異世界無意義転移転生者疑惑
大きな町の近くに馬車が一時停止。
ここでいつものように、私とパケパ芋ノスケミンとソウさんが馬車から降りて、他のみんなは町中へと入って行く。
だが、しかーし。今日はここからが一味違うのだ!
「今日こそは、私も町に入るぞー!」
右側、町の外壁に沿って…あ、ここだ!
外壁が崩れて、そのままになっちゃってる場所があるってアギーラから聞いてたんだもんね~。
――ガサゴソガサゴソ
これ…ちびっ子、すり抜け放題じゃない?
周りに人目は…ないわね…。
いたずらっ子ホイホイ的なトラップの一種かと思ったけど…へっへっへ、余裕余裕。
苦節…何日目かはちょっと忘れたけど…逃亡生活の果てに、とうとう町に入る事が出来ましたよぉぉぉ!!
いっぱい買い物するぞ!
いつもアギーラが買い出ししてきてくれてるけどさ、やっぱ自分でも買い物したいじゃん。
だって外国だよ!旅行に行ったらやっぱ買い物したいでしょ?
露店を冷かして、屋台飯食べて…それでそれで…今日は宿屋に泊まるんだ~!
これからの予定を妄想しつつ、ギルド前集合って事になってるから、露店を出しているおじさんにギルドの場所を尋ねれば、町の中央にあるとの事。
大抵、町の真ん中にギルドがある事が多いからさ、ギルドって待ち合わせに便利なのよね~。
おじさんが指差した方角にぷらぷらと歩いてしばし…。
ギルド前には、既に馬車を預け終わったアギーラ達が待っていた。
ギルドのレンタル馬車は、行く先々の町にあるギルド管理の厩に預けられるから便利なんだってさ。
「久々の町にテンションあがるわ~。どこ行くどこ行く?」
「とりあえず宿を先におさえようよ。ダットンさんはずっと御者席だったから、疲れてるようなら宿屋で休んでてもらっても良いし…」
◇◇◇
「すっごく狭い」
「いやいや、これが普通だし。主従コネクティングルームの従者用を一人で使うんだから、文句言わないの」
「一人じゃないもん、パケパ芋ノスケミンと一緒だもん」
「はいはい。荷物置いてからさ…ベルは荷物ないんだった。少し休憩する?それともこのまま町に出てみる?」
「すぐ行く!」
宿を無事に押さえる事ができたので、早速ぶらり町散策タイム。アギーラはダミーの大きなリュックを背負っていくらしい。
私はいつものナップサック。髪留めに擬態しているケサラとパサラ以外inナップサックで行こう。
バレないとは思うけど、ダットンさんとバズさんには光って見えてるんだもん。他にも見える人がいてもおかしくはない。ここで目立つ危険は冒せないから、みんなには我慢してもらうしかない。
あと…クロノスケは、私が抱っこして行こうかな。
ワンコ飼ってる人とか見た事はないけど、人が抱っこしてる犬にイチャモンつける人なんていないだろう…たぶん。
「ダットンさんとバズさんはどうします?宿屋でゆっくりしていても良いですし…」
「「行く!」」
若干食い気味に答える二人。
わかる、わかるよ~!
◇◇◇
「うわ、本当に海塩安いね。ずっと1000円で買ってたものが、ここでは100円的な…」
「円で言わない!そう言えばさ、ミネラリアの孤児院って、塩だけでも食費が大変だったんじゃないの?」
「あれ?話さなかったっけ。孤児院の食費って国から支給されてるんだよ。一応国営だし、塩が高いからって支給されないって事はなさそうかなぁ…。むしろユスティーナの食堂とか屋台とかが大変そう」
「どうだろ。そこらへんは上手くやってんじゃないの?この国でも屋台飯を買ったけどさ…ユスティーナより味付けが濃いって事もないし。バレないように上手く仕入れてるんじゃないかなぁ」
「馬鹿正直に、正規の値段で海塩買って商売してたら商売にならないよね。食べ物の値段もあんまり変わらないし」
「海塩は国の管理だって話だけど…ユスティーナ国もさ、もうちょっとまともな価格で海塩を売れば、みんな正規で買うだろうに。利益だって結果的には増えるでしょ?」
「どうなんだろう…色んな所で利権が絡みあっちゃって、変な事になっちゃってんじゃないの?」
「あー、ありがち~」
「目立たない程度にちょっとずつ買っていこうよ。アギーラもほら、バッグがあるから荷物にならないし、腐らないし。塩って…そもそも腐らないんだっけ。海塩はどうなんだろ?あ、あっちにも食料品の露店があるよ!」
「腐る腐らない関係なく買いたいだけじゃん!」
「気分大事に!」
「命大事に!的な?」
「おや、結構古いゲームネタをご存じで」
「ゲームは全部好きだから」
「アギーラはさぁ、転移してくる前はどんなゲームにハマってたの?」
「どんなって…最後にハマってたのは、みんなで一緒に戦う系のやつだけど…」
「知らない人と一緒にプレイするやつ?疎くって全然わかんないけど…そういうのって恐くない?」
「そういうゲームもあるけど、僕はリア友とパーティ一組んで、一緒に戦う感じのゲーム専だったなぁ」
「あー、すっごい流行ってるやつがあったよね…社会現象にもなって、ニュースとかでもちょくちょく取り上げられてたやつ…」
「それそれ。それにどっぷりハマってたのが僕」
「なんだっけ…セカイジュがどうしたこうした…」
「それ!護り人シリーズ。ほら、例の白玉さんプロデュースのゲームだったんだ」
白玉さんはね、ゲームクリエイターの第一人者なの。私が最後にネットで読んだ時にニュースになってた人達…老衰だけどほぼ一緒に亡くなってたっていう作詞作曲家夫婦の息子さん。アギーラが尊敬してやまない人なんだってさ~。
おしどり夫婦で有名だった人達の子供さん。なんちゃら夫婦アワーで、終身名誉おしどりに任命された作詞作曲家夫婦かぁ。あの時に見たニュースが私にとっては最後の地球、日本の情報になったもんだからさ…なんだか色々と忘れられないのよねぇ。
「そのゲームって、確か、モンスターと戦うやつだよね?」
「うん。異世界に来ちゃった主人公がお宝見つけながら、町を救ったりお姫様救ったりとかのクエストこなしてスキル上げて、最終的にその世界にあるセカイジュを押し寄せるモンスターから守って~ってやつ。国盗りゲーム的な要素もあって面白かったんだ」
「じゃぁ、この異世界に来た時さ、テンションあがったでしょ?」
「最初っから非力感全開だったのに?むしろテンション駄々下がりだよ。それにさぁ…戦うとか、ゲームだから良いんだってば。実際に戦って怪我したら、めっちゃ痛いし血がドバァって出るんだよ…しかも臭いとかするし…絶対無理」
「まぁ、戦闘狂じゃない事はわかるけど…そんなもんかねぇ。ゲーム好きならたまらんでしょ?」
「ありえない。これだよ?この弱者ビジュアルだよ!戦いたいなんて思った事もないからね」
「確かに。この世界に飛ばされた意図すら、未だにわからんけど…」
「我ら二人は確実に非戦闘員」
「からの~、異世界無意義転移転生者疑惑…」
「だよなぁ。何の為にここにいるのかちっともわからん。まぁ、もう今更、女神降臨とか神様からのお願いとかされて、色々言われても困るけど。ゲームじゃ、最初から戦闘スキルがガッツリあったんだけどなぁ…」
「アギーラ君、これが世知辛い現実ですよ…」
「そう言えば、そのゲームのキーアイテムでさ、エルフ族グリンってキーパーソンの作る薬草茶ってあったんだけど…特別なポーションみたいな感じの位置づけで、チートアイテムみたいな。グリンデルさんと初めて会った時に思い出しちゃって、ちょっと感動しちゃったっていう…」
「エルフって緑のイメージあるもんね。森との共存種って感じで…緑→グリーン→グリン的な…」
「グリンデルさんは違うかもしれないけど、ゲームの方はそうなんだろうね。でも、ゲームの事を思い出した時に、妙にこの世界にハマる事があるなって…あ、ダットンさん達が戻って来た!」
「うわぁ…バズさんめっちゃ買い食いしてる…」
◇◇◇
「昼間、ゲームの話なんかしたせいで、ゲーム音楽が頭を離れないんだけど…」
「あー、あるよね~」
屋台飯を買い込み&買い食いしながら、宿屋に戻ってそろそろ就寝しようかという時刻。私が使っている小さいほうの部屋にアギーラが訪ねてきた。
訪ねてきたって言っても、扉一枚で部屋がコネクトされてるだけだけど。鍵もかけてないし。
「ダットンさんがもう寝てるからさ、ここで思いっきり一発鼻歌させて」
「あー、どうぞどうぞ」
「♪デデッデッデデ、デデッデッデデ、タラリラタラリラ、ふんふふんふ~ん♪…」
あ、その曲知ってる!CMで流れてた!!
「いやー、すっきりした!ありがとね。おやすみ~」
「おやすみ~」
まじで歌だけうたって戻りおったわ…。
さーて、私も寝よっと。
――デデッデッデデ♪
‥‥‥。
――デデッデッデデ♪
これは…私も頭から離れなくなったってやつじゃなかろうか…。
――デデッデッデデ♪
眠れない…明日も朝早いのに…。
他の事を考えるんだ!
違う、眠るんだ!!
――デデッデッデデ♪
アギーラ…あんにゃろ…。
――デデッデッデデ♪
アギーラが言ってたけど、野球の…ブラックウルフの応援歌も、その白玉さんのご両親である終身名誉おしどりなご夫婦の作詞作曲なんだってさ…。
――おおお ブラックウルフ♪
やばい…ゲーム音楽から連想的に、球団応援歌に脳内チェンジしてしまった。
――おおお ブラックウルフ ブラックウルフ♪
ダメだ…歌詞があるだけによりくっきりはっきりしとる。
ますます目が冴えてきたぞ。
――今こそたぎる 力を見せよ♪
家の近くにあった大型スーパーがさ、球団協賛なんだか球団関連だか知らんけど、エンドレスにこのブラックウルフ応援歌を店内放送しまくってて…。
――誰にも渡さぬ 熱き想いを この胸に~♪
こちとらすっかり覚えてんねん…ファンでもないのにな!
――譲れぬ誇り 勝利は我に~♪
ダメだこれ…全然、眠れない。
もう2時過ぎじゃん…。
あ、この町にはキラキラがないか確かめてみよっと。時間も良い感じだし…。
――おおお ブラックウルフ ブラックウルフ♪
お、クロノスケが起きてきた。よーし、一緒に歌おう!違う、一緒に見てみようね~!!
クロノスケを抱っこして、二人で王都を見る。
「♪我らが女神 星々の瞬き~♪今こそ誇る 証を見せよ♪誰もが欲する 熱き血潮を この胸に~♪」
うーん、この町にもないみたい。
結局、ユスティーナの王都以外では見かけなかったキラキラ。ジネヴラの町や村には、どこにもそんなものはなかったし…ユスティーナだけの現象だったり…するのかな?
わからん。
「♪猛者の雄叫び 勝利はクロノスケに~♪…なーんちゃって。ほら、クロノスケも寝るよ~」
寝よ寝よ…
――デデッデッデデ…
――おおお ブラックウルフ ブラックウルフ♪
そしてゲームと野球の熱い脳内コラボが、今、幕を開ける…