ツッチーリバーーース!
コーヒーの実ってさ…これ、ここからどうやったら、いわゆる飲み物のコーヒーになるんすかねぇ。
ゲットしたコーヒーの実。この量で、一体どのくらいのコーヒー豆が取れるのかも、全くわからん…。
是非とも実の中身を見てみたいんだけど、ここでやり始めちゃうと私の性格上、止まらなくなること請け合いだから、お預け中なんだ。限りある資源だからね、ここは慎重にいかないといかんのよ。
コーヒー…めっちゃ飲んでた割に、豆以前のアレコレは全くわからんという現実に、只今絶賛驚愕中でございます。
いやさ、豆の状態まできたならば、なんとなーくわかる気はしてるんだけど。…炒るんでしょ?そうだよね??
でもさぁ、この世界でコーヒーって言っても、私が知ってるコーヒーと同じかどうかも疑問な訳で…。
だって、私が想像してる場所より随分涼しい環境で育ってたんだよ?
いや待て…もしかしたら地球でも、案外涼しい所でコーヒーが育ってた可能性も…。
私の知識ったらさ、地球で言ったら地域的には赤道付近とか…そんなあやふやな情報が、ぼんやりとだけ。
しかも赤道付近ってどんなとこさって言われちゃうと、そんなん知らんがなっていう、ペラッペラな薄い情報オンリー。
異世界だし、地球のものと比べたらダメなのかもしれないけどさぁ、名前が同じ植物だと、植生も似てるんじゃないかって、ついつい思っちゃうのよね~。
でも、この世界では地脈うんぬんが、植物の育成状況に関係してる場合もあるだろうからなぁ。
鑑定で“NONAME”って出なかった時点で、この世界には認識されてる植物なのは確かなんだけど…詳細情報はほとんど出なかったんだよ。
恐らく私の鑑定レベルが低いからなんだろうけど…もうね、わからん事尽くしっすわ。
いや待てよ…コーヒーってさ、元々は薬カテゴリーじゃなかったっけ?
コーヒー誕生秘話…ペットボトルのパッケージに、確かそんな豆知識が書いてあった気が…。
ま、読んだ気はするけど、全く内容は覚えていないがな。フハハハハ。
あれ?あれは…コーラだったかな。コーヒーの話ですらなかったかもしれん…。
薬かぁ…そう言えばさ、カカオも大昔は薬扱いじゃなかったっけ?
‥‥‥。
えーっと、来世があったなら、あらゆる製品のパッケージ裏に書いてある、歴史やら小話やらのミニ雑学を、一字一句見逃さない人間になりたいわね。びっくりするほど、何一つ覚えてないのが逆に潔くて嫌いじゃないけど。
でもやっぱ、両方とも薬だったという歴史があった気がするんだけどなぁ。グリンデルさんに聞いたら、何か知ってるかもしれないよ。
うん、暫くはこのままマイ収納に保管しておこう。
今はとにかく実よりさ、このコーヒーの木とカカオの木を枯らさないように、しっかり注力したほうが良いよね。
でも、この木もなぁ…これ、どうしたらいいんだろう。
普通に日光浴と水だけで良いのかなぁ。
あーぁ、植物を育てるのってホント難しい。脳内会議が止まらんぜよ…
<お呼びでしょうか?>
一人コーヒーサミットを繰り広げていたら、クロノスケの頭の上でぴょんぴょんと跳ねて、激しく自己主張している土の妖精さんと目が合った。
「え、私?呼んでないよ~」
<いいえ、お呼びですね!おいらの力を必要としているのですね!!>
「いや、本当に呼んでないんだけど…あ、そっか、土の妖精さんかぁ…」
<そうなのですそうなのです。ささ、おいらに悩みを打ち明けると良いのです!>
◇◇◇
<この子達を育てていきたいのですね>
「枯れてはいないから、私的には一応セーフって事にしてるんだけど…どうかなぁ?」
<ふむ…悪くはないのです。クロノスケ殿の木と同じく…魔素がとても上手く巡っている状態なのです。イズミン殿も目をかけているようなので、水分調整もとても良いのですが…>
「…何かが足りてない?」
<そうなのですそうなのです。でも、このままでも暫くは枯れはしないのです>
「そうなの?良かった~!どこか落ち着ける場所で育ててみたいのよ。でも、それまでこの移動生活に耐えられるか心配で…いや、その先ももちろん不安なんだけど…」
<それならば!おいらに、この子達もお世話をさせて欲しいのです。土から必要な栄養を取ってくるのです>
「えー、それは悪いよ~。ツッチーはクロノスケ担当だしさぁ」
<ツッチー…?>
あ、まずい!…光が…黄色い光が小指に…ぎゃーーー!
◇◇◇
「ごめん、ごめん、本当にごめんなさい。と、取り消しとか…は、出来ないってケサラとパサラが言ってたから…ツッチーリバーーース!」
――しーん
うん、ちょっと意味が違ったかもしれん。しかもこれじゃなんだか壮絶な飲み会後っぽいし…ええとええと…
「時よ、戻れ~!!」
――しーん
おおぅ…叫んだ後の見事なる静寂にちょっと赤面してまうやないか…。
<良いのです>
「良くないよ。勝手にこんな事、絶対に良くない。ほらこれ…この小指にさぁ…。うわぁぁぁぁん、ごめーん…」
<本当に良いのです。そもそも…嫌だと思ったら、名前が付く事はないのです>
「ううう…ごめんなさい。ついうっかり…ん…んん?…名前が付く事はないって…どういう事??」
<誰でも彼でも呼ばれたならば、こうなるという訳ではないのです。もし嫌だったら拒否すれば良いだけなのです>
「そ、そうなの?みんなの事、勝手に呼んで、勝手にこうなっちゃってたから、つい…私が一方的になんかしてるのかと思ってた…」
<違うのです。これは…相思相愛の証でもあるのです!>
なんかようわからんけど…よ、良かった…
って、思う事にしよう…うん…
◇◇◇
「海だ海だーーー!」
「異世海に来たぞー!」
‥‥‥。
「って…あれ?」
「なに…これ…」
はーい、ここで質問です!
あなたの知ってる海は何色ですか?
こちらの海、アギーラ曰くの異世海は…。
どどめ色っちゅうかなんちゅうか、紫中心のマーブル模様。例えるなら、ぶつけた時に体にできる痣の色。もうさ、完全なる毒沼でしょうよ、これは。
「嘘だぁぁぁ!せっかく遠路はるばる見に来た異世海がぁぁぁぁぁ、こんな訳あるもんかー!!」
「なんでこんなに禍々しいねん!なんやねん、なんやねんこれはっ!!」
「お嬢ちゃんたち、海は初めてかい?」
海を見てギャースギャースと大絶叫する私達。
とんでもなく凶悪な顔つきで吠えまくる私達に、見知らぬおじいさんが勇敢にも声をかけてきた。
ここは異世海を一望できる村、ブンカン。ジネヴラ国、バルハルト辺境伯が治める領地にある小さな村。ガイアさん達が日々戦ってる、例の瘴気がある場所に一番近い村なんだ。
小さな村だからね、町みたいにやれ身分証をみせろだのなんだのって、誰も言わないのをいい事に、ワタクシも堂々と入村してしまいましたよ。
村人曰く、悪い人はこんな辺鄙なところまで来ないとかなんとか。
だからかな、海を見て何やら叫ぶ、ただただ危ない人っぽい私達を見ても、呑気に話しかけてくれる第一村人なおじいさんから、色々と話を聞くことが出来たんだけど…
「うん、初めてみたの。でも…色がね…こんな不気味な色だとは思わなかったぁぁぁ」
「そうだよなぁ。昔はそりゃあ美しかったんだぞ」
「昔はどんな感じだったの?」
「そりゃ青い海っつぅくらいだから。水は透明で…それが徐々に色がな、こんなになっちまった…」
「魚は?海の幸は獲れないの?」
「いんや。普通に獲れるし、普通に食える。わしは漁師やっとるぞ」
「この海で取れたお魚が…食べられるの?い、今も?」
「わはは。みんな、毎日食っとるわい」
「そ、そうなんだ…」
禍々マーブル毒沼産海の幸、あなたは食べる事ができますか?
私はもちろん…
◇◇◇
「う、うんま~い!」
「美味しい!こっちの魚も、めっちゃうまい~!!」
「こっちのイカ焼き食べた?最高~!」
「醤油くれ!誰か醤油を作ってくれ!!」
「塩バター様に文句言うな!」
毒沼の件は一切無視して食べてみた結果、海の幸はめっちゃ!美味しかったー!!
大丈夫よ、ちゃんと鑑定もしたし。
異世海はこういうもんだと思えば気にならないもん。
‥‥‥。
嘘です。
めっちゃ気になるっての。なるに決まってるでしょ!
それにしてもおかしいなぁ。海から水が流れ込んでるはずの川は、どこも普通の色だったのに。
それにさ、自然な茶色っぽさは多少あるけど白い海塩。それがこの毒沼から出来てんのって…不思議じゃない?
第一村人のおじいさんは、海の色は徐々に変わっていったって、日に日にその色は濁ってきてるんだって言ってたな。
徐々に。
日に日に。
って事はさぁ…これからどんどん禍々マーブル毒沼色が酷くなって、そのうち川の水も海塩も、さらにはこの世界全てが毒沼色にのみ込まれて…。
なーんてね。
あはは、あはは…はは…は…
誤字報告、ありがとうございます!




