
言わずもがな、パケパ芋ノスケミンッチーとは私が名付けしてしまったオールスターズですヨ。
半透明アギーラがまたまた俯瞰でガイアさんを偵察しに行ってくれる。
「ガイアさん、休憩中みたいでテントに入っていったよ」
「チャンスチャンス!行こう!!」
ステルスマントを羽織って、アギーラとソウさんと共に、設営されているテント群にこっそりと近づこう作戦。別名、ノープラン。
「ここからは瘴気って見えないんだね~」
「休憩してんのに瘴気が見えてたらスッゲー嫌じゃんよ…。でもさ、ベルは何か感じたりするんじゃないの?」
「うーん。特に何にも感じないなぁ…」
「へぇ、そうなの?魔力感知が優れるから、何か感じるのかと思ったけど…」
「ホントに何も…あ、ガイアさんだ!」
◇◇◇
「無事に着いたな!」
「ガイアさーん、なんとか辿り着けました!」
ガイアさんや!ガイアさんやで!!
久々の再開を喜び合う。
「良かったなぁ。途中で色々あったって聞いて、肝が冷えたぞ」
「遅くなっちゃいましたけど、みんなで無事にここまで来られてホッとしてます」
30分しか休憩がないって話だから、サンドウィッチと薬草茶を渡して食べてもらいながら、ガイアさんとお喋り。薬草茶はホット。冷え冷えには慣れてないはずだからね。お腹を壊されたら困るもん。
「あぁ、美味い…生き返った」
「マジックバッグにはシーラさんから預かった荷物だけじゃなくって、ベルの料理もたくさん入ってますよ。ガイアさんが好きなやつ」
「やった!で、その…例の二人は、どうしてるんだ?」
「ここの近くにアギーラの小屋を設置してるんですけど、そこで留守番してもらってます」
「そうか。この状況じゃなきゃ、是非ともご挨拶したいんだがな」
「…瘴気、酷いんですか?」
「あぁ。嫌な話だが…前回より酷い、前回より酷い…って毎回毎回酷くなってる気がするよ」
毎回毎回。
徐々に。
日に日に。
同じような言葉がここでも…。
「そっかぁ…私達、暫くはここの近くのブンカン村に滞在するつもりです。とりあえずは今夜はこの近くに滞在して、明朝、戻る予定なんですけど、たまにソウさんに手紙を託すので、会えそうだったらソウさんに返事を…」
「ん?それなら今晩会えるぞ!」
「ホントに?」
夜ご飯を一緒に食べる約束をして、この場はお開き。
小屋に戻りながら、私の心はすでに夜ご飯~!
「JTルコッコの唐揚げとレディーキラーディアのハンバーグ…JTルコッコは団子スープの方が良いかな。ねぇねぇ、冷たいお茶とかお酒とか出しても良いと思う?お腹痛くなったりするかなぁ。この世界の人たちは冷たい飲み物に慣れてないだろうし」
「あのガイアさんがお腹を?ないない。うーん、食事は絶対喜ぶと思うけど…肉ばっかだね」
「だよね~。でもガイアさんって、絶対ハンバーグが好きだと思うの。食べ慣れたものが良いかなって思って、マジックバッグには入れなかったんだ」
「あれは食べたら絶対ハマる。あとさ、魚のフライにあのタルタルソースの…あれはどう?」
「いや~。海の近くだし、魚系は色々食べてそうだからなぁ」
「あんなに美味しいものは絶対食べてないと思う。だってテント暮らしだよ?」
「じゃぁ、フライも用意しようかな」
◇◇◇
そしてバタバタと用意をしているうちに夜になり…ソウさんに連れられてきたガイアさんが、小屋を訪ねてきた。
ダットンさんとバズさんともご挨拶して、とりあえずはとゆっくりお風呂へ入ってもらう。やっぱお風呂、大事よね~。
テントの横にはちゃんとシャワーブースがあって、衛生的な生活を送れてるって言ってたけど、ガイアさんも浴槽のスバラシサを知っちゃった一人。久々の浴槽からの誘いには勝てないのさ。
「さっぱりした~。さて…早速、話を聞こうか」
「まずは何か飲み物でも…お酒もありますよ?飲んでも良いのであれば…」
「…一杯だけもらおうかな」
「あ、僕が出すよ」
なんちゃら酒やらなんちゃら酒やらを棚からアギーラが出して用意を始めている。シーラさんの妊娠を機にこっちの小屋に引っ越してきたお酒たちなんだってさ。
「つ、冷たい!?お前ら…ま、魔道具を?まさか…」
「違いますって。ソウさんの氷をちょっと拝借して冷やしただけ」
「あーっ…俺、そんな事、考えつきもしなかった!ソウ、お前、なんで俺に教えてくれなかったんだよ!!」




